ベランダからロマンス
かわいらしい妹として接する彼女と少しだけ会話を交わした俺は、すぐに部屋に戻って今の状況を把握することにする。
どうやら俺は、ゴミ捨て場で拾ったギャルゲーの世界にいるらしい。
よーく思い返してみれば、朝起きる前に自分はゴミ袋に入っていたギャルゲーなどの私物のチェックをしていたはずだった。
しかし途中で俺は拾ってから気になっていたそのギャルゲーに目が行き、手にとった。
表には一人の少女。裏には『リアルを追求。現実のように恋愛生活を楽しめるゲーム。』という売り文句と背景がいくつかあるだけのシンプルなパッケージだった。
まさかその少女が妹キャラだったとは。メインの攻略キャラだからだとは思うが、もしかしたら妹という一番近い立場だからかもしれない。
さて、それでどうして俺がそういった情報をまるで知らないのかというとだ。
それじゃあ中身を確かめようとパッケージを開けたのは覚えているのだか、そこからの記憶が全く思い出せないのである。ということはおそらく、その時俺はこの世界に飛ばされてしまったのだろう。
おいおい、普通はゲームの知識を使って上手くことを進めるもんじゃねぇのかよ。
ゲームどころか説明書があるかすら確認できなかったし、どんなギャルゲーなのか知らないっていうのにこんな世界に来させてどうしろというんだ。どうすればいいかまるでわからないじゃないか!
売り文句通りのゲームだとして、作った奴に文句の一つでもつけたいと思っていると。
「ぅわーっ!わぁああああーっ!」
女性の悲鳴だった。
俺は慌てて聞えてきたベランダの窓を開けて外に出る。
「なんで逃げるんだ!?起しただけじゃないか妹よ!」
「来ないで!いいから来ないで!」
なんだ、ただの兄妹喧嘩だったらしい。
その妹は慌ててベランダを閉め、手で硬く固定する。部屋の中にいる兄は一生懸命声をかけているようだが、妹は頑なに拒む。
諦めて窓から離れて行った後、部屋から出たのを確認した彼女はほっとため息をついた。
「もう。何が起しただけよ。ベットに潜り込んで抱きしめてたくせ・・・に。」
誰もいないと思って呟いた彼女は前を見て驚愕する。それもそうだ。俺が間近で見ていたのだから。
俺の部屋のベランダの向側には、隣の家の彼女の部屋のベランダがあったのである。彼女達の様子が簡単に見て取れたのも当然のことだ。
どういう建築設計したらこうなるんだよ。せいぜい窓だろ。
「えっと。大丈夫、ですか?」
「あ、はいっ大丈夫です!大丈夫ですから、気にしないでください!」
「そうですか。それは、よかった。」
「ご、ご迷惑お掛けしましたぁ。」
気まずい雰囲気の中どうしたものかと悩み、悲鳴をあげていた彼女の安否を確認してみることにしてみた。
俺の言葉で彼女も何故俺がベランダにいるかを把握したようで、顔を真っ赤にして答える。
よっぽど恥ずかしかったのだろうか、中に兄がいないかを確認すると即座に部屋の中に戻っていってしまった。ご丁寧にカーテンもしっかり閉めて。
一連の騒動も終わったようだし、俺も部屋に戻ることにする。時計を見るとそろそろ良い時間のようで、ちょうど良く妹からの「朝ごはんできたよー。」という掛け声が聞えた。
ひとまず、出かける準備をするためにベランダの鍵を閉めながら先ほどの女性のことを思い出していた。
お隣さんということは、彼女はキャラ設定でよくある幼馴染なのだろうか。
しかしあの悲鳴は、あまり女性らしいといえるものではなかったな。女の子の悲鳴といえば「きゃー」だろやっぱり。活発、もしくはボーイッシュ?あぁ、でも。
「すっげぇ美少女だったなぁ。」
しかもパジャマ姿だ。美少女の寝起きのパジャマ姿。
早起きは三文の徳というが、いやはや、なかなかのものが見れたなぁなんて思いながら俺は食事をとりにいく。
食事中、どうせなら俺もあの子に相応しいような美少年になってたらよかったのにと考えたが、残念ながら洗面台の鏡に映るのはまさに俺なのだった。