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「よお……昨日は散々好き勝手やってくれたみたいだなぁ」

「それはこっちのセリフだよ」

 黒岩剛と赤崎蓮、両者は互いに睨み合いから始まった。

「まるで負け戦の跡だな。派手にやったな、おい。そっちはもうやる気満々みたいだな。いいぜ、こっちも昨夜邪魔されてイラついてんだ。ブチのめしてやるよ。テメエみたいな濃い奴に見覚えもねぇし、元クラスメイトだか何だか知らねえが調子コキやがって」

 そう言うと赤崎蓮はギラギラと殺気だった目をして、空いている方の手で挑発するように手招きをした。

「こっち来いよ。オレが本気出したらここで倒れてるダチどころか、館の中の領主や執事、メイドも巻き込んじまう。どうせなら気兼ねなく全力出せる所でやろうぜ」

「いいよ。願ってもない誘いだ」

「よーし、裏手はろくに人も来ない荒地だ。そこでケリつけるぞ」

 赤崎蓮が軽やかに地面を蹴ると、フワリと空へと飛び立った。大きな翼が羽ばたき、火の粉が空に舞い散る。黒岩剛は自重を元に戻してその後を追った。

 屋敷の裏手は荒涼としていた。丘を下りた先には転がる岩と切り株、そして見渡す限りの茶と黄土色の大地だった。

 その中心に二人は離れて降り立った。

「さあ、ここなら遠慮はいらねえ。存分に暴れるとすっかぁ! ははは!」

 そう赤崎蓮が言い放つと同時だった。

 剣を持っていない左手を前に突き出す。詠唱すら必要とせず、ノータイムで火炎が放たれた。

 不意打ち気味の先制攻撃。トラックをも飲み込む炎の奔流が疾風怒濤と襲い掛かる。

 だがその炎は俊敏なサイドステップで跳んだ黒岩剛の傍らの空白を貫くだけだった。

「……」

「へえ、デカイ亀のクセに中々素早いじゃねえか。じゃあ次はこいつだ」

 自らの周囲に無数の火球を生み出す。ソフトボール大のそれは小さな鳥の姿となり、一面の弾幕となって前方左右から黒岩剛へと殺到した。

「まだまだあるぜ!」

 火球を上空へ打ち上げ続け、シャワーのように降らせる。

 激しい音と光が連続して炸裂する。

 その一つ一つが爆弾をバラ撒いたかのような暴威を奮った。先ほど相手をした木場達の魔法とは威力が余りにも段違いだった。

 大量の土砂が舞い、静寂だけがある。

「……へっ、まあそうだろうな。このくらいじゃあやられねえよなぁ……玄武っていうくらいだし、さぞ硬いんだろうよ!」

「……」

 土煙が収まった後、巨漢の姿は依然変わらず立ち(そび)えたままだった。それを当然とばかりに赤崎蓮は余裕の笑みで迎える。それも当然だ、彼にとってこの程度肩慣らしにすぎないのだから。

 黒岩剛は無言。何かを吟味しているかのような神妙な顔で赤崎蓮を見つめている。

 やがて、ゆっくりと口を開いた。

「これで終わり?」

「…………は?」

「この程度の炎しか出せないの?」

「なっ……!」

 あまりの上からの物言いに、赤崎蓮は一瞬激昂しかけるもすぐに平静を繕った。

「いいぜ、折角手加減してやってたってーのに……本気でやってやるよ。いきなり消し炭になっても文句言うなよ」

「そんな心配はいらないよ」

「へえ、よっぽど自信あんだな――バカが」

 ここで初めて赤崎蓮が剣を持ち上げる。

 それは片刃の直剣だった。柄には赤い紐飾りと炎を纏う朱雀の意匠が彫ってある。剣は唐大刀に近く片手で扱える細目の刀身で、切っ先は彫刻刀の切出刀のように長方形を斜めに切り出したような形をしている。

 刀身は灼熱の輝きを帯び、振るう度に赤い煌きが残像となり、発する熱が刀身周辺の景色を歪めていた。

「これがオレの第一護神武装『赤宝朱雀剣』だ。使徒がその身に宿すとかいう神の力を形にしたもの……って偉いやつが言ってな。これ出せるようになって使徒として初めて一人前だってよ。勿論お前も出せるんだろ? ほら、出してみろよ。出せないわけねーよな?」

 第一護神武装。それは使徒が己の内から生み出す武器。神の司る力、神格を宿した神器だ。

 例えば朱雀であれば炎、玄武であれば水、ゼウスであれば雷というように、第一護神武装は神を表す神威を奮う事ができる。

 この武器を介する事によって使徒は神の力をより強力に、より簡易に、より多量に引き出し操る事ができるようになる。要はブースターだ。

 今それを解放した赤崎蓮は朱雀の使徒としての威光を身に纏っていた。

 赤宝朱雀剣を中心に今にも爆発しそうなエネルギーを持て余し、身体から漏れ出す炎はプロミネンスとなって周囲に噴出している。彼から放射される熱量はまるで山火事の如き勢いだった。

 偉大なる神の力、それを前にしたただの人間は己の矮小さを思い知らされるのに十分である。

 だが、黒岩剛の表情は変わらない。

 迸る朱雀の使徒のプレッシャーを涼しい顔で受け止め、磨きぬかれた筋肉一つで堂々と仁王立ちしたまま淡々と言い放つ。

「僕にそれは必要ないよ。いいから掛かってきて。遠慮はいらないから」

「……!!」

 噴き出す炎の勢いが増す。

 彼の怒りと同調するように烈火の如く炎が荒れ狂った。

「ああ、じゃあ死ねよ!」

 赤宝朱雀剣が上段から力強く振り下ろされ、黒岩剛へと向けられる。

 そして、先ほど同じ数の炎鳥が生み出され、再び殺到した。但し、それは小鳥から大鷲の大きさへと膨れ上がって視界一面を埋め尽くし、更に一羽一羽の速度も威力も向上していた。

 天空紅蓮『朱の右翼』。

 第一護神武装によって増幅された炎らはそれこそミサイルを撃ち込んだかのような巨大な火柱を上げ、目を閉じていても突き刺さる程の光が荒野に広がった。

 筋肉が炎の中へと包まれ、見えなくなる。

「バカが…………」

 苦々しい顔でそう吐き捨てた赤崎蓮は、乱暴に地面を蹴った。

 そして気持ちを切り替え、改めて結果を、己に身の程知らずな自信で敵対してきたバカの末路を見届けようとして、大きく動揺した。

「……なに?」

 炎が収まった後、その中心地には人影があった。

「――ぬるい」

「な……」

 地面から立ち昇る黒煙の中から現れた筋骨隆々とした巨漢、黒岩剛はただそう評した。

 彼自身は無傷。

 あれだけの威力の炎を正面から受けてなお、その美しく力強く逞しい筋肉には火傷一つ負っていなかった。

「やっぱり思った通りだ。樹海の黄金の大天狼(スケル)の炎に比べて大きく劣る。それじゃあダメだよ、僕のこの身体に傷一つ付けられない」

 黒岩剛の目が赤崎蓮を()め付ける

 途端、赤崎蓮の背筋に怖気にも似た震えが走った。

「チッ!」

 マズイ。

 そう咄嗟に判断した赤崎蓮が炎の翼を羽ばたかせ、大空へと飛び上がる。彼にとって『朱の右翼』は自信のあった技だった。それだけにそれが通用しないというのは危機感を覚えるのに十分な事態だった。

 一先ず黒岩剛の手の届かない所まで逃れ、改めて眼下を見る。そこには黒ずんだ大地の真ん中にポツンと棒立ちしている巨漢の姿がある。

 彼はただ赤崎蓮を見上げるだけ。未だ一度も攻めに転じる気配はない。

 そしてそれが不気味でもあった。

 ここにきて赤崎蓮は、自分が相手にしているものが何なのか、その未知の怪物を前にしたかのような違和感を覚えつつあった。

「くそ、しゃあねえ……これしかねえか」

 赤崎蓮は切り札を切る事にする。

 己の剣に力を一気に注ぎ込む。炎が生まれ、膨れ上がったそれは上空で一際巨大な炎の塊を生み出した。

 それは鯨すら呑み込む炎の巨鳥に姿形を変じさせ、甲高い産声を上げる。

 赤崎蓮の大技、大業炎『火の鳥』。

 この四年で彼が練習し、創り出した技の中では随一の威力を誇る技だ。仮初の生命を持ち、自らの意思で獲物へと飛翔し、炎の嵐を巻き起こす。広範囲に甚大な被害をもたらすこの技から逃げ切るのは簡単な事ではない。

 その渾身の一撃を赤崎蓮は解き放った。

 弾丸のように急降下し、目標を目指す火の鳥。

 対する黒岩剛はやはり仁王立ちのまま。一度大きく息を吸い、大胸筋が前へと押し上げられる。全身に力が漲り、足を踏ん張らせ、気合そして気迫が限界まで満ち膨らむ。その巨体が更に一回り大きくなったかのようだった。

 神々しく巨大な火の鳥が真っ直ぐ舞い降り、内なる炎を吹き荒らし周辺一帯を灰燼に帰そうとしたその瞬間。


「渇――――――――――ッッッッッ!!!!!!!!!」


 火の鳥が消し飛んだ。

 それはもう呆気なく、散り散りになって。

 ごくわずかな残滓の火の粉がパラパラと淡雪のように地面に降って、消えた。

 片や黒岩剛は指先一つ動かしていない。ただ叫んだだけ。裂帛の気合と共に咆哮しただけ。

「は……?」

 それを目の当たりにした赤崎蓮は思わず目を点にした。

 己の最強を誇る、苦心の末に編み出し練磨した技が一喝で掻き消えたのだ。呆然ともなろう。

「脆弱よ……」

 一方、一蹴した当の本人は「またつまらぬものを……」とでも言い出しそうな顔で仁王立ちしていた。

「いやいやいや、ちょっと待てちょっと待てよ……今何した?」

「何って……見ての通りだよ」

「いや、だから何をしたんだっつってんだろ!? 分かんねえから聞いんだろうがッ!!」

 逆ギレ気味に喚く赤崎蓮。

 それに訝しげに眉をひそめる張本人。何を当然の事を聞いてくるのか、と言わんばかりだ。

 彼は胸を張って堂々と答えた。


「鍛え上げた筋肉、そして玄武の力に決まってるじゃない」

「嘘つけえええええええ! 今の絶対筋肉とか玄武とか関係ねえだろうがッッッッッ!!」


 その至極尤もな叫びは、しかし無情にも大空へと溶けて消えるだけだった。

 あれはもっとこう、理屈を越えた理不尽な何かだ。男ではなく(おとこ)的な。だが黒岩剛は鍛えぬいた己の力と信じて疑わない。その瞳は一切汚れのない純粋(ピュア)な少年のそれだった。(よこしま)な者がいたら浄化されそうなほどに。

「さあ、今度は僕から行くよ」

 宣言と同時に一歩踏み出す。

 大地が大きな悲鳴を上げ、激しく揺れる。

 思わず上空の赤崎蓮はビクリと体を震わせてしまった。地上と上空とで十分な距離を取っているはずなのに、今はそれでも心もとないとさえ思える。

「ぐっ!」

 赤崎蓮は苦悩する。

「あれが効かねえとなると、後はこの剣での接近戦しかねえんだが……」

 問題は最初の『朱の右翼』がまったく通用しなかった事だ。本来ならあれで弾幕を張り、足止め兼目眩ましをしている隙に左右背後へと周りこんで死角から斬りつけるのが彼の定石(じょうせき)だったというのに。弾幕となる炎鳥が完全に無効化されている現状、この戦法が通じる可能性は低いと見るべきだろう。

「それでもやるしか……ねえか。もう余力もあんまりねぇし。『火の鳥』は一発だけでもクソがつくくらい膝に来るからな……とにかく全力で一撃、斬りつけるなり突き刺すなりすれば……少しでいい、傷つけさえすれば後は赤宝朱雀剣から炎を噴出させて内側から丸焼きにできるはずだ……! それでやれなくとも、隙さえできれば今度こそ『火の鳥』を防御させる前に思いっきりブチこめる」

 時間はない。迅速な果断を以って、赤崎蓮は黒岩剛が攻勢に移る前に先手を取る事にした。

「おらぁ!!」

 再び『朱の右翼』。

 夥しい数の炎鳥が黒岩剛の注意を引いている間に、赤崎蓮は翼で一気に加速する。

 天空を隼のように俊敏に泳ぎ、タイミングを見計らって地上の黒岩剛へと背後から接近する。

 黒岩剛は向かって来る炎鳥から目を離さないまま、どうやら赤崎蓮を見失い動きには気付いていないようだった。

 加速の勢いに乗ったまま剣を体の後ろに引き、一気に突撃する。刺突の構えだ。

 元々赤崎蓮は剣道も剣術もやった事などなく、剣の扱いは未だあまり上手いとは言えなかった。名のある剣士に手ほどきを受けて練習も積んでいたが、それでも凡才の域を出ない。

 身体能力はこの異世界セフィロートに来て飛躍的に向上したが、剣士としては半人前なのだ。

 剣の性能頼りに、『斬る』のではなくとにかく『当てる』や『ぶつける』事が主眼になっている。そうすれば後は剣が誇る素晴らしいまでの切れ味と炎熱の能力とで鋼鉄すらバターのように断ち切れるのだ。

 使徒としての加護たる視力向上も相まって、これらの恩恵は剣の腕前を補って余りある

 だが、黒岩剛は今までの相手とは勝手が違う。これまで通用していたほとんどが通じない。

 今、赤崎蓮はまさに未知の領域の中で戦っていた。

「とった――!」

 近づく巨漢の背中、その黄金のマントに剣を突き刺そうと刺突を放つ。

 バネのように腕が伸び、最高の速度とタイミングで剣の切っ先がその背中へ。

 手応えが剣から腕に伝わってくる。

 それは完全に予想だにしていないものだった。

「んな……!?」

 それは肉を斬る感触とはほど遠い、金属質に近いものだった。

 剣は筋肉に絡みとられていた。剣先は左腕の強固でしなやかな前腕筋群で受け止められ、刀身は右手で握り締められ動かせない。

 凶刃が届く直前、黒岩剛が俊敏に反応した結果だった。

「つかまえた」

 間近で聞くその低い声に、赤崎蓮は咄嗟に剣に力を篭めて振り払おうとするが、できなかった。全力の勢いの反動により赤崎蓮の腕は完全に痺れ、握力もほとんどなくなっていた。

「赤崎君、いくら炎を囮にして姿をくらませようとしてもその剣がある限りすぐ居場所が分かるよ。その剣の熱は近づけば熱源として肌で感知し易いからね」

「できるかぁ! 何だよそのとんでも理論!」

 赤崎蓮は叫んだ。魂からの叫びだった。

 樹海で過ごした黒岩剛にとっては肌で熱源感知など容易い事だ。既に地球の常識は樹海に置いて来ている。

 赤崎蓮が已む無く剣を手放し、黒岩剛の間合いから逃れようと足に力を入れる。が、それを鋭く察知した黒岩剛が右手で握っていた剣を横へ払い投げ、一歩踏み込む。そしてそのまま目の前のガラ空きの腹に膝蹴りを埋め込ませる。

 赤崎蓮の足が地面から離れ、浮く。更に続く黒岩剛の鋭く空を抉る左の掌底が赤崎蓮の胸を貫いた。

 その二発は手心が加えられていたにも関わらず、余りにも重く、そして強烈だった。

「が……ぁ……」

 たった二発のダメージでもう赤崎蓮は立ち上がるのがやっとの状態になり、足も震えていた。

「畜生が……あの剣……鋼鉄も断ち切るんだぞ。なんで……なんで刃が通らねえんだよ……」

「知れたこと。僕の鍛え上げた筋肉と玄武の力による玄武ガードはその程度じゃ傷一つ付くわけがない。答えはね、赤崎君、君が脆弱なだけなんだよ」

「嘘だッッッッッッ!」

「赤崎君、君が知らないだけで鍛え上げた筋肉はね、あらゆる不可能を可能にするんだよ」

「ふざけんのも大概にしろやコラァ!!」

 残りわずかな力を振り絞り、炎の翼で上空へ逃れる。その飛行は今にも失速しそうなくらい不安定で力がない。

「くそっくそっくそっ……!」

 空中で止まりながら赤崎蓮は追い詰められた顔で必死に頭を動かす。既に手札全てが完封されているこの状況、どうにかしてあの男をぶっ飛ばせないかを。

 冷静な方の頭はこのまま逃げる事を囁くも、だがそれ以上に大きな声で喚きたてる感情の声が許さない。

 あんなふざけたムキムキマッチョにこのまま背を向けて逃げる事などできるはずがない。こんな風にコケにされたまま、一矢報いる事すらできないなど赤崎蓮のプライドが許さない。そのような負け犬の姿なんて晒せるわけがない。決してだ。

 何も手立てが思い浮かばないまま上空に逃げて、ただ足踏みしながら歯噛みするしかない赤崎蓮に黒岩剛は重々しく語りかける。

「さあ、今まで小鳥さんや町の人達に好き勝手してきたツケを払う時だよ」

 黒岩剛が始めて構える。

 膨大な闘気が湧き昇り、その今まで見た事のない圧倒的なまでの強大さと勢いに赤崎蓮が気圧され、思わず生唾を飲み込む。

「僕はかつて非力だった。けれどある時、雄大な大自然と昇る太陽が教えてくれた。僕に足りないものを」

「いや聞いてねえし、勝手に語り始めんな」

「そう、それがッ――――――筋ッ――肉ッ!」

 暑苦しい筋肉が弾けんばかりに盛り上がり、服を破る勢いで自己主張する。黒岩剛は大真面目だった。何ら微塵も疑いを持っていなかった。

 赤崎蓮は空中で後退った。ドン引きだった。色々な意味で。

「そしてこれが……僕の必殺技」

 黒岩剛は拳を腰溜めに構え、己が重量の加護をMAXまで引き上げ、全力を篭める。

 そして、持ち上げた足が大地を勢いよく踏みしめる。それは震脚。途方も無い自重と共に踏み込まれた片足は大地を割り、その全エネルギーは足から腕へと全身を使って伝わる。

 拳が放たれる。


「――玄武パンチ!!!!」


 どこぞの空飛ぶ菓子パンヒーローのように技の名前を叫ぶ。実際はただのストレートパンチなのだが、その振りぬかれた拳から彗星の如き衝撃の塊が放たれた。

 衝撃は一直線に空を昇り、翔ける。

 それは鉄拳の形をしたロケットかジャンボジェット機が迫ってくるようで。

「いっ――!?」

 赤崎蓮の視界をほぼ埋め尽くすそのケタ違いのスケールに、悲鳴すら上げられない。

 その鉄拳は赤崎蓮を撃ち落し、その勢いのまま空の彼方へと飛び去っていった。

 直撃ではない。最初からその拳は赤崎蓮を狙ってはいなかった。だが、その余波は赤崎蓮を巻き込み、そのオマケの威力でさえも赤崎蓮の防御を打ち砕くには十分に過ぎた。

 赤崎蓮は指一本動かせないまま敢え無く墜落していく。

 薄れ行く意識の中、彼はただただ思った。

「何でも名前に玄武を付ければいいってもんじゃねえだろうが……」

 その行き場の無い思いは誰にも届く事なく、無力にも清く眩しい朝日の中に消えていった。







この小説のジャンルはファンタジーですか?

いいえ、コメディです。


最強タグを付ける以上、苦戦する事は決して許されぬ(使命感)


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