第7話 空より来る者(セリナ視点)
低い唸りが、空から降ってきた。
最初は風だと思った。
けれど次の瞬間、瓦礫の街全体が微かに震え始める。
「……来た」
私は反射的に空を見上げた。
灰色の雲を裂くように、影が現れる。
ひとつではない。三つ、五つ――いや、もっと。
巨大な飛空艇。
腹部に魔導推進器を備え、周囲に護衛艇を従えた編隊。
七聖の兵団。
胸の奥が冷たくなる。
「予想より早い……」
隣でアオトが低く呟いた。
義手の表示が高速で切り替わっている。
《飛空体識別:テンレア同盟軍》
《主艦級二/随伴艦八》
《降下準備シーケンス確認》
「降りてくる」
私は剣の柄を握り締めた。
「ここで、迎え撃つの?」
「いや」
アオトは首を振る。
「正面衝突は無理。まだ街の制御は三割も回ってない」
背後でカイが静かに言う。
「防御陣形を組む。最低限、時間を稼ぐ」
エリーナはすでに上空へ舞い上がっていた。
「索敵します! 高度と進路、共有します!」
その瞬間――
轟音。
遠方の瓦礫地帯に、眩い光柱が落ちた。
着陸だ。
衝撃波が街を走り、灰が舞い上がる。
「……始まった」
私は唇を噛んだ。
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◆
廃都の外縁部。
赤い推進光を残して、一隻の中型艇が地面に降り立つ。
装甲ハッチが開き、内部から軽やかな足音。
「うわぁ……これはまた派手に焼いたねぇ」
最初に姿を現したのは、青い外套を纏った青年だった。
軽装。
武器らしい武器も見えない。
けれど、その耳元で古びた金属片のような魔導具が微かに光った。
旧文明の残滓――そんな雰囲気を纏っている。
背後には完全武装の魔導兵部隊。
「ここがファランシアか」
青年は肩を回しながら、通信機に語りかける。
「――エミリオ・アクアマリン。現地到達」
耳元で魔導通信が返る。
『状況確認を』
「旧文明反応あり。地下炉心クラス。鍵保持者も確定」
彼は空を見上げて微笑んだ。
「いやぁ……久しぶりだなぁ。この感じ」
その目が、細くなる。
「面白くなってきた」
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◆(セリナ視点)
アオトが地下制御端末に手を添えた。
「防壁、限定展開。視覚攪乱も併用する」
低い駆動音。
街の一部が、淡く歪んだ。
空気が揺れ、建物の輪郭が曖昧になる。
「完全な隠蔽じゃない。光学的には隠せても……魔力の揺らぎまでは消せない」
アオトが悔しそうに呟く。
私は頷いた。
「それで十分よ」
その時――
エリーナが戻ってくる。
「来ます! 先遣隊、北西から!」
同時に、瓦礫の向こうから魔導兵の隊列が見えた。
整然と進む黒装束。
先頭には――青い外套の男。
視線が合った。
距離はまだある。
なのに。
彼は、こちらを“見ている”。
耳元の古びた魔導具が、微かに脈動していた。
「……セリナ」
アオトが小さく呼ぶ。
「たぶん、あの人が指揮官だ。……旧文明の探知具を持ってる」
私は深く息を吸う。
逃げ場はない。
街は半壊。
こちらは少数。
それでも。
「構えて」
カイが低く号令をかける。
剣が抜かれ、魔力が走る。
私は一歩前に出た。
王女としてではなく。
この場に立つ者として。
青い外套の男が、手を上げた。
「おーい。そこの王女様」
軽い声。
「とりあえず話そうか。撃ち合う前にさ」
廃都ファランシア。
灰の空の下。
七聖の使者と、滅びの王女が向かい合う。
戦いはまだ始まっていない。
だが――
すでに、引き返せる場所はなかった。




