死の蠱惑その1
EP2 episode of Paine の世界へようこそ。今回も極上の事件をご用意させて頂いております。物語も前菜が終わり、いよいよという時です。新たな舞台、精神世界が加わり、まさにここからが本当の戦いとなります。ちなみに、あなたは犯人を推理する必要などありません。これは元よりアンフェアな勝負です。あなた方はただ、犯人達の引き起こす、「魔法」という名の超能力による殺人の数々を、最後まで見届ければ良いのです。難易度 A(極悪)
「ふふ、来たわね。脳髄ぶちまけたい奴から、掛かって来いよ」
棗は、生気を失った死者の群れに向かって叫んだ。そして、彼女の持っていた消火器は、当然、巨大な大鎌へと姿を変えた。
「うりゃああああ」
ズバズバッと空を断つ音を立てながら、死者どもの首が胴体から千切れ飛んで行く。
「ウオオオム」
死者の第二陣が、棗の頭上目掛けて飛び掛かる。彼女はそれを避けると、再び、大鎌を振り上げて、愚物の群れを真っ赤に染めて行く。
優は病室の窓から、外を眺めていた。転校早々入院する学生なんて、彼を除いて他にはいないだろう。クラスメイトの見舞いは、最低でも、授業が終わる、14時30分以降となる。故に、午前中は死ぬほど退屈だった。彼は病人では無いから、格別気分が悪く、横にならなければいられないわけでは無い。寧ろ、脇腹を刺された程度の怪我で、寝たきりにされれば、体力が有り余って仕方無い。
「何で、お昼の番組ってこんなにつまらないんだろう」
どれもこれも、主婦向けの下らないバラエティーや昼メロばかり。こういう時、ケーブルテレビのありがたさを知るのだ。曜日や時間に囚われず、好きな番組をとことん見れる。それは地上波では得られない楽しみがある。
「坊っちゃん、見舞いに来やした」
強面の黒スーツこと、テツが現れた。彼の手には一枚のカードが握られていた。
「テレビカード。略してテレカですぜ。この病院、セコいから、このテレビカードを購入して、テレビに差さなきゃ映らないんです。しかも、一枚につき、一時間しか使えないから、ほら、何枚も購入する羽目になりやした」
「あはは、テツ、ありがとう。でも、僕、テレビ見ないよ」
「へへ、そう言わずに、てか、これ、1チャンネル専用とか4チャンネル専用って、一枚のカードで一つのチャンネルしか見れないようです。クソ、舐めてやがる」
一枚のカード相手に悪戦苦闘するテツを、優は微笑ましげに見ていた。そして、今度は急に寂しそうな顔になった。
「叔父さんは?」
「生憎、お仕事の都合で、見舞いには来れません」
「そう・・・・」
「あ、それより、お昼の薬は飲みましたか?」
「ううん、これから飲む」
テツはコップに一杯水を汲むと、毒々しい紫と白のカプセルを三錠、優に手渡した。
「ありがとう」
優はそれを一気に口に詰め込むと、そのまま、グイッと、喉を鳴らしながら水を一杯飲み干した。
「もう寝る」
「ええ、ごゆっくりお休み下さい」
テツはそのまま病室を後にした。
優が退屈な午後を満喫していた頃、棗は眠気と戦いながら、5時間目の国語という、殺人メニューに耐えていた。
「うう、辛いよぉ」
「ちょっと、棗、こっちに寄らないでよ」
自分の肩に持たれ掛かって来たのが、よほど不愉快だったらしく、櫻は教科書の角で、彼女の頭を何回か叩いた。
「いだ、角は反則だよ」
「うるさい、授業に集中できないでしょ」
楓は後ろの席から、二人のやり取りを見ていたが、最近の棗はどうも様子がおかしいと思う。躁状態とでも言うのだろうか、わざと過剰に明るく振る舞うことで、何かを隠している気がする。それは、彼女と長い付き合いである、楓しか気付けないこと。彼女はあの日、棗から相談があると言われ、優の入院している欅病院の屋上まで足を運んだのだが、結局、彼女は何も話すことは無かった。
それぞれが暗澹たる日常を享受している中、第二のゲームが幕を開けようとしていた。それは、町外れの雑居ビルの屋上から始まる。
「もしもし、ああ、分かってるぜ。今から始める。種も仕掛けも無い魔法をな。ところで本家は何て言ってる。何、好きにやれだと。ソイツは都合が良い。早速、六人分の死体を用意するぜ。第二のゲーム幕開けだ」
男は携帯を耳から離すと、パチッと指を鳴らした。そして、その次の日、女子高生引き裂き事件から大して日が経っていないというのに、また新たなる事件が、世間を騒がせることとなった。それは、同じ日に相次いで発生した、若い男女の飛び降り自殺である。場所は町外れの雑居ビル屋上。何の繋がりも持たぬ、男女六人が、誘われるようにビルの屋上まで足を運んで行くと、そのまま、何を思ったか、アスファルトの地面目掛けて、命綱の無い、バンジージャンプを決行したのだった。これは明らかに、警察への挑戦状である。そして、鬼塚と藤田はすぐに動き始めた。自殺か殺人か、組織ぐるみの犯行か、それとも・・・・。