裸木 祐樹の事
私には能力がある
しかしだからと言って私はその能力を
正義の為に役立てようとも思わないし、
はたまた悪事に利用し、世界を征服しようとも思わない。
それは自分の事で精一杯だからだ。
他人の事まで構っている余裕はない。
と言えば、聞こえはいいが、実際は私がこの能力を
制御できない事、そしてこの能力自体があまりにも……
この能力に最初に気がついたのは私の親だ。
それは生後間もない私に、赤子用の可愛らしいお洋服を
着せた時の事だった。
まだハイハイもできないはずの私は、
親が一瞬目を離したほんの数瞬の内に、いつのまにか
その衣の一切を脱ぎ去り、文字通り生まれたままの姿をみせていたのだ。
お洋服は、なぜかショップ店員の服のたたみ方のそれで、傍らに置かれていた。
親も初めのうちこそそんなことあるはずがないと、
幻覚や、一時の気の迷いのように考えていたが、
度々そんなことが起こるので、私のこの能力を認めざる負えなかったようだ。
しかしその後、有名な大学病院や研究施設、はたまたお祓いまで
縋るように解決方法を探したが、全ては無駄だった。
私が物心ついてからは、。
許可なく一切の外出を禁じられ、学校も通信教育という
徹底した環境で、正に箱入り息子として育った。
しかし、当然の事ながら、私は外の世界に憧れを禁じえなかった。
その思いは日に日に膨れ上がり
私を行動に掻き立てた。18になるころには夜な夜な抜け出し、
寝静まった外の世界を歩きまわった。無論、服は脱げた。
そんな日々を繰り返す内に、遂にあの事件が起こった……
「キャーーーーッ!!!変態!!」
「おまわりさん、あそこです!」
夜の闇の中、私に照らされる光
「お前か!最近巷を騒がせているストリーキングの犯人は!」
ムム!どうやら私の格好が誤解を招いてしまったようだ
「違う、聞いてください、誤解だ!これには深い訳があるんです。
私は紳士です!」
「変態に限ってみんなそう言う、まあそういう事は
署にきてからゆっくり聞いてあげるからね」
結局私の言い分は聞き流され、わいせつ物公然陳列罪として
処されてしまったのだ。
その事件から二年後、私は人目に触れず、自宅でも出来る
仕事としてプログラマーを選び、一社会人として生活することが
できている。そして最近、「ソーシャルオンラインゲーム」という新たな
コミュニティの場に興味を抱いた。
そこではネット上で自分に置き換えた好きな顔、体を選び、
ここからが重要なのだが、好きな服を着せられる!
わたしはこのゲームに大いに期待を寄せた。
そして数多く存在するゲームから、FF14を選んだ。
そして私の期待はことごとく裏切られた。
なんと私の能力はネット上でも有無を言わさず干渉するらしい。
着せた装備は次から次へと脱ぎ散らかされた。
何かのあてつけなのか、一部分モザイクは残っているが……
そんな訳で私はまたしても絶望に打ちひしがれた。
私はクエストもこなさず、ただその場に茫然と立ち尽くしていた。
そばを通る周りのプレイヤー達は、私を荒らしか何かだと思うのだろう、
半径5m以内にすら近寄ってこない。いいんだ、慣れている。
しかし、その時だった。一人の召喚術師が私の元へと近寄ってきた。
「あ…あの……どうしたんですか?その格好
新手の縛りプレイなんですか??」
そう、それが私とKaseto Rteとのファーストコンタクトだった