↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

懺悔

作者: 結城絡繰
掲載日:2026/09/25

●冬の駅

雨が降る駅。

赤い傘をさしたスーツ姿の男、駆け足で駅に入る。

傘を閉じて改札を抜けた際、後ろから女子高生がぶつかってくる。

男、ぶつかられた弾みで鞄を落とす。

女子高生、男の荷物を蹴り飛ばしながら振り返って睨む。


女子高生「邪魔!」


女子高生、走り去る。

男、不満そうに荷物を拾う。


男「なんだよ、もう……」


男、駅のホームに到着する。

ほぼ同時に電車が発進して乗り損ねる。

男、深々とため息を吐く。


男「くそ……」


男、傘についた雨粒を振って落としながらホームを歩く。


男「うぅ、寒……」


男、ホームにある待合室に入る。

室内は暖房が利いており、男は椅子に座って幸せそうに息を吐く。


男「ふぅ……」


男、一息つく。

少し遅れて、雨具を持たないずぶ濡れの女が待合室に入ってくる。

女、水を滴らせながら端の席に座る。

女、黄ばんだ大学ノートを開いてぼんやりと眺めている。

男、気にせずスマートフォンを操作している。

男、ふと視線を感じる。

顔を上げると、目の前に女が立っている。


女「あの……」

男「えっ!?」


男、ぎょっとする。

女、陰鬱な雰囲気で話し出す。


女「電車が来るまでの間、私の懺悔を聞いていただけますか?」

男「はぁ……別にいいですけど……」


男、気味悪そうにしつつも頷く。

女、男の向かい側に座り、大学ノートを読みながら語り始める。


女「私、窃盗癖があるんです。万引きや置き引きとか、お金に不自由していないのに、つい盗んでしまうんですよね……」

男「それは良くないですね……」

女「はい……駄目だと分かってるんですが……」


女、下を向いたまま大学ノートのページをめくる。


女「一週間前、公園にいた老人の荷物を盗みました。その老人は私が盗んだことに気づいて追いかけようとしました。ところが、胸を押さえて倒れたんです」

男「病気だったんですか?」

女「わかりません。私はその場から逃げてしまったので……」

男「救急車を呼ばなかったんですか?」

女「はい……逮捕されたくなかったんです。すみません、自分勝手すぎますよね」

男「まあ、そうですね」


男、渋い表情で頷く。

女、ぎょろりと男を凝視して問いかける。


女「誰かの物を盗んだ経験はありませんか?」

男「あ、いや、ないですね」


男、ギクッとしつつ答える。

女、瞬きせずじっと見つめて問いかける。


女「本当に?」

男「……はい」


男、目をそらして答える。

女、クスッと笑ってから話し出す。


女「さっき、喫茶店で傘を失くしたんです。傘立てに置いてたのを誰かが取ったんだと思います。お気に入りの赤い傘だったんですが……」


男、息を呑み、赤い傘をぎゅっと握る。

男、気まずそうに謝る。


男「すみません……」


女、無視して話を進める。


女「まあ、傘を取った人にも、きっとやむを得ない事情があったんでしょう。だから怒ってないんです。ちょっと誰かに伝えたかっただけで」


女、皮肉った笑い声を洩らしながら大学ノートをめくっていく。

気まずくなった男、女に質問する。


男「懺悔というのは、老人に酷い仕打ちをしたことについてですか?」

女「違います。老人から盗んだ荷物の中身を見てしまったことです。中身を見なければ、こんな目に遭わずに済んだのに……!」


女、大学ノートを地面に捨てると、いきなり号泣し始める。

女、喚きながら髪を掻きむしる。

やがて女の泣き声が笑い声に変わる。

女、興奮した様子で顔を上げると、目を見開いていきなり男に詰め寄る。


女「因果応報ってあるんですねぇ! 悪意は連鎖して終わらないんです! きっと老人が始まりではないんです! これまでも同じようなことが延々と繰り返されて……」

男「やめろ!」


男、女を振り払う。

床に倒れた女、ヘラヘラと不気味に笑う。

男、すっかり怯え切って距離を取る。


男「なんなんですか……」

女「ふふ、取り乱しちゃってすみません」


女、笑いながら起き上がる。

男、怪訝そうに尋ねる。


男「あの……老人の荷物とは何だったんですか?」

女「気になりますか。よければどうぞ。私にはもう不要なので」


女、大学ノートを拾い、男に押し付ける。

男、反射的に受け取ってしまう。

女、すたすたと歩いて待合室の扉を開ける。


女「ではさようなら」


女、駅のホームから飛び降りる。

直後に電車がやってきて女を轢き殺す。

血飛沫が散ってブレーキ音が鳴り響く。


呆然とする男、渡された大学ノートを見る。

男、恐る恐る緊張しながらノートを開く。


●夏の駅のホーム

人気の少ない朝の駅のホーム。

冒頭の女子高生が、ハンディファンを使いながら待合室に入る。

冷房の利いた室内で、女子高生は幸せそうな顔をする。


女子高生「わぁ、涼しいーー!」

男(off)「あの……」


女子高生、声に反応して顔を向ける。

そこには、大学ノートを読むスーツ姿の男がいる。

そばには赤い傘を置いている。

男、陰鬱な雰囲気で話し出す。


男「僕の懺悔、聞いてくれませんか?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。