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リブートオブアーク ―科学と魔法が交差する王国再建戦記―  作者: 和幸雄大


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第36話 初めての反撃(カイ視点)

 風が、死んでいる。

 空気は動いているはずなのに、

 流れがない。

 音があるのに、広がらない。

 まるで、この街そのものが――

 呼吸を止めているようだった。

「……来るぞ」

 誰に言うでもなく、俺は呟いた。

 見えない。

 だが、分かる。

 長く戦場にいた人間には、

 理屈ではない“兆し”がある。

 死が近づくときの、あの静けさだ。

 アオトは、地面に触れていなかった。

 焚き火の近く。

 セリナ殿のそばで座っている。

 目を閉じ、呼吸を整えている。

 都市と繋がっていない状態。

 つまり――

 今この瞬間、この街を守るのは

 俺たちだけだ。

 それでいい。

 それでいいのだ。

 最初に異変に気づいたのは、エリーナだった。

「――カイ!」

 空からの叫び。

「外縁、北西! 何かが――」

 言葉が終わる前に、

 それは現れた。

 空間が、歪む。

 裂けるのではない。

 折り畳まれる。

 そして――

 そこから、“影”が落ちた。

 黒い装甲。

 人型。

 だが、人間ではない。

 動きに、迷いがない。

 躊躇がない。

 ただ――

 任務だけが存在している。

「……七聖の回収部隊か」

 俺は槍を構えた。

 敵は三体。

 前回と同型。

 だが――

 違う。

 今回は、“観測”ではない。

 “侵入”だ。

 敵が動く。

 速い。

 人間の速度ではない。

 だが――

 見える。

 予測できる。

 なぜなら――

 こいつらは、効率だけで動いている。

 効率は、読める。

「バルド! 右を抑えろ!」

「おう!」

 斧が振り下ろされる。

 重い一撃。

 敵は回避。

 予測通りの動き。

 ならば――

 そこが“死角”だ。

 俺は踏み込む。

 全身の筋肉を、無理やり同期させる。

 速さでは勝てない。

 力でも勝てない。

 だが――

 “意志”は違う。

 敵は壊れることを恐れない。

 だから、壊されることも理解していない。

「――はああああッ!」

 槍が装甲の関節に突き刺さる。

 硬い。

 だが――

 通った。

 わずかに。

 それで十分だ。

 敵が反撃する。

 拳が迫る。

 回避は間に合わない。

 なら――

 受ける。

 衝撃。

 骨が軋む。

 肺から空気が抜ける。

 だが――

 倒れない。

「カイ!」

 セリナ殿の声。

 聞こえている。

 だが――

 今は応えない。

 戦場では、

 声よりも、刃が優先される。

 敵の動きが、わずかに乱れる。

 学習している。

 適応している。

 ならば――

 その前に終わらせる。

「バルド!」

「任せろォ!」

 斧が、突き刺さった関節を叩き砕く。

 装甲が歪む。

 構造が崩れる。

 そして――

 初めて、敵が“後退”した。

 逃げる。

 それが、敵の判断だった。

 破壊ではない。

 回収でもない。

 損耗の回避。

 合理的な判断。

 だが――

 それは同時に、

 敗北でもある。

 空間が折り畳まれる。

 敵が消える。

 残ったのは――

 静寂。

 そして、

 俺たちだ。

 膝が震える。

 槍を地面に突き立て、身体を支える。

 痛みが遅れてやってくる。

 それでも――

 笑みが浮かんだ。

「……まだ、戦えるな」

 そのとき。

 背後から、足音。

 振り返る。

 アオトだった。

 地面には触れていない。

 ただ――

 こちらを見ている。

「……カイ」

 その声は、

 いつものアオトの声だった。

「守ったんだな」

 短い言葉。

 だが――

 その意味は重い。

 俺は肩をすくめた。

「当然だ」

 それだけだ。

 都市があろうと、なかろうと。

 力があろうと、なかろうと。

 守ると決めたものは、守る。

 それが――

 人間だ。

 アオトが、ゆっくりと頷いた。

 その瞬間。

 風が、ほんのわずかに戻った気がした。

 都市ではない。

 都市の力ではない。

 人間の意志が、

 この街に、

 まだ存在している証だった。

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