第二部 第85話 2つの正義
レグノル城、玉座の間。
広大な王城の奥。
かつてレグノル王が座していた場所。
その玉座に、一人の男が座っていた。
炎を思わせる赤い髪。
鋭い瞳。
アルディアス。
七聖筆頭。
レグノル軍が玉座の間へ踏み込む。
セリナ。
カイ。
バルド。
エリーナ。
そして数名の兵。
アルディアスはゆっくり立ち上がった。
「……久しいな」
静かな声だった。
セリナは剣を構える。
「その席は」
「レグノル王のものです」
アルディアスは小さく笑った。
「そうか」
玉座の階段を降りる。
ゆっくりと。
「では最後に問おう」
その声は静かだった。
だが戦場より重い。
「ここで退け」
赤い瞳がセリナを見据える。
「貴様はまだ、殺したくない」
沈黙が落ちる。
カイが小さく息を吐く。
「降伏勧告か」
バルドが斧を肩に担ぐ。
「ふざけんな」
セリナは一歩前へ出た。
「拒否します」
剣を構える。
「レグノルは」
「今日、この場で解放します」
アルディアスの目が細くなる。
「そうか」
◆
次の瞬間だった。
炎のような速度。
アルディアスが踏み込んだ。
剣がぶつかる。
金属が弾ける。
セリナの剣が閃く。
光魔法が刃に宿る。
アルディアスの剣がそれを受ける。
衝撃。
石床が砕ける。
カイが驚く。
「速い!」
セリナが斬り込む。
だが――
アルディアスの剣が回転する。
一瞬。
セリナの剣が弾き飛ばされた。
剣が床を滑る。
アルディアスの刃が
セリナの喉元へ向く。
「終わりだ」
その瞬間。
風が裂けた。
ドン!
風刃が二人の間を割った。
エリーナだった。
すぐにセリナの前に立つ。
震える手。
強行軍でレグノルまで来たエリーナの体力は
すでに限界に近かった。
それでも目は真っ直ぐ
アルディアスを見据える。
「セリナ様に」
杖を構える。
「触らせません」
アルディアスが小さく笑う。
「勇気は認めよう」
◆
遥か遠く――
ファランシア。
医療区画。
リム=サクラは
アルヴァから急ぎ戻り
エリーナから託された
アオト宛のメッセージを開いていた。
「アオトへ……」
私達はレグノルへ進軍します。
貴方の目覚めがわからないけど
いままでありがとう。
貴方の事が、好きでした。
恐らく、アオトの代わりに読むサクラさんへ。
アオトの事をお願いします。
レグノル王女
セリナ=リュミエール・レグノル
リムは静かに目を閉じた。
そして。
眠る少年の横で読み上げた。
その声が届いたのかは分からない。
◆
眠る少年は――
夢を見ていた。
暖かな陽光の中。
僕を見つめる銀の髪の少女。
笑うと光に包まれたようで
とても可愛らしかった。
だが次の瞬間。
景色が変わる。
七聖の刃が振り下ろされる。
血。
誰の血だ。
声の届かない世界で
僕は必死に叫ぶ。
そして。
刃に触れ
少女が倒れ伏す。
「――ッ」
湧き上がる感情。
声にならない叫び。
少年の瞳が開いた。
アオトが覚醒する。
リムは息を呑んだ。
戦いは――
まだ終わらない。




