それぞれのゲーム
転校生のオトハは俺と同じ世界の住人だった。
彼女は弟がふざけて拾ってきたという乙女ゲームを片そうとしてこの世界に来たのだと言う。
「えっと、つまりさ。お前は乙女ゲームの主人公としてこの世界に来たってか?」
「そうだと思ってたんだけど、どうしてあなたはここに。」
「えっとぉ。」
言いにくいが、ここは正直に話すしかない。
ひとまず先生に体調不良を伝えて保健室に移動することにした。
男女のペアに気を使ってか、保険医の美人な先生が適当な用事を作っていなくなる。
恋愛イベントは邪魔しませんってか。
何にしろ都合が良いので、これまでの経緯やら推察を彼女に話しておいた。
「ってことは、ここって乙女ゲーとギャルゲーの混ざった世界?他にも混ざってるのかな。」
「ホラーゲームとか混ざってないといいな。」
「ちょっとやめてよ。」
どちらもゲームをプレイしていない以上、その考えが正しいかは不明なままだ。
それにしても彼女の方はこの世界で姿形も変わってしまったのだというから羨ましい。なんでだよ。
「とにかく、これからは情報共有して一緒に元の世界に戻る方法を探そう!」
「え、戻るの?」
「戻らないの!?」
スマン。
何不自由ない訳だし、青春を十分に謳歌するつもりだったんだが。
「だって、戻る方法なんて見つかると思うか?探すより、楽しむ方がいいと思うんだが。」
「そ、それはそうかも知れないけど。」
「お前だって、乙女ゲームの主人公になれて嬉しかったりしなかったのか?」
「二次元だからこそ良い物もあるでしょっ!」
それには同意するが、やけに鬼気迫った顔で怒鳴られた。
しかもめっちゃ青ざめている。どうした。
「朝起きたら知らない人が一緒のベッドにいてめちゃくちゃ驚いたし。」
「あ、あのお兄さんね。」
「あの人ぜったい原黒だし!教室来るまでには何人もの人にやけに近い距離で話かけられるわ上から目線で口説かれるわ。」
「も、モテるやつは大変だなぁー。」
「喧嘩ふっかけられるわ毒舌言われるわで嫌になってきた。」
「いやそれはゲームと関係なくね?」
「周囲からはイケメンで有名で女子にモテモテな人たちだって教えてもらったんですが。」
「それは関係ある予感しかしねぇ...。」
乙女ゲームのことは詳しくないが、イケメンって条件なら容易にわかる。
おまけに有名人となれば攻略対象として外されている可能性はどう考えても低いだろう。
「原黒兄貴が家にいるだけでも大変なのに、このままだと私の苦手な属性に囲まれるはめになる。」
「苦手な属性って?」
「ヤンデレ、鬼畜、俺様、冷酷、遊び人に女嫌い。」
「さ、さすがに一人ぐらいは。」
「一人ぃ…。」
「いや~、何人かは気の会う奴もいると思うけどぉー?」
だが後に、あの美人な保険医がオネェ系っぽい女たらしな男性だと知って、俺は放心することになることになる。
頑張れ、オトハ。