シェイドの爆発
タタは、先日の波乱の後、急速に落ちついた。
体の怪我も見た目ほどのことはなく、数日で元気に動き回れるようになった。
「心配かけて悪かったな。これからもよろしく頼む」
タタは、照れながらも、しっかりと顔をあげ、そう言った。
改めて、3人での話し合いがスタートした。
話は滑らかに進み、次の仕事は翌週土曜と決まった。
久しぶりの仕事なので、リスクの少ない簡単な盗みを計画することにした。
そして、シェイドは今、503号室で仕事の計画を立てようとしていた。
「はあ」
幾度目かのため息が口からこぼれた。
シェイドはペンを投げ出し、机の上の白紙をまくらにするように、頬をのせた。
「はあ」
気がつくと、フロウとミカエルのことを考えていた。
二人と会う約束は、今週の金曜日だった。
タタのことがあって、カラカラの涙を見て、忘れなければいけないと深く思った。
だが、そう思うほどに、フロウとミカエルの姿が色濃く蘇ってきた。
フロウと目が合って、ふれあった時の、痺れるような衝動が、胸を締め上げる。
ミカエルと手合わせするときの、血沸き肉躍る、総毛立つような体感が、ゾワッと体を駆けめぐる。
ダメだと強く言い聞かせると、心の奥から、会いたい、会いたいという声が返ってくる。
「どうしよう」
シェイドの心は引き裂かれ、困惑の中にあった。
その頃、タタは、アジト1階の共有スペースで、ユージンに呼びとめられた。
「ちょっと話があるんだ。来て」
返事をする間もなく腕を引っ張られ、階段を上り、2階のユージンの部屋に連れ込まれた。
9人分の布団が敷きっぱなしになった部屋は、日中ということもあり誰もいなかった。
「臭え。相変わらず、汚ねえ部屋だな」
「うるせえよ。そんなことどうでもいいから。俺の話を聞けっての」
ユージンは険しい顔をして、手招きをした。
「何だよ。マジな話かよ」
タタは遠慮なく、いくつもの布団を踏みつけ、ユージンの前に立った。
「昨日の夜なんだけどさ」
ユージンは、抑えた声で話し始めた。
「マッドのチームが酒を盗んできてさ、酒盛りになったわけ」
マッドの名前を聞いて、タタは眉をひそめた。
「あいつら、酒だけは盗むの上手いんだよな」
「ん。ケース、3つはあったな。でさ、飲もうぜって声かかって、俺、行ってきたんだ」
ユージンは、タタ同様、人づきあいが上手い性質だった。
タタが対立しているチームとも、ユージンはつき合っていた。
お前はどっちの味方なんだと問い詰められる時もあったが、とぼけた存在感でするりとかわしていた。
いろいろな付き合いがある中で、タタとユージンは、お互いに近いものを感じとっていた。
チームとは別の信頼があった。
ユージンは腕組みをしながら続けた。
「2階の絨毯だったんだけど、酒飲みたい奴らが、結構、集まってさ」
2階の絨毯とは、2階にある絨毯敷きの共有スペースのことだった。
いつも多くの子どもたちがたむろしていた。
「皆、大騒ぎでさ」
「何か、うるせえと思ってた。そんなことやってたのかよ」
「ん。俺、別に、酒そんなに好きじゃないからさ、ちょっとだけ飲んで、後は、適当に騒いでたわけ」
「おう」
「酔っぱらった奴らが、ベラベラしゃべり出したんだ」
「何を」
ユージンは、苦いものを口にしたような顔で言った。
「四ツ辻の肉屋の件」
タタの体が勝手にびくっと反応した。
タタは、震えを押さえこむように、すぐさま右腕で体を抱いた。
「まだ、怖えーみてえだ」
体の反応を気まずく思ってタタが言うと、そりゃそうだろとユージンは頷いた。
「あいつら、四ツ辻の肉屋と俺らのこと、好き勝手言ってやがったのか」
気を取り直すように、不愉快をにじませてタタは言った。
ユージンは首を横に振った。
「言ってたけど、そんなのわざわざタタに言わなくていいだろ。もっと、悪いこと」
ユージンはその場にあぐらをかいて座りこんだ。合わせてタタも座った。
「俺、つげ口とか好きじゃないんだけどさ」
「知ってるよ、おめえのことは」
「俺、やっぱ、マッドたちより、タタなんだ」
「当たりめえだ」
「黙ってらんないから、言う」
「おう、何だよ」
ユージンは高ぶりがちな声を抑えながら、早口で昨夜の出来事を話した。
聞いているタタの顔は次第に強張り、青ざめていった。
体が小さく震え、両手は知らぬ間に固く握りしめられた。
ユージンがそんなタタの様子を気にしながら話し終えると、タタはガバッと立ちあがった。
「お」
ユージンが声をかける間もなく、タタは激しく足を踏み鳴らしドアに向かって駆け出した。
敷きっぱなしの薄い布団が蹴散らされ、埃がたった。
「おい!待てよ!」
開け放たれたドアが、壁にぶつかりガンッと大きな音を鳴らした。
ユージンはタタが向かった先を正しく想像し、先ほどのタタと同様に青ざめた。
そして、少しの間の後、我に返り、慌ててタタの後を追ったのだった。
「痛い!」
カラカラは、横から弾丸のように走ってきた誰かに追突され、床に突き飛ばされた。
ぶつかってきた小柄な相手も転んでいた。
「ユージン!あんた!」
カラカラは相手を認識し、非難の声をあげた。
しかし、ユージンはすぐさま起き上がり、カラカラを無視して駆け出した。
腕も腰も足も、ジンジンと痛んだ。
カラカラは頭にきた。
また何か、くだらない鬼ごっこでもして、必死に走り回っているのだろうと思うと、ユージンに謝らせなければ気が済まなかった。
ユージンの向かった方向へ、カラカラも走り出した。
突然、ワーッという大勢の声が、廊下を曲がった奥の方から響いてきた。ユージンの向かった先だった。
何事かと思いながら、カラカラは追って行った。
2階の絨毯に人の輪ができていた。
カラカラは目を見開いた。
人の輪の真ん中で、タタがマッドたちのチーム3人とつかみあい、怒鳴り合っていた。すぐに取っ組み合いになりそうな気配だった。
「何これ」
予想外の出来事に、カラカラは小さくそうつぶやき、一瞬頭が真っ白になった。
ふとずらした視線の先に、ユージンの背中が見えた。
人の輪の外側にいたユージンに、カラカラは駆け寄った。
「ユージン、あんたこれどういうこと!」
「カラカラか!まずいよ、3対1だ」
見るからにタタは不利だった。
そもそも体格が違った。細身のタタに対し、マッドは固太りで見るからに頑丈そうであった。マッドのチームメイト、ペドロは体型は普通だが背が高く、ドーブは背は低いが太っていた。
対峙すると、タタは3人に押しつぶされてしまいそうに見えた。
カラカラとユージンは目を合わせ、同時に言った。
「シェイド!」
二人は階段に向かって走り出した。
後ろから、やっちまえ!早く殴れ!などと、けしかける野次馬の少年たちの声が聞こえてきた。
503号室に、カラカラとユージンが飛び込んできた。
フロウとミカエルの面影に思いが飛び、仕事の計画が遅々として進まずにいたシェイドの冴えない頭が、突然の出来事にピピッと覚醒した。
「タタが、マッドたちのチームと2階の絨毯でケンカしてる!一人で!あのバカ!」
カラカラが息せき切って叫んだ。
「どうした、何があった」
シェイドは状況を把握しようと尋ねた。
「俺のせいだ。俺が昨日のこと、タタに話したから」
息を切らしながら、ユージンが言った。シェイドは目顔で話をうながした。
ユージンは、シェイドの落ちついた表情を見るうち、自分の呼吸も整うように感じた。
「昨日、マッドたちが酒盗んで、2階の絨毯で皆で飲んでて。んで、酔っぱらって、ペドロが、四ツ辻の肉屋の話をしたんだ。シェイドたち、いい気味だって」
「何よ!あいつら!もとはと言えば、あいつらがドジった仕事じゃないの!」
カラカラが目を吊り上げて噛みついた。
「そんなことじゃなくて、俺が言いたいのは、まだ先。ドーブが言ったんだ。俺らがはめてやったって」
シェイドの眉がピクリと動いた。
「はめた?」
シェイドの小さなつぶやきに、ユージンは二度頷いて説明を急いだ。
「うん。そしたら、ペドロが笑ってさ、あれは傑作だった、あいつらまんまとヘマしやがったって。あのリュックサック、すり替えたのは俺だって自慢してた」
カラカラは青ざめた。まだ、全容は見えないが、ものすごく嫌な話に感じられた。ちらりとシェイドを見ると、シェイドの目が鋭さを増しているのが見えた。
「ヒルダが全員に同じリュックサック配ったろ。あれをハサミで切って、ノリでくっつけて、何か物が入ったら、パカッて破けるように仕組んだって。マッドが考えたって、吹いてた。シェイドのバカチーム、ちまちま準備してやがるから、何を使うか丸分かりだって。部屋も生意気に3人部屋だから、簡単に忍び込めるし、リュックサックをすり替えるのも余裕だったって」
カラカラの唇が震えた。
「何てこと…」
「ペドロが偉そうに言うんだよ。狙ったとおり、荷物入れて走って、リュックサックが破けて、物を落としたんだぜって。狙いが外れたのは、四ツ辻の肉屋がシェイドたちを八つ裂きにしなかったことだって。俺、聞いてて、すげー腹がたって」
シェイドの中で、忘れかけていた四ツ辻の肉屋の気配が蘇ってきた。
四ツ辻の肉屋の底なしの瞳の奥に見えた、薄気味悪い気配の記憶だった。
不快と恐怖の入り混じった、何とも言えないドロリとした感触が、腹の中で広がってきた。
簡単にぬぐい去ることのできない体感だった。
ユージンはシェイドに伝えきってしまいたくて、早口で続けた。
「俺、タタがどんだけ怖い思いしたか聞いてたし、四ツ辻の肉屋はシャレになんねえし、大体、あの話は、マッドたちがバカやって持ってきた話だったはずだから、ふざけんなって思って。つっても、俺、ケンカはからきしだし、何もできねえけど、タタがあんな目にあったのは、タタのせいじゃなかったって言ってやんなきゃと思ってさ。それで、さっき、タタに教えたんだ」
「あのリュックサックが破れたのは、マッドたちの仕業」
カラカラは、事態をだんだん把握し、半ば茫然とした。
「あのリュックサックが破れなかったら、あんな怖い目には合わなかった」
「だろ?俺、マジでむかついたんだ」
「それでタタのやつ、ブチ切れて2階の絨毯に乗りこんだのね。マッドたち、あいつら本当許せない!」
カラカラは涙がにじんできた目で、シェイドを見た。
ハッとした。
久しく見ることのなかった表情のシェイドがいた。
シェイドは何か、自分のねじが一つ、吹き飛んだような感触を自覚していた。
だが、そこまでだった。
内側で錯綜していたさまざまなものを焼き尽くす真っ白な光が、体中にブワッと広がっていた。
高温過ぎてすべてを蒸発させてしまったかのように、自分の内側にあったものが何も見えなくなった。
ただひたすらにクリアで破壊的な怒りが、シェイドを支配していた。
釣り上がった両眼を爛々と輝かせ、髪の毛を逆立て、赤い唇を引き結んだシェイドを見て、ユージンはぎょっとして一歩退いた。
その一歩引いたユージンの足が、落ちていたボールにぶつかった。
そして、そのボールが転がり出すのとほぼ同時に、シェイドは部屋を飛び出した。
あまりのスピードに、ユージンはパチパチとまばたきをした。
カラカラは、かつて救急箱を持って追いかけたシェイドに再び出会い、胸がざわめき、めまいがした。
「何だ、あれ」
ユージンの口から、思わずつぶやきがこぼれた。
カラカラは無意識に三つ編みの先を両手でギュッと握っていた。
「悪魔みてえだ」
ユージンが続けると、カラカラはハッと我に返った。
「バカ!行くよ!」
バシッとユージンの頭をはたき、カラカラはシェイドの後を追って駆け出した。ユージンも頭をなでながらその後に続いた。
2階の絨毯で、タタはペドロとドーブに両脇を固められ、真向かいからマッドにいたぶられていた。
「だせえ。所詮、一人じゃ何もできねえ虫けらが、のこのこ乗り込んでくるからこうなる」
タタは歯を食いしばり、マッドをにらみつけた。
マッドは鼻で笑って、タタの頬をはたいた。
すでに腫れあがったタタの頬が更に赤みを増した。
「だせえ」
ペドロとドーブがけたたましく笑った。
つまんねえからタタを離せよ、と取り囲む少年たちからヤジが飛ぶ。
「ああ、ああ、分かった分かった。今、面白くしてやるよ」
マッドは笑って周囲の少年たちに手を振り、ペドロとドーブに手を離すよう命じた。
両脇から放り投げられ、タタは膝をついた。
「タイマンなら、文句ねえか」
マッドは口元に笑いを貼りつけたまま、拳を構えた。
タタは何も言わず、よろめきながら立ちあがり、ファイティングポーズをとった。
周囲からドッと歓声が上がった。
マッドはすぐさま、タタの顔面目がけて拳を振るった。
タタは、両腕でガードした。マッドの拳は重く、衝撃で足元がふらついた。
そもそも、ここに来るまで、3対1で散々いたぶられている。急所を外すよう、体をかわしてきたが、痛みは加算され、体力は削られていた。
マッドは続けざまに拳を打ち込んできた。2発、3発としのぐが、タタのむき出しの両腕も真っ赤に腫れていた。
痛みで腕の力が抜ける。緩んだガードの間から、余裕の笑みを浮かべたマッドが見えた。
忌々しい顔を、タタはひたすらににらみつけた。
反撃の手ももはや出せず、ただただ強く憎んだ時、それは起こった。
激しい勢いで、マッドが前のめりに突き飛ばされてきた。
タタは巻き込まれ、跳ね飛ばされた。
わずかに受け身が遅れ、少し頭を打ったため、軽く意識が飛んだ。
一瞬ののち、意識が戻ると、周囲のざわめきが先程までと違っていた。
はやし立てるような声はなく、戸惑い、ためらうような話し声。そして、何かを打ちつけるような鈍い音。
タタは、痛む体を起こし、顔を音の方へ向けた。
悪鬼がいた。
先程までタタを痛めつけていたマッドの上に、鬼の形相をしたシェイドが馬乗りになっていた。
マッドの襟首をつかんだシェイドは、締め上げるようにしながら、マッドの頭を何度も床に叩きつけていた。
マッドはすでに意識を失っているように見えた。
ペドロとドーブが、ハッとしたように顔を見合わせた後、恐る恐るといった風情で声を上げた。
「おい、何をてめえ」
「やめろよ」
二人の声は小さく、震えていた。
シェイドはピタリと手を止め、二人を見た。
つり上がった目に射抜かれ、二人の体はビクッと跳ねた。
シェイドはおもむろにマッドから離れ、ペドロとドーブが逃げる間もなく、二人の顔を一発ずつ殴った。拳は顎をとらえ、脳が震え、二人とも一撃で床に沈んだ。
シェイドは再びマッドに戻り、マウントをとった。
すでに意識なく横たわるマッドを、上から殴り始めた。
淡々と、右、左、また右、と交互に両手で殴り続けた。
シェイドは正気じゃないとタタが青ざめた時、静まった周囲をかき分けるように、ユージンとカラカラが現れた。
タタとカラカラの目が合った。
「アニヤさんを呼べ!」
タタのかすれた叫びが終わる前に、カラカラは再び走り出した。
アニヤは、カラカラの要請を受け、すぐに2階の絨毯へ向かった。
シェイドを見てすぐに事態を察した。
迷わずシェイドへ駆け寄り、その顔を全力で殴った。
不意を突かれ、シェイドは、マッドの上から床に転げ落ちた。
すぐさま、体勢を立て直そうとするシェイドに、そうはさせじとアニヤが動いた。力づくでねじ伏せ、後ろ手に押さえつけ、うつぶせのシェイドに乗りかかった。
「離せ!貴様!殺してやる!」
シェイドが恐ろしい形相で叫び上げていた。暴れるシェイドをアニヤは全力でつぶした。
「ユージン!ダク先生呼んで来い!すぐにそいつら、特にマッドを診せるんだ!早く行け!次はカラカラ、アネモネのところに寄って一緒に金庫バアに報告行け!」
アニヤの厳しく強い声に、ユージンとカラカラはすばやく反応した。
「タスクとレイコウのチームは残れ!後は全員、見てんじゃねえよ!さっさと散れ!」
野次馬たちは、慌ててその場から駆け去った。
わずかな時間で、2階の絨毯は人気のない場に変わった。
シェイドは、死ね、殺すなどと物騒な言葉を吐き、拘束から逃れようと強い力で身をよじっていた。それを押さえつけるアニヤの二の腕の筋肉が、固く張り詰めていた。
「タスクのチーム、俺と代われ。全員でシェイドを抑えろ。油断するな」
シェイドより5才年上のタスクたちは、アニヤの命にすぐに従った。
アニヤが手を離し、体を起こすのに合わせて、タスクは体を滑り込ませ器用にシェイドを抑えつけた。力の緩んだ隙に逃れようとするシェイドを、仲間の二人が逃さず腕を固めた。
アニヤは、うつぶせのシェイドの顔の方へ行き、座り込んだ。
「でたらめな馬鹿力だな」
アニヤの声と視線に柔らかさが戻っていた。
シェイドは一人、激しくのたうち叫び続けていた。
タタは、まだ体の自由が利かず、少し離れた場所からそれを見ていた。
アニヤがいるだけで、タタの体のこわばりが緩んだ。
「おそらく、これ、すぐにはおさまらないから、タスクたちが疲労したらレイコウのチーム、交代」
アニヤの指示に、タスクとレイコウの両チームが頷いた。
そうしているうちに、バタバタという足音が近づいてきた。
「今度は何やらかした。あんまり走らせるなよ。何だ、ギャーギャーわめいて。お前がやったのか、アニヤ」
息を切らしてユージンとダクが到着した。
ダクは額の汗を白衣の袖口でぬぐいながら、そう言ってアニヤを見た。
「やめて、先生。俺じゃない。とりあえず、やばいから、マッドみてやって」
ダクは、転がって動かないマッドに駆け寄り、診察を始めた。
「おいおい、ふざけた怪我だな。かろうじて意識あり。バカか。仲間内でやりあうときは加減しろ。おそらく、命は問題ない。だが、それ以外は問題ありだぞ。後遺症が出ることは否定できない。動かすのも一苦労だな。担架持ってこい」
軽い口調だが、ダクのまなざしは厳しかった。
アニヤは少し息を吐いて、レイコウのチームに指示した。レイコウたちは、担架を取りに走った。
「先生、次、こっち。タタは大丈夫だな?」
シェイドを指さし、顔だけタタに向け、アニヤは確認した。タタは慌てて何度も頷いた。
シェイドは、意味をなさない声を上げていた。
「ばかやろう。そんなにいっぺんに診られるか。こっちの処置が済んでから鎮静剤を打ってやる。黙って抑えつけとけ」
アニヤは、鞄から道具を出しバタバタと応急手当てをするダクから、叫び続けるシェイドへと視線を移した。
「ずいぶん大声だな」
アニヤはあぐらをかき、右ひじを膝につき頬杖をした。
「まだそんなに残ってたのか。出る時を待ってたのか。いつまでたっても、終わりなんてないのか。俺にもまだ残っているんじゃないかと怖くなる」
アニヤはつぶやくようにシェイドに語りかけた。
「これは貸しといてやる。俺が破裂したら、今度はお前が止めてくれ」
シェイドの叫びは、鎮静剤を打ってからもしばらく止まらず響き渡ったのだった。




