チームの愛情
フロウと遊んだ翌日、シェイドはアジトの部屋でぼんやりとしていた。
窓辺に置かれた机に肘をつき、外を眺めていた。
5階から見えるのは、道路を挟んで向かい側の建物の壁や屋根であり、代り映えしなかった。
シェイドの目は、行ったり来たりする鳥の動きさえもあまり追ってはいなかった。
心は自分の内側に向いていた。
気がつくとフロウと過ごした時間が巻き戻されていた。
胸が締め付けられ、右手が握った手の感触を思い出した。
ふと我に帰るたび、自分を全然コントロールできないことに気づかされ、シェイドは戸惑った。
しかし、心躍る楽しい記憶の氾濫は、拒否したいようなものではなかった。
むしろ、もっと感じていたい、快の感覚であった。
結局、シェイドはフロウを断ち切ることができなかった。
あさって、もう一度遊ぼうと約束してしまった。
気づくと、それはもう明日だった。
シェイドの物思いを遮るように、部屋のドアがノックされた。
一拍置いてドアが開き、タタが部屋を覗きこんだ。
「シェイドいる?お、いたいた!キックベースやろうぜ」
タタはシェイドに近づきながら言った。
「ユージンたちとやろうっつっててさ。あいつら、仕事ほっぽって遊んでんの。シェイドも仕事のことばっかじゃなくよー、たまには皆とこういうのやろうぜ」
タタはシェイドの肩に肘を寝かせて載せた。
シェイドは首を曲げて、その上に頭を載せながら言った。
「やんない」
タタは、自分の肘の上のシェイドの頭に自分の頭を載せ、ぐりぐりと動かした。
「おめえはつき合い悪いんだよ。仕事休めっつわれた時くらい、皆と遊ぼうぜ」
「いいよ、うざいよ、タタ」
「てめえ!」
タタはシェイドの首に腕を回し、ゴンゴンと頭突きをした。
シェイドは、いてて、やめろよと、タタの頭を横から叩いた。
「ただいまー、ドア開いてるんですけど。は?何やってんの、あんたたち」
カラカラが部屋に入り、ドアを閉めた。
「ちょっと聞けよ、カラカラ。シェイドの奴、人が誘ってんのに、キックベースやらねえってよ。こいつ、つき合い悪すぎ」
「そりゃ、しょうがないよ。シェイド、そういうのダメじゃん」
「しょうがないんだよ」
「自分で言うな。いいからつき合え」
「いやだよ」
シェイドとタタは、ぺちぺち叩き合いながら、押し問答をした。
タタは、金庫バアの組織の中に、仲の良い遊び友達が何人もいた。
ほどほどに遊べる友達も含めると、割と大勢とのつき合いがあると言えた。
仕事の合間を縫って、タタはよく遊んでいた。
カラカラは、組織の中に特定の仲良しが数人いた。
どちらかというと年上の少女たちから可愛がられていた。
タタほどではないが、仲良しとしばしば遊んだりおしゃべりしたりしていた。
ただ、シェイドと仲が良いことで、ある一群の少女たちからは睨まれてもいた。
シェイドは、タタとカラカラとアニヤとアネモネ以外、なかなか打ち解けることがなかった。
そもそも、友達と遊びたいという気持ちがあまりなかった。
そんな暇があるならば、仕事に打ち込んで、何かを成し遂げたいという思いが強かった。
それが楽しかった。
自分のチームがすべてという感覚があり、同じ金庫バアの組織の人間ということは、あまり身内意識につながらなかった。
タタは、もう少し広い身内意識を持っていたので、何とかシェイドをその輪に入れようと、事あるごとにシェイドを誘った。
ごく稀に、シェイドを引っ張り出すことに成功した。
サッカーやドッジボールや鬼ごっこを何度か一緒にやったことがあった。
大体において、大して慣れていないはずのシェイドが、ちょっとやると上達し、目立った活躍をして終わった。
シェイドは、つまらないからもうやらないと言って、タタに、何様だと怒られるのだった。
「シェイドは、私たちしかダメなんだよ」
カラカラは、細い目をさらに細めて、幾分うれしそうに言った。
「おめえがそんなこと言ってっから、こいつはいつまでもこうなんだよ。まじで今日は連れてく」
タタは、シェイドの腕をつかんでグイグイ引っ張った。
馴染まないシェイドは、周りの少年たちから、あいつはお高くとまっているとか、俺らを見下しているとか、あまりよくない評判を得ていた。
この組織に入った4、5年前、鬼気迫る顔でケンカばかりしていたシェイドの印象も消え残っていた。
また、シェイドの美しい容姿も近寄りがたい冷たさを感じさせた。
周りからは、一目おかれ、一歩引かれているのがシェイドだった。シェイドの有能さへの嫉妬や恐れも含まれてはいるのだが、何にしてもタタは、シェイドを心配していた。
あいつは意外といい奴なんだ、といつもフォローしていた。
シェイドは、心を許す人間以外の中に入ると、自然に身構えてしまうのだった。
体の深いところから警戒心が立ちあがり、自分の周りに壁を張りめぐらせてしまう。
あるいは、相手の敵意に過剰に反応し、応戦体制に入ってしまう。
自動的な構えで、どうすることもできなかったし、シェイドはそれに困ってもいなかった。むしろ、生き抜くために当然であると肯定さえしていた。
だから、フロウにアラームが鳴らなかったことは、これまでにない不思議なことであった。
シェイドは、前日のフロウとの遊びの記憶のせいか、タタに引きずられながら、今日はしょうがない、つき合うしかないか、という思いになっていた。
シェイドの体の抵抗がなくなり、タタは、よーしやるぞ、と張り切ってドアへ向かった。
そのドアが、トントンとノックされた。カラカラが顔を上げた。シェイドとタタは止まった。チェッと舌打ちし、一番近くにいたタタがドアを開けた。
「誰だよ」
「あたしだよ」
扉の前に艶然と笑う女が立っていた。
タタは反射的に一歩下がり、シェイドは露骨に嫌な顔をした。
「ヒルダさん、何でしょうか」
タタが身を引き気味に問いかけた。ヒルダは、肌も露わな赤いキャミソールドレスに濃い紫のストールをまとった姿で、胸を強調するように腕を組みながら言った。
「あんたたち、午前中誰もいなかっただろう。新しい洋服と靴の配給だよ。もう1階のホールから引き揚げて、あたしの部屋に置いてあるから、取りにおいで」
金庫バアの組織では、日用品は基本的に配布される仕組みなのだが、それを取り仕切るのがヒルダであった。20代にも40代にも見える化粧の濃い派手な女だった。
子どもたちが稼いだ金は、概ね金庫バアに吸い上げられる。
子どもたちはいくらか手元に小銭を残すが、それはたいしたものを買える金額ではない。
また、何か目立つものを買ったら、金を抜き取ったことが金庫バアに当然ばれてしまう。
子どもたちは、配布される物に頼るしかなかった。
ヒルダは、金庫バアから子どもたちの世話役を任命され、さまざまな雑務を担っていた。
必需品を握っているため、誰もヒルダには逆らえなかった。
ヒルダは平気でひいきをするし、気分屋でもあった。
また、立場に相応しくない性癖も持っていた。
「たまにはシェイド、あんたいらっしゃい。可愛がってあげるから」
ヒルダは部屋に入り込み、タタの肩越しに腕を伸ばして、シェイドの頬を左手でなでた。
シェイドは凍りついた。
ヒルダの左手は数回頬をなで回した後、親指でシェイドの唇をなぞった。
シェイドの全身に鳥肌が立った。
「おお、怖い顔。それじゃあ、待ってるわよ」
ヒルダは笑いながら部屋を出て行った。
タタがハッとして振り向くと、シェイドが青ざめた顔で立っていた。次第に眉が吊り上っていく。
「あいつ、殺してやる」
シェイドの口からつぶやきがもれると、タタは慌ててシェイドの体を抱きしめた。
同時にシェイドが飛び出そうとした。タタは足を踏ん張って食いとめた。
「ばか!落ちつけ!たいしたことされてねえって!」
シェイドはタタの顔を見た。タタの必死な目を見て、スーッと興奮が下がっていくのを感じた。
「ごめん」
シェイドは体の力を抜いて言った。タタは、シェイドが落ちついたのを見て体を離した。
シェイドは右手で頬と唇を何度もぬぐった。
「私が行ってくるから、二人は待ってて」
シェイドとタタの横を、カラカラが駆け抜けた。
「おい、俺行くよ」
「いいから、あんたはシェイドについてて」
カラカラは、タタを指さし部屋を出て行った。タタはため息をついた。
「遊ぶ気分、しらけたじゃねーか。くそ女め」
「何であんな奴を野放しにしてるんだ、金庫バアは」
シェイドは吐き捨てるように言った。
ヒルダの所業は周知のものであった。
しかし、鑑識眼に優れた金庫バアが、なぜかヒルダについてはほぼ黙認状態なのだった。
時々、金庫バアが激しく叱責し、その後少しの間ヒルダがおとなしくするということもあったが、結局は元に戻った。
金庫バアは弱みを握られていると噂されていた。真相は不明であった。
「くそ女の相手は、俺とカラカラでやるから。間違っても勢いで殺すなよ」
「ごめん。俺ちょっと、頭おかしいんだ」
「知ってる」
タタは、こすり過ぎて赤くなっているシェイドの頬と唇を、左の掌でグシグシとこすった。
「よっしゃ。もうきれいだぞ」
「うん」
シェイドはだんだん平静を取り戻してきた。タタに感謝した。
シェイドがまだこの組織に来て間もない頃、ケンカをして傷だらけになって放心状態の時があった。
ヒルダがそんなシェイドを、傷の手当てと称して自室に連れ込んだ。
ヒルダは傷薬を塗りながら、全身のあちこちの傷口をなめた。
Tシャツをたくし上げ、傷の手当とは関係なく体をなで回した。かわいいねえとささやかれ、ズボンに手をかけられた時、シェイドは正気を取り戻した。
シェイドは訳が分からぬままに、必死に逃げだした。
からみつく不快感でシェイドはパニックに陥り、泣き喚いた。
幼いタタとカラカラが、懸命になだめた。
その後も、ヒルダはすれ違いざまにシェイドの頭をなでたり、お尻を叩いたり、誘いの言葉をかけたりした。
シェイドの反応を楽しむように、からかった。
シェイドが、些細なことで切れるような場面はそうそうなくなったのだが、ヒルダについては、理不尽に我慢しているせいか、どうしても怒りが堪え切れない時があった。
タタとカラカラはそれをよく分かっていて、配給は二人で取りに行くようにしていた。
ヒルダをシェイドに近づけないようにしていた。
カラカラは、階段を上って6階のヒルダの部屋にたどり着いた。
ベルを押すとすぐに、インターホンから、お入りと返事があった。
「失礼します。配給を取りに来ました」
ドアを開けてカラカラが言うと、真正面の応接ソファにだらりと座ったヒルダが眉を上げた。
「おやおや、やっぱりシェイドは来ないのかい」
「すみません。私が持っていきます」
「ふん。そこから欲しいもの持っていきな」
応接セットの脇のフロアに、洋服や靴が適当に散らばっていた。
カラカラは、サイズやデザインを見ながら、3人分の洋服と靴を見つくろった。
置いてあった紙袋に詰めて、ヒルダのもとへ行った。
「もらいました。ありがとうございました」
「カラカラ、ここに座んなさい」
ヒルダは左腕をソファの背にかけ、自分の懐を顎で指しながら言った。
カラカラは一瞬小さく息をのんだが、すぐに従った。
「失礼します」
ヒルダの左手がカラカラの左肩にかかった。
右手でカラカラの三つ編みを交互に触りながら、ヒルダはカラカラの耳元で言った。
「今回の洋服はどうだい?あたしが一生懸命選んだ品だよ」
カラカラは、体を強張らせながら答えた。
「とてもすてきな洋服ばっかりです。ありがとうございます」
「そうかい。カラカラ、いい子だね。飴をあげようか」
ヒルダはカラカラの耳を食べんばかりの近さでささやいた。
カラカラは身をすくませて、はいと頷いた。
ヒルダはニッと笑って、テーブルに置いてある菓子箱から、桃色の飴を取り出した。
「はい、お口開けて」
カラカラはおとなしく口を開けた。ヒルダはそれを見て、飴をサッと自分の口に含んだ。
カラカラが目を見張る間に、ヒルダは左手でカラカラの頭を押さえ、右手で顎をつかんで口づけた。
「は!」
カラカラの口から、息とも声ともつかないものが漏れた。
ヒルダの舌が、飴をカラカラの口の中に押し込んだ。
そして、そのままカラカラの舌や歯ぐきをなめ回した。
カラカラは、ヒルダの右手を両手でつかんだが、上手く力が入らなかった。
ヒルダは最後に、カラカラの唇もなめて体を離した。カラカラの口の中に飴が残った。
「もう行っていいよ。ああ、そうだ、この次の時にはシェイドを寄越しな」
シェイドを触ると興奮するんだよ、とヒルダは舌舐めずりをした。
青ざめ、腰が抜けそうになりながら、カラカラは、失礼しますと部屋を出た。
6階の共有トイレに、膝が崩れ落ちそうになりながら、紙袋を引きずるようにして入った。
鏡で見ると、赤い口紅が口の周りについていた。
個室のトイレに飴を吐き出し、トイレットペーパーで口をぬぐった。
ペーパーを投げ入れ、水を流した。鏡に戻って顔をチェックした。
水で口をゆすぎ、口元を洗った。もう一度顔をチェックした。
変な顔をしていたら、シェイドに感づかれると思った。
体をべたべた触られたり、額や頬に軽くキスをされたりしたことはあったが、ここまでされたのは初めてだった。
ぬめぬめした口の中の感触を思い出すと吐きそうになった。
絶対にシェイドに気づかれてはダメ、頑張れ私、とカラカラは自分に言い聞かせた。
カラカラは、気合を入れて5階へ戻った。
ドアをノックし、ただいまと声をかけた。すぐにドアが開いた。
シェイドとタタが、揃ってカラカラを迎え入れた。
「はい、これ」
カラカラは紙袋を床に置いた。
「カラカラ、いつもあいつの所に行かせてごめん」
シェイドが苦しげな表情で言った。カラカラは笑顔で答えた。
「たいしたことないよ。べたべたしてきて、きもいけどさ。もらう物もらったら、それまでだし」
「次は、ホールでもらうようにしようぜ。ってか、俺らがいないときにわざと全体配布したんじゃねえのか、あのくそ女。部屋に呼び込もうとしやがったんだ」
「あやしいよね。次は気をつけて、絶対ホールでもらうようにしよう。あーあ、気分悪い。私、キャリーさんとこでお茶してくる。服は適当に置いといて」
カラカラは、手を振って部屋を出て行った。
「あー、もうこっちも遊ぶ気分じゃねえな。むしゃくしゃする。そうだ、道場行こうぜ。そんならいいだろ」
「ああ、そのほうがいい。思い切りやりたい」
タタの提案にシェイドも同意した。
多くの少年たちが近所の拳法道場に通っていた。
師範は強くなろうとする者を歓迎し、時間外に訪れても受け入れてくれた。
シェイドは通いつめている方であった。
「そしたら、俺、ユージンたちにキックベース断って来るわ。準備してちょっと待ってて」
タタは走って出て行った。シェイドは一息ついてから、道着の準備をし始めた。
タタは部屋を出てすぐ辺りを見渡した。階段を駆け寄り下を見ると、ぼんやりと歩くカラカラを見つけた。
タタは階段の踊り場にいるカラカラに、急いで駆け寄った。
「おい」
カラカラの肩に手をかけると、カラカラの肩がビクッと跳ねた。
カラカラが怯えた顔でタタを振り返った。その表情を見て、タタは顔をしかめた。
「おめえ、何かされたか?」
タタの真剣な問いに、カラカラは答えられなかった。
タタはチッと舌打ちし、周囲を見渡した。
おもむろにカラカラの手をつかみ、階段を足早に下りはじめた。
カラカラは引きずられるようについて行った。そのまま一階まで下り、外に出た。
タタは、近くの路地に入り込み、奥へと進んだ。
廃屋に挟まれた人気のない場所で、カラカラと向かい合った。
「おめえ、何された?」
「何も」
「つまんねえ嘘とかいらね」
タタは睨むようにカラカラを見た。
カラカラの呼吸が乱れてきた。上手く声が出せなかった。引き絞るように声を発した。
「なめられた」
「何を」
カラカラは青ざめ、呼吸が荒くなり、息苦しくなってきた。
「口、口の中。無理やり、飴、口移しされて」
タタの眉間にしわが寄った。
「他は」
「されてない」
タタはチッと舌打ちし、くそ女が、と吐き捨てた。
それから、カラカラに近づき、青ざめた顔を両手で挟んだ。
タタは顔を斜めに傾け、カラカラの唇をなめた。
カラカラは、あまりにも予想外のタタの動きに、呼吸を止めた。
「何これ」
間の抜けた声が出た。タタは、当たり前のように答えた。
「消毒。あとは?」
カラカラは、顔をタタの両手で挟まれたまま唖然とした。
少し考え、舌を出した。
タタが近づき、それをぺろりとなめた。
「よし。完璧に消毒した」
タタが満足げに言って、カラカラの顔から手を放した。
いつしか、カラカラの呼吸は元に戻っていた。
「これ、消毒なの?」
カラカラのもっともな問いに、タタは力強く頷いた。
「おう。アニヤさんに教えてもらった」
タタはある日、アニヤとアネモネがキスしている場面に遭遇した。
見てはならない場面を見てしまったかと慌てた結果、豪快に何かにつまずいて転んだ。
気づいたアニヤが、タタを呼んだ。
「タタの思っているようなロマンチックなものじゃない。これは消毒なんだ」
ややまなじりの下がった瞳が、いつもの穏やかさを消していた。
アネモネは涙ぐんでいた。
汚いものが触れたから、同じように触れることで中和するんだ、感触を重ねて感触を消すんだ、とアニヤは話した。
タタは真剣に聞いた。
「信頼してる人間同士じゃないとできないってさ。俺たち、仲間だし家族だろ」
タタの説明を聞くうちに、カラカラの細い目から大粒の涙がこぼれ落ちた。
「怖かった」
「だろ」
「気色悪かった」
「だろ」
カラカラは涙をぬぐった。タタは腕組みをして聞いた。
「今はどうよ」
「意外ともう平気」
「だろ」
タタがうれしそうに笑った。カラカラも泣きながら笑った。
それを見て、タタはまた照れくさそうに笑った。そして、再び真剣な顔をした。
「シェイドには、くそ女の相手は無理だ」
カラカラは、涙をおさめながら、同じく真剣な表情で頷いた。
「シェイドは頭いいし、できる奴だけど、あぶねーとこがある。無理なもんは無理だ」
「そうだね」
「あいつを守れるのは、俺たちだけだ」
「うん。シェイドには、私たちしかいない」
「くそ女の相手は俺がする」
「くそばばあの相手は私がする」
タタとカラカラは、真剣な表情のまま見つめ合った。
「これは秘密だ」
タタの宣言に、カラカラは思いを込めて頷いた。
タタが最初に立ち去った。
カラカラは、心と体が落ちついているのを感じた。
少し時間をおいて、カラカラも路地を出たのだった。