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リブートオブアーク ―科学と魔法が交差する王国再建戦記―  作者: 和幸雄大


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第34話 包囲の意味(群像視点)

 包囲は、音を立てない。

 剣も、魔法も、砲撃もない。

 ただ――世界が、静かに遠ざかっていく。

 配給所の前に立つ老人は、水袋を受け取ったあと、しばらく動かなかった。

「……終わりか」

 誰に向けた言葉でもない。

 ただ、事実を確認するような呟きだった。

 袋の中身は、昨日よりも軽い。

 だが誰も抗議しない。

 抗議には、希望が必要だからだ。

 そして、この街からは――

 その希望が、静かに削り取られつつあった。

 カイは、外縁の監視地点から街を見下ろしていた。

 崩れた塔。

 割れた石畳。

 焚き火の煙。

 そして――

 生きている人間たち。

「……妙だ」

 隣に立つバルドが、低く唸る。

「何がだ?」

「攻めてこねぇ」

 バルドは、拳を握りしめた。

「包囲なんて回りくどい真似、七聖らしくねぇだろ。奴らなら、この街ごと消し飛ばす方が早ぇ」

 その通りだった。

 七聖には、その力がある。

 魔導砲。

 飛空戦力。

 都市破壊級の術式。

 ファランシアのような廃都など、本来なら一撃で終わる。

 なのに――

 攻撃は、来ない。

「……理由がある」

 カイは、確信していた。

「壊せない理由が」

 その頃、セリナはアオトを探していた。

 焚き火のそば。

 配給所。

 見張り台。

 どこにもいない。

 代わりに、街の中心――

 崩れた広場の中央に、その背中を見つけた。

 アオトは、地面に触れていた。

 義手を石畳に沈め、微動だにしない。

「……アオト」

 呼びかける。

 一秒。

 二秒。

 三秒。

 そして――

「……セリナ」

 ゆっくりと、振り向いた。

 その“間”が、胸を締め付ける。

「何をしているの?」

「……確認してる」

「何を?」

 一瞬の沈黙。

「……包囲の構造」

 その言葉に、セリナの呼吸が止まる。

「構造?」

「うん」

 アオトは、空を見上げた。

「七聖は、物理的に包囲しているわけじゃない」

「……え?」

「もっと深い層で、この街を“切り離してる”」

 義手が、微かに震えた。

「物流。熱。情報。重力場の微細な偏差。……すべてが、この街の外側で再配置されている」

 セリナには理解できない言葉。

 だが、ひとつだけ分かることがあった。

「……閉じ込められているのね」

「うん」

 アオトは、静かに頷いた。

「完全に」

 同時刻。

 雲海の上。

 観測艦オラクル

 ノクス・アルヴェインは、投影された都市構造を見つめていた。

 ファランシア。

 その中心に、ひとつの“異常点”。

「……認証構造、安定」

 静かな声。

 隣で、ミハイマールが微笑む。

「壊せないでしょう?」

 ノクスは答えない。

 だが、その沈黙が答えだった。

 都市はすでに――

 単なる廃墟ではない。

 認証された構造体。

 鍵を持つ都市。

「破壊は可能」

 ノクスが、ようやく言う。

「だが」

 一拍。

「鍵は失われる」

 ファランシア。

 アオトは、義手を地面から離した。

 呼吸が乱れている。

 だが、その目ははっきりと現実を見据えていた。

「セリナ」

「なに?」

「七聖は、この街を壊せない」

 断言だった。

「……どうして?」

「僕がいるから」

 その言葉は、あまりにも静かだった。

「この街の深層は、僕を通してしか開かない」

 セリナの胸が強く打つ。

「つまり……」

「僕を失えば、この街は二度と開かない」

 一拍。

「七聖は、それを恐れてる」

 焚き火の炎が、静かに揺れる。

 街は、まだ生きている。

 だがそれは――

 守られているからではない。

 観察されているからだ。

 空の向こう。

 見えない包囲は、さらに収束していく。

 壊すためではない。

 回収するために。

 ファランシアは、標本だった。

 だが――

 まだ、死んではいない。

 中心に、“鍵”が存在する限り。

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