第二部 第78話 新生レグノル軍
アルヴァ砦に、噂を聞き人が集まり始めていた。
朝から砦の入口には長い列ができている。
剣を持つ者。
槍を担ぐ者。
弓を背負う者。
だが装備はばらばらだ。
鎧を着た者は少ない。
農具を武器代わりに持つ者もいる。
それでも――
皆、同じ方向を見ていた。
アルヴァ砦。
城門の上から、カイが谷を見下ろしていた。
「……増えているな」
横でバルドが笑う。
「噂が回ったんだろ」
「祖国奪還ってな」
リーデル。
グラナス。
そしてアルヴァ。
三つの戦いの噂は、尾ひれをつけながら各地へ広がっていた。
祖国奪還。
その言葉が、人々を動かしていた。
◆
カイの元に兵が報告する。
「現在確認できている人数――」
「四百を超えました」
カイの眉がわずかに動く。
「一晩で、か」
さらに兵が続ける。
「周辺の村落からも集まっています」
「旧レグノル兵も確認」
「元騎士団の者も」
バルドが腕を組む。
「こりゃ……」
「思ったよりでかくなるぞ」
◆
その時だった。
谷の奥から、新たな一団が現れる。
整った隊列。
揃った足取り。
遠目にも分かる覇気。
カイが目を細める。
「……あれは」
先頭の男がアルヴァ砦へ入る。
そしてセリナの姿を見つけると、まっすぐ歩み寄った。
男は兜を外す。
歴戦の様相を帯びた白髪の騎士だった。
「レグノル王国軍 第三騎士団」
男は名乗る。
「騎士団長ヴォルコフ」
剣を地面に突き立て、セリナの前に膝をつく。
「姫様が祖国奪還の旗のもと御旗を立てたと聞き」
「この老骨、骨を埋めるのは姫様の為にと決め馳せ参じました」
その後ろで、騎士たちが一斉に膝をつく。
砦の広場が静まり返る。
セリナが前へ出た。
「顔を上げてください」
騎士たちはゆっくり顔を上げる。
セリナは静かに言った。
「この戦いは」
「レグノル王家の戦いではありません」
騎士団を見て、次に谷に集まった人々を見渡す。
「祖国を失った」
「すべての人の戦いです」
風が旗を揺らす。
◆
セリナは剣を掲げた。
「私達は――」
「レグノルを取り戻します」
一瞬の静寂。
そして。
「レグノル万歳!」
誰かが叫んだ。
声は広がる。
「祖国を取り戻せ!」
「セリナ様万歳!」
谷が揺れた。
カイはその光景を見ていた。
民。
兵。
騎士。
すべてが混ざり合っている。
バルドが小さく言う。
「……もうレジスタンス規模じゃねぇな」
カイは頷いた。
「軍勢だ」
視線を谷へ向ける。
人はまだ増えている。
◆
アルヴァ砦。
そこに今――
新生レグノル軍が誕生した。
そしてその報は、遠くテンレアにも届き始めていた。




