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リブートオブアーク ―科学と魔法が交差する王国再建戦記―  作者: 和幸雄大


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第35話 都市の記憶 (アオト視点)

 最初に来たのは、熱だった。

 焼けるような熱ではない。

 もっと静かな――

 逃げ場のない熱。

 皮膚の下に直接流し込まれるような、圧迫感。

(……これは)

 目を開けている。

 焚き火も見える。

 崩れた塔も見える。

 ファランシアの空も見える。

 なのに――

 同時に、別の“場所”に立っていた。

 金属の床。

 整備された通路。

 白い光。

 規則的に響く足音。

 それは、僕の記憶じゃない。

 歩いているのは、僕じゃない。

 けれど――

 重力の感覚。

 床の硬さ。

 空気の密度。

 すべてが、自分の身体のもののように理解できた。

(……都市の記録)

 視界が揺れる。

 誰かが走っている。

 焦り。

 恐怖。

 だが、それ以上に強いのは――

 理解できない事象への困惑だった。

 音が、消えた。

 完全に。

 爆発ではない。

 破壊でもない。

 ただ――

 音という概念が、存在しなくなった。

(……何が起きている?)

 誰かが叫んでいる。

 だが、声が聞こえない。

 空気は振動しているはずなのに。

 鼓膜は正常なのに。

 音だけが――存在しない。

 次に来たのは、“欠落”だった。

 目の前にいたはずの人間が――

 消えていた。

 血もない。

 痕跡もない。

 ただ、そこにいたという“事実”だけが残っている。

 床には、落ちかけた工具。

 開きかけた扉。

 未完の動作。

 そして――

 存在しない人間。

(……消された?)

 違う。

 破壊されたのではない。

 最初から――

 存在しなかったことにされた。

 熱が、増す。

 都市が軋む。

 構造が歪む。

 それでも――

 都市は崩壊していない。

 耐えている。

 理解しようとしている。

 解析しようとしている。

 だが――

 理解できない。

 その瞬間。

 “視線”を感じた。

 人間の視線ではない。

 敵の視線でもない。

 もっと巨大な――

 構造そのものが持つ、観測。

 都市が、見ている。

 自分の内部で起きている“滅び”を。

 そして――

 記録している。

 意識が引き戻される。

 焚き火。

 夜。

 ファランシア。

 僕の身体。

「……っ」

 呼吸が乱れる。

 義手が、微かに震えている。

(……今のは)

 夢じゃない。

 幻覚でもない。

 都市の記録。

 旧文明の、最後の瞬間。

 理解が、ひとつだけ浮かぶ。

 旧文明は――

 破壊されたのではない。

 “切り離された”。

 存在そのものを。

 義手に、微かな脈動。

《深層アクセス……限定開放》

 頭の奥で、何かが開く。

 完全ではない。

 ほんの断片。

 それでも――

 都市が、自分に“見せた”ことは理解できた。

(……試されている)

 都市は、強制していない。

 ただ――

 見せている。

 自分が何を継ぐのかを。

 恐怖はなかった。

 代わりにあったのは――

 理解だった。

 この都市は、生きている。

 そして――

 死を経験している。

 ふと、気づく。

 焚き火の向こう。

 セリナがこちらを見ている。

「……アオト?」

 声。

 現実の声。

 それだけで――

 意識が、完全に戻る。

「……大丈夫」

 そう答える。

 嘘じゃない。

 本当に、大丈夫だった。

 少なくとも――

 まだ、自分は“自分”だ。

 だが、ひとつだけ変わったことがある。

 地面に触れていないのに――

 都市の“鼓動”が分かる。

 深く。

 静かに。

 待っている。

 都市は、命令しない。

 都市は、強制しない。

 ただ――

 選択を、待っている。

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