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 火のついた暖炉が部屋に熱を送る。

 その日の夕食の席はゆったりとした空気が流れていた。

「さ、今日は山や畑でいい具材が手に入ったからたくさん作ったよ。二人ともいっぱい食べてね! あと今日はレーズンパンにも挑戦してみました! うん。自分でも上手くできたと思うよ」

「ああ、ありがとう。ほら、イザベルの離乳食をよそった皿はこっちだ」

「す、すごいね。いただきます」

 暗い雰囲気を吹き飛ばす勢いで小鳥が張り切っていた。

 ロウイスは無愛想な顔こそ変わらないが、声色は幾分か柔らかい。配膳や取り皿のやり取りなどはよほど手馴れており、相手の意図を短い呼吸で汲み取っている。立派な夫婦の姿があった。

「いい団欒光景だな」

 そう黒岩剛は眺めながら思った。

 並べられた料理を見ても、多くない食材をやりくりしてもてなそうとしている心遣いが感じられる。

 一家三人の姿は微笑ましく、一見した限りいい家庭だと思う。だからこそ、黒岩剛の迷いが濃くなる。

 このまま旅立っていいのか。

 けど、例えここに残ったとしてただの風来坊の使徒でしかない自分に一体何ができるのか。何か力になれる事はないのか。それを考え、つい思考が暗くなってしまう。

「あ、それでね剛くん。これクリスちゃんにどうかな。ミートボール作ったんだ。あげても大丈夫かな? あ、タマネギとかは入ってないからね」

「へえ。うん、いいんじゃないかな。ね、クリス」

 黒岩剛の椅子代わりの頑丈な台の足元で黒パンを前脚で挟んでいたクリスは一度顔を上げるも、すぐにまた黒パンに齧り付きはじめた。

 小鳥が若干瞳を輝かせながら皿を手にクリスの傍に距離を測りながら慎重に近づいていく。

 その視線はクリスの可愛らしい肢体に釘付けである。実家では犬を飼っていた事もあり、犬好きだったのだ。正確にはクリスは狐だが。

 けれど黒岩剛曰く「気難しい」クリスは決して小鳥に近づこうとはせず、これまでずっと小鳥のラブコールを袖にし続けていた。今も素っ気無い様子で黒パンを格闘を続けている。

 なおクリスに寄生虫はいない。雷閃狐は獲物を灼いて食べる習慣があり、自らを害そうとする虫は体内であろうと体外であろうと雷で焼き払うのだ。だから毛皮を触ったりしても寄生虫の卵が付くなどという事はない。

「ほら、クリスちゃん。お肉だよー」

 猫なで声でそーっとそーっと距離を縮めて行く。

 だがプイっと顔を背けるクリス。

「やっぱり一日二日のわたしじゃダメなのかなぁ」

 そう意気消沈しながらももう一度だけ押してみようと、いい匂いのするほかほかなお皿を更に鼻先近くまで寄せてみる。

「ほら、美味しいよ。食べてみないかな」

「ウゥゥ……!」

 すると途端に不機嫌そうに唸り始め、クリスの鼻先に皺が寄った。

 それを見て小鳥が躊躇する。これ以上踏み込むべきか、それともここで引き下がるべきか。

 けれどクリスの反応はそれより一瞬速かった。

「きゃっ!?」

 短い悲鳴。

 指先に走る痛み。流血。

 クリスが小鳥の手先に噛み付いていた。

「クリスッ!!」

 いち早く黒岩剛が血相を変えて椅子代わりの台から飛び上がる。

 そして片腕を大きく横に伸ばし、クリスを糾弾する。

 珍しい激情、怒りがそこにあった。

「く……くぅん……」

 体を一度ビクリと震わせ、クリスの意気が急速に萎んで行く。

 口を離し、尻尾を丸め、ふらつくように後退する。おどおどと黒岩剛を見上げる仔狐の姿は……今にも泣きそうだった。

 狐は涙を流さない。けれど、もしもクリスが人間であれば目に涙を浮かべている。そう思うに十分なくらいの弱弱しい目だった。

 何よりも黒岩剛の叱責がクリスには痛かった。

 そして同時に黒岩剛もそんなクリスの姿に胸を詰まらせる思いだった。

「――っ!」

 クリスが脱兎の如く駆け出す。

「あっ、クリス!」

 クリスは開いていた窓へ四足で素早く駆け寄り、その小さな体でスルリと外へと身を躍らせ消えた。「クリス……」

 苦い思いで大事な連れの名前を呟く。今も逃げ出す直前のクリスの顔が焼き付いて離れない。逃げたクリスに後ろ髪を引かれる思いを抱きながら、まずは噛まれた小鳥の元へと向かう。

「ごめん。本当にごめん。まさかクリスが噛むなんて……」

「いいの、わたしが悪かったの。嫌がってるクリスちゃんに無理矢理近づこうとしたから……」

「貸せ。傷を見せてみろ」

 ロウイスが抱えていた娘を抱えていた膝から降ろし、手早く布と水を塗り薬を取り出して来ていた。

「おい、クリスは何か病気は持っているのか。狂犬病は?」

「いえ、大丈夫です」

「そうか……咄嗟とはいえ、悪かった」

「こちらこそクリスが……すいません」

 突然ロウイスが謝り、小鳥の頭上にハテナマークが浮かぶ。

 クリスが噛んだ時に黒岩剛が腕を横に広げた理由、それはロウイスへの牽制だった。

 クリスが小鳥を噛んだ瞬間、あの一瞬でロウイスは食器のナイフを手に投擲モーションに入っていた。もちろん狙いはクリスだ。小鳥への更なる危害を加えられる前に行動不能にするために、明確な敵意を以って彼は動いていた。

 そしてそれを察し、クリスを止め、かつ広げた腕でロウイスのナイフからクリスを守ったのが黒岩剛だった。そんな攻防があの一瞬で繰り広げられていた。それを知るのは当人たる二人のみである。

 ロウイスのあの一手はただの軍人にできる反応ではない。手馴れたそれは達人と言っていい。それほど彼の動きは卓越していた。

 そしてそれを即座に止めて見せた黒岩剛も尋常ではなかった。

「これで手当ては終わりだ。傷はそう深くない。甘噛みではないが、本気でもなかったようだな……まだ痛むか?」

 雷閃狐の幼獣とはいえ、クリスが本気で噛んでいたら今頃小鳥の指は容易に噛み千切られていただろう。樹海で暮らす魔獣の一角として、それだけの力は既に持ち得ている。

「ううん、平気。もう、剛くんもそんな辛そうな顔しないで。わたしは大丈夫だから。ね」

 心配かけまいと陽気な笑顔を見せる小鳥に、黒岩剛は思わず言葉が詰まる。

「……クリス、探してくるね。僕一人で大丈夫だから二人はここで待ってて。二人とも、本当にごめんなさい」

 彼は頭を下げながらそう言うのが精一杯だった。


 外へ出ると既に日が暮れていた。

 静かだった。辺りに民家一つなく、あるのは竜舎だけ。時折飛竜の獰猛な鳴き声が聞こえてくる。

 まずクリスの足跡を探しに彼女が飛び出した窓へと歩く。そこを基点に追跡を始めた。毛や足跡などから獲物を追うのは樹海では習得して当然の技能の一つだ。当然なのだ。

 宵闇の暗がりの中、時には地面に這い蹲ってクリスの痕跡を探す。

 次第に鬱蒼とした雑木林へと入っていく事になった。

「……ここで痕跡が途切れてる。近くにいるのかな?」

 周囲を見渡すも、それらしい姿は見受けられない。

「クリス……いるの?」

 大声で呼びかけてみたが返事はない。声が届いていないか、或いは無視しているのか。

「クリス! 出ておいで。さっきは怒鳴ってごめん。もう怒ってないから……ね、出ておいで、クリス」

 やはり反応はない。

 葉擦れの音と風の音、虫の鳴き声だけが聞こえてくる。

「やっぱり……こっちから探し出すしかないか」

 黒岩剛は己の感覚を全開にした。

 全身の感覚を使い、細心の注意を払って周辺の索敵を続ける。

 そうして慎重に歩き回り、やがて彼は突然足を止めて一点を見つめる。そして確信をもって呼びかけた。

「クリス、出ておいで」

「……………………」

「クリス……」

 彼にとってクリスとは友人からの大事な預かりものだ。保護すべき対象であり、手のかかる年の離れた妹といった感覚に近い。

 だから呼びかける。

 悪い事をして、怖がって逃げ出してしまった小さな子供を迎えるために。

 やがて茂みを掻き分ける音がして、びくびくとクリスの鼻、次いで顔が出てきた。

「……クーン」

 鼻をスンスン鳴らしながら耳を伏せ、クリスが黒岩剛の顔色を窺うように上目遣いで見やる。

 そんなクリスに、ゆっくり、ゆっくりと両手を差し出す。

 クリスは一度だけ体を震わせたが、じっと身を委ねていた。

 そして優しく抱き上げる。クリスの体は全身緊張で固くなっていた。

「ごめんね、怒鳴ったりして。怖がらせちゃったね」

「……」

「ねえクリス、大声を出したのは悪かったけど、あんな風に何も悪い事をしていない相手に対して噛みついたりしちゃダメなんだよ。人を無闇やたらに傷つけちゃダメなんだ。小鳥さんに謝ろう。ね?」

「…………」

「悪い事をしたら謝らなくちゃ。僕も一緒に謝るから」

 クリスは黒岩剛の説得を落ち込んだ様子で黙って聞いていた。

 そして一度だけ何か言いたげに口を開き、けれど何も声を出す事なく閉じて項垂れた。その目は先ほどまでとは違った様子で泣きそうだった。

 自分が間違っている事は理解してて、けれど不満がある。謝らないといけない、謝りたくない。あの人間だけには。色んな思いがせめぎ合い、葛藤する。

 どうして。どうして、とその幼い目は黒岩剛に訴えかける。

 どうして――なのか。

「クリス」

「……」

 例えあの人間が嫌であっても、それ以上にクリスは黒岩剛に嫌われるのが嫌だから。

 だから、ゆっくりと力なく縦に振る。

「うん。いい子だね。じゃあ、戻ろう。大丈夫だよ。ちゃんと謝れば小鳥さんは許してくれるから」

「きゅぅん……」

 弱弱しい返事を心配した黒岩剛がそっと優しくその頭を撫でる。

 そしてクリスを安心させるように彼は優しく微笑んだ。

 その手の温もりが嬉しくて、悲しくて、苦しくて、クリスは強くしがみついて鼻を鳴らす。

 子供が泣いて抱きつく姿そのままで、黒岩剛はクリスが落ち着くまでずっと宥めていた。


 そしてその帰り道で異変があった。

「…………誰かいる」

 しょんぼりしたクリスと共にキャピシオン家の近くまで戻って来た時、その付近に不審な人影がいた。それも複数。

 獣の如き鋭敏な感覚でその人影らを察知した黒岩剛はすぐさま息を潜め、身を隠してその様子を窺う。

 樹海で文字通りの化け物らに囲まれて過ごしてきた彼にとって、人影らの隠形などバレバレもいいところだった。本当に隠れるつもりがあるのかと問い詰めたいくらい、消しきれていない音や気配。彼にしてみれば冬眠した熊だって起きだすだろうと思えるほどだ。

「……ずっと屋敷を見てる。なんだろう、押し込み強盗かな? 何にせよ、犯罪の臭いがするね……クリス、ちょっとここで大人しくしてて」

 足音を消して人影らに忍び寄る。体重300kgオーバーの巨漢とは思えない見事な体重移動だった。

 人影は皆男性だった。20代から30代前半くらいの集団で、皆一様にそこそこに鍛え上げられており、腕や顔にいくつもの傷跡をこさえたその姿は一般人とは明らかに一線を画している。そして手に各々がナイフなどの武器を持ち、抜き身の刃を空気に晒している事からも、もはや尋常な事態ではないと判断できる。

「この家に何か用ですか?」

「!?」

 突然暗闇の中、至近距離からかけられた声に男らは目を剥き、振り返ると同時に問答無用で刃物を振りかざしてきた。彼らの戦意を確認したこの時点で黒岩剛から容赦の文字が消えた。

「……ぬるい」

 一人一撃。

 それで事は済んだ。

 相手が構える前に一歩で距離を詰め、それぞれ水月(みぞおち)、こめかみ、人中を打ち抜く。それだけで男らは苦しみ悶えながら地面に転がり、起き上がれなくなっていた。

 最後の一人は逃げ出そうとした所を即座に首を鷲掴みにされ、片手で軽々と宙に吊り上げられている。

 男が抵抗して膝や蹴りを繰り出し、或いは手で己を吊り上げている手首を力いっぱい握りつぶそうとするも黒岩剛はビクともしない。

 やがて男の顔は蒼白になり、酸素を求め何度も口を開け閉めしていた。

「とりあえずロウイスさん、この人達の処遇はどうしますか?」

 誰もいないはずの夜闇へ問いかけると、返事はすぐにきた。

「……縛って少し離れたところに放り捨てておいて構わん。領主の館の者が勝手に引き取りにくるだろうよ。町の衛兵に突き出して牢屋に入れたとしてもすぐ戻ってくるだろうからな」

 暗闇の中から強大な威圧感と共に現れたのは、夕食の時の姿とは一変して武装したロウイスだった。ガントレットに小型の盾(バックラー)と使い込まれた短槍を手に、普段着の彼が片足を引きずりながら歩み寄ってくる。片足が満足に使えなくともその歩法は男達とは比べるべくもない、見事な忍び足だった。

 彼もまた、襲撃を察知して備えていたのだ。

 なお小鳥はロウイスが言いくるめて、娘の子守を理由に屋敷の奥へと押しやっている。

「その男達、アカザキの手の者だ。しばらく前からよくここに来ては屋敷の様子を窺っていた……いや」

 そこで一度言葉を切り、不機嫌そうに半眼になって言葉を続けた。

「コトリの様子を、か」

 その言葉に衝撃を受けたのは黒岩剛だった。

「な、なんで……? どうして小鳥さんが……?」

 狙われているのか。

 そう食い入るように視線で訴える。

 赤崎蓮が町で悪さをしているのは今日小鳥から聞いたばかりだ。そして小鳥の嘆願を撥ね退けている事も。

 だが、下でのびている連中に直接目をつけられ、狙われているなど聞いていない。

 もし、仮にこの連中に小鳥が捕まっていたら、果たしてどうなっていたのか。それを想像し、思わず身震いする。

「さぁな。だが、どうやらアカザキとやらは俺のコトリにご執心なようだ。とはいえ……ここまで強硬手段に訴えようとしてきたのは初めてだが。これまでは一人で偵察に来ていてそのまましばらくしたら帰っていただけなんだが、こんな大人数は今日が初めてだな」

 その言葉に黒岩剛はダンプカーで殴られたような衝撃を受けた。

「赤崎君……」

 呼吸がわずかに止まり、自然と拳に力が篭る。

 怒気が、空間を軋ませる。

 近くの竜舎で飛竜達が次々と遠吠えを上げる。それは恐慌に近く、その声はこの上なく怯えていた。

 黒岩剛は決断した。

 赤崎蓮は小鳥に危害を加えようとしている。

 そう。小鳥は今、まさに苦しめられているのだ。

 事態は急を要する。ならば、もう彼に躊躇う理由はない。

「ええっと……うん、あなたがいいかな」

 吊り上げていた男が完全に意識を手放していたため地面に下ろした後、改めてダメージから回復しつつある手頃な男一人の元へ屈み込む。

 未だ起き上がれないものの、頬を軽く叩いて意識がある事を確認して胸倉を掴み上げた。

「ぅ……あぁ……」

「聞こえてるよね。帰ったら赤崎君に伝えて。日の出と共にクラスメイトの黒岩が……玄武の使徒がそっちに行くって。首根っこを引っ掴んでその性根、叩きなおしてあげる。いいね」

 それから制止の声を掛けて来るロウイスに構わず、黒岩剛は五名の襲撃者全員を一まとめに担いで、キャピシオン家から少し離れた道の脇に放り出して戻って来た。

「ロウイスさん。確認ですが……この町で傍若無人に振舞っているのは赤崎君達だけであって、領主は無関係なんですよね」

「待て。何を考えている」

「さっきも言った通り、元凶をとっちめようかと」

「それなら不要だ。既に手を打ってある。国の中央には、この町でのアカザキの所業を記した手紙を送ってある。じき、中央から最低でも使徒が一人派遣されてくるはずだ。ヤツはそれで終わりだ。この町の混乱もそれで収束する。それまでの間なら俺一人で守りきれる。万一の保険として、コトリには竜笛も持たせているしな。問題は使徒であるアカザキ本人が直接出向いてきた時くらいなものだが、飛竜(カスティーユ)なら逃げ切れるだろう」

 竜笛。それは小鳥が胸に下げていた小さな筒のようなものだった。

 それを吹けば即座にカスティーユが駆けつけるようになっている。その途中で発生する飛竜隔離用の結界破壊及び町の緊急事態発令など無視してだ。多少面倒な事態になるが、ロウイスなら丸く収められる。彼にはそれだけの力があった。

「いえ、明日にはケリをつけます。力づくでこんな事をやろうとしてくるヤツをそんな悠長に野放しにはできません」

「……領主の館には使徒のアカザキ以外にも私兵が詰めている。使徒の君ならばさほど障害にはならないだろうが……一人で全員に勝てるのか?」

「勝てる勝てないじゃない。やるんです」

 落ち着いた、静かな声音だった。

 だが、その奥底に秘められたドロドロとしたマグマの如き灼熱の激情に気付いたロウイスは、そこで初めて気圧され、言葉を呑んだ。

 かつて彼が対峙した使徒など相手にもならないほどの、剛気。

「それに、同郷のクラスメイト達が町の人達にこんな迷惑をかけているっていうのも心苦しいですしね……全員、とっ捕まえてお灸据えて来ますよ」

 黒岩剛の口の端が釣り上がる。

 それは過去彼が誰にも見せた事のない獰猛な、野獣の如き双眸だった。


 ★★★★★★


「お、おい大丈夫か! お前ら、何があった!?」

 赤崎蓮は送り込んだ手駒がほうほうの体で帰って来た報を聞くや否や、泡を食って駆けつけた。そこにはすっかり意気消沈し、見るも無残な負け犬といった言葉がピッタリの姿の男達がいた。

「しっかりしろ! くそ、おいメイドども! さっさと手当てしろ!」

「は、はい!」

 赤崎蓮、身内には優しい男である。

「くそ……なんでこんな……夫婦と子供の三人暮らしじゃなかったのかよ。使徒でもないただの男一人、五人もいれば十分だと思ってたんだが……」

 本来なら小金で雇ったちょっとした力自慢の荒くれ者で小鳥を捕まえて、今頃は自分の前に引きずり倒しているはずだったのだ。それが何かトラブルでもあったのか、返り討ちといった様子で目の前で崩れ落ちている。

「畜生……やられた。あのクソガキィ……」

「実は玄武の使徒とか言うやつが邪魔をして……」

「で、伝言が。クラスメイトのクロイワだか何だかが、明け方にこの館に乗り込んでくるって……」

 クラスメイトという思わぬ所で同郷の名前が出てきて、赤崎蓮の目が訝しげに歪んだ。

「なにぃ。黒岩……確か、昼に木場達にケンカ売ったやつだったな。最上ちゃんの所にいるのか?」

「ど、どうしよう、アカくん」

 同じクラスメイトだった一人が縋るように見上げてくる。

 そんな友人に対して赤崎蓮の答えは決まっている。

 彼はいつだって安心させるよう、自信たっぷりの顔で皆の慣れない異世界での不安を吹き飛ばしてきたのだ。

「お前らビビんな! いいじゃねえか。このケンカ、買ってやるよ。オレの邪魔をして歯向かった事、後悔させてやる」

 途端、喝采が巻き起こる。

「さっすが俺達のアカ君!」

「頼もしいぜ!」

 これまでずっと、赤崎蓮は皆を守ってきたのだ。

 外敵には容赦せず、朱雀の使徒の力を出し惜しみなく使って使い続けてここまで来た。

 周りの仲間達の明るい表情を見て、それを曇らせるやつはこの手で燃やし尽くす。

 そうして赤崎蓮は戦う。

「上等だぜ。玄武だか何だか知らねーけどな……オレの前に出た時が運の尽きだぜ」

「そうだよな! 大体玄武なんて言えば硬い、遅い、弱いの三拍子揃った雑魚だし!」

「亀なんざに負けるヤツなんていねーよな! 亀だぜ亀!」

「よし、俺達で返り討ちにしてやろーぜ! アカ君が出るまでもねーぜ!」

 赤崎蓮の発破で戦意高揚し、盛り上がるかつてのクラスメイト達。

 ここに至り朱雀と玄武の使徒の衝突は不可避となった。







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さあ、気合入れてバトルシーン書きますかね(棒)

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