第4話 動き出す七聖 (七聖サイド/一部セリナ視点)
テンレア首都中枢――聖導議殿。
七聖だけが入ることを許された巨大な円卓の間には、冷たい静寂が落ちていた。
七つの席。
その中央上空に、青白い立体映像が浮かぶ。
映像の主は、テンレア同盟情報局長――ジュリア・マクミルラン。
『斥候部隊より帰還報告』
淡々とした声が響く。
『レグノル王女、セリナ=リュミエール。生存を確認』
円卓の空気がわずかに揺れた。
『加えて――王女と行動を共にする未登録人物を確認しました』
映像が切り替わる。
瓦礫の街。
煙幕の中に立つ、黒髪の少年のシルエット。
『魔導防壁を使用せず、未知の防御フィールドを展開』
『身体強化魔法の痕跡なし』
『義手型装置を確認』
その瞬間、場の空気が重く沈む。
「……旧文明だな」
赤髪の男――焔帝アルディアス・カグツチが低く呟いた。
「王女だけなら想定内だった。だが、これは違う」
「魔法体系外の干渉。偶然で出るものじゃない」
仮面の男、ノクス・アルヴェインが静かに言葉を継ぐ。
「鍵だ。レグノル地下遺構の欠損記録……その空白が埋まった」
アンリエットが眉を寄せる。
「つまり?」
「王女は“偶然”逃げ延びた。だが、彼は違う。彼はそこに“在った”」
ミハイマールが息を吐く。
「義体制御に未知技術……アストレリウム級だ」
アルディアスの瞳が細まる。
「ならば尚更だ。回収する」
即断だった。
ジュリアの映像が淡く揺れる。
『……興味深いわね。あの少年』
『追跡ラインは再構築済み。王女の移動ルートから、廃都ファランシア方面への進行が濃厚です』
「ファランシア……」
エミリオが軽く口笛を吹く。
「あそこは封鎖都市だろ? 紅蓮皇陣が残ってるはずだ」
「だからこそだ」
アルディアスは立ち上がる。
「遺物があるなら、そこだ。飛空艇師団を出せ。建前は講和の使者だ」
エミリオは肩をすくめる。
「実際は視察ってところか」
ノクスが締めくくる。
「観測段階は終了した。次は――干渉フェーズだ」
円卓の光が落ちる。
七聖は、動き出した。
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◆
(セリナ視点)
瓦礫の街を抜け、私たちは北へ向かっていた。
アオトは歩きながら、義手に浮かぶ淡い光を見つめている。
「追跡ドローン……じゃない。魔力通信網だ。広域で索敵してる」
私は唇を噛む。
「もう、追われてるのね」
アオトは頷いた。
「うん。隠れ続けるのは無理。……それに」
義手の光が脈打つ。
「僕の義手、こんな反応……本来ないはずなんだけど」
「え?」
「分からない。でも、何かが“起きてる”」
アオトは空を見上げた。
「だから先に“場所”を取る。廃都ファランシアだ」
私は剣の柄を握りしめる。
「七聖が封鎖した都市……」
「旧文明の反応が集中してる。たぶん、あそこが分岐点になる」
逃げるだけの旅は、もう終わる。
七聖は迫っている。
それでも――
「行きましょう」
私は言った。
「レグノルの終わりじゃなく、始まりとして」
アオトは小さく笑った。
「うん」
こうして。
滅びの王女と旧文明の遺民は、廃都へ向かう。
そして空の彼方では――
飛空艇の影が、ゆっくりと動き始めていた。




