表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
彼氏彼女と殺人鬼~君の望んだ世界~  作者: よっちゃん
episode of first time 
12/48

魔法の射手その12

 車を出た優は仲間達の元へと戻って行った。そこにいる誰もが、優に心配そうな目線を送っており、彼ら、彼女らの腹は分からないが、もしかしたら、信じても良いのかも知れない。仲間なのかも知れないと、優の心は少しだけ揺らいだ。しかし、それはすぐに別の不安によってかき消される。あの事件のことを知れば、きっと、皆は手の平を返したように、自分と縁を切るに違いない。その強迫観念が、彼がクラスに溶け込むことを阻害していた。


「ね、ねえ、檜山君」

 あまり口の利いたことの無い椿が、不安そうに眉を落として、優に声を掛けた。黄色のカチューシャとおかっぱ頭が可愛くて、とても同い年とは思えない。また、彼女の雰囲気からは、自分に似た、消極的な部分や弱さを感じたので、少なくとも棗や公平よりは、自分に波長の合う人物だと思えた。

「警察の人と、何話してたの?」

 透き通るような声で、椿は確信に迫る質問をしてきた。彼女らしからぬストレートさに、普段はデリカシーの無い棗も、それは聞くなと、彼女を止めている。しかし、そうやって気を使われる時点で、皆が自分に対して、疑念を抱いているのは分かったので、優はさっき脳裏をよぎった、仲間という単語を打ち消した。


「ふふふ、もう良いか」

 優は自虐的に嗤った。それは諦めにも似た卑屈さを内包していた。彼は溜息を吐くと、かつて無いほどの真剣な眼差しで、ここにいる5人を見回した。

「これから話すことは、きっと君達の僕に対する見方を大きく変えてしまうことになると思う。僕はそれが怖くてずっと黙っていたんだ。でも、もう話すよ」

「そ、それは、俺達を仲間だと思ってくれるということか?」

「違うよ。この話をすれば、もう、君達が僕に関わろうとしなくなるから、清々するなって思ったんだ。僕は君達が好きだ。とても良い人達だと思う。でも、僕とは合わない。汚れた僕とはね・・・・」


 優は眼を閉じて話し始めた。ここに来る前の自分の境遇を、学校を何度も転校し、転校するたびに暴力事件を起こしていた自分のことを。それ以来、人と深く付き合うことに恐怖を覚えるようになったことを、カウンセリングで話したことと同じ内容を、クラスメイトに聞かせた。人に弱味を見せることができる人間こそ、本当に強い人間だと言うが、そういった意味では、彼はとても強靭な精神の持ち主なのかも知れない。今、この瞬間、彼はここにいる友人を全て失っても構わないと思っていた。事実、この話を聞いた人達は皆、優のことを避けるようになった。


「ふふ、どう、こんな身近に異常者がいたなんて驚きでしょ?」

 優は文字通り優しい人間であるし、基本的には善人である。しかし、長きに渡る歪んだ生活は、彼の人格さえも歪めてしまった。彼は人に嫌われようと努めるのである。心を許した相手から裏切られるのは辛い。ならば、自分から親密にしなければ、裏切られることも無い。それが彼が、短い人生で学んだ、人付き合いの仕方だった。


「けっ、残念だぜ。俺がそこにいればよ、一緒に大暴れできたのに」

公平は笑いながらそう言った。その言動に棗も頷いた。そして、彼に続いて言った。

「あたしも参加したかったわ。金属バットで苛めっ子をフルボッコだなんて、超クールじゃん」

優は二人の反応に戸惑っていた。正直、こんなポジティブな捉え方をする人間を初めて見たのだ。彼としては、安心よりも戸惑いに近い。すると、それをフォローするように、椿が優の耳元でそっと囁いた。


「実はね、ここにいる人達も皆、凄い伝説を持っているの。だから、あなたのは正直、そんなに大したことじゃない」

「で、でも。僕の話を聞いた人達は皆、僕を避けたよ」

「多かれ少なかれ、ここにいる私達も、色んな経験をしてきたの。あなたと同じように、聞いたら引くようなことも一杯ね。だから大丈夫だよ」


椿はニコッと微笑むと、優も少しだけ安心した。もしかすると、過度な期待はしないけれど、ここでなら、自分は上手くやれるかも知れない。彼らと本当の友人、仲間になれるかも知れない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ