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06 記憶と真相

短いです。閑話っぽいです。あさーりです。


 星華は頭を抱えていた。


(ちょ、まじか……うあ〜、思い出した……)


 あっさりと、実にあっさりとさっくり記憶を取り戻していた。先日呪い屋として呪いを売った後、すっかり忘れていた記憶の件をひいちゃんに言って。


(まじかあ……、……まじかあ……!)


 非常に困惑していた。

 ひいちゃん達が心配そうに見守る中、星華は記憶を整理する。


(えっと、発端は……、お父さんとお母さんが……死んだ、事……)


 事故だった。結婚記念日で、両親二人だけで一泊旅行に行ったのだ。星華だけ残していくことを心配する両親に、もう高校生だから、一人でも大丈夫だと後押しし、送り出した。


 その帰りだった。両親が逝ったのは。


 温泉で一泊した二人は、星華にお土産を期待してねと、今帰るからとメールし、居眠り運転のトラックと衝突した。即死だったらしい。


(それで……、それで御葬式の後……)


 呆然とする星華を見兼ねたのだろう。真っ白な顔色の彼女の手を引き、散歩に誘ってくれたのは幼馴染みだった。

 互いに制服姿で、言葉はなくただ歩いていた。


(そう……それで、けんちゃんが……)


 ぼーっと心ここに非ずの星華を、幼馴染みが突き飛ばしたのだ。塀にぶつかり、次いで聴こえた甲高い不快な急ブレーキ音に、目を見開いた。

 ――――目の前で、幼馴染みが赤いスポーツカーに、轢かれた。

 その後の事は、よく覚えていない。ただ、叫んで錯乱して駆け寄って。車の運転手は口封じのつもりか星華に襲い掛かり、ひいちゃんに返り討ちにあった。


(――…そして気付いたら、異世界だった)


 有り難いことに、異世界に来てからの記憶はある。なんと言うか、あっさり分かりすぎて少し混乱気味。だが、幼馴染みの生死も、異世界に来た原因も分からないままだった。


(健ちゃんはどうなったの?)

「……ひいちゃん、何か知ってる? 健ちゃんは、どうなったの……っ!?」


 真っ赤に染まって倒れる、幼馴染みの姿が瞼の裏に貼り付き離れない。最悪の結末が脳裏を過った。

 口下手な、地味と言うより暗い自分を然り気無く気遣って、見捨てず仲良くしてくれていた大切な存在。互いに恋愛感情はないが、大切だと言える存在だ。そんな彼が、目の前で。 震える体を抱き締め、ひいちゃんの返答を待つ。


『彼の方は、生きています』

「――!」


 どっと力が抜けた。ただただ安堵し、いつの間にか詰めていた息を吐いた。 しかし、ただ…、と続いた言葉に絶句する。


『ただ、地球での彼の方は死にました』

「…………、は?」

『簡単に説明しますと、あの時彼の方は亡くなり、原因は不明ですが神と呼ばれる存在の気紛れで異世界にて第二の人生を送る事になりました』

「………いせかい?」

『はい、つまりここです。そこで彼の方は願いました。マスターも連れてくるようにと』


 それが異世界トリップの原因だったのだろう、とは分かった。だが、色々はしょりすぎて疑問符が頭の中で飛び交った。

 ひいちゃんは、心を読んだように簡単な説明をする。


『まあ、上位存在の考えることなど理解不能ですし、彼の方もよかれと願ったことです。ご両親を亡くし、続けて幼馴染みを亡くしきっと耐えられないだろうから、と』

「よかれと……、確かにあっちではもう大切な人はいなかったけど……。……でも、じゃあなんで、私一人でいたの?」


 連れていくと言ったくせに、どうして一人ぼっちにしたのだろうか。

 ぐちゃぐちゃになった感情が、震える声を通してひいちゃんに伝わる。複雑な思いに瞳が揺れた。


『彼の方は、私の存在を知っています。多少離れても大丈夫だと思ったのでしょう』

「っでも……!」

『―――それに、マスターの目の前で血塗れになった自分が現れては……と。混乱させてしまうだろうと、一応気を使ったようです』

「こ、んらんって……」


 それだったら、すぐに現れてくれた方がよかった。その方が、安心出来たのに。


『ええ……連れていくにあたり、マスターを異次元空間に呼びました。その際、私がマスターが心因性の記憶障害を患った可能性があると示唆しました』

「………、そんなの、知らない……」

『あの時、マスターはショックから気を失っていましたから』


 サーッと青ざめ、カタカタ震える星華。自分の知らないところで、そんな事があったのか。自分だけが、知らなかったのか。

 ぐるぐると、ぐちゃぐちゃと纏まらない思考。過呼吸気味になり、ひいちゃんの影手が星華の背中を優しく擦った。


『記憶がないならば、辛い記憶を無理に引き起こす必要はないと。ちゃんと思い出すまでは……心の整理がつくまでは会わないと、仰っておられました』「………」

『……、少し休みましょうか。マスター、ゆっくり休んで整理してください』


 無言で膝を抱え丸まる星華を影手で抱え上げ、寝室へと運んでいった。


 記憶こそあっさり戻ったが、その後には大分時間が掛かりそうである。




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