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リブートオブアーク  作者: 和幸雄大


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第29話 都市の拒絶(セリナ視点)

 最初に気づいたのは、音だった。

 ――消えた。

 風が止んだわけではない。

 耳が塞がれたわけでもない。

 ただ、そこにあったはずの「連続」が、唐突に途切れた。

 焚き火の向こう側。

 瓦礫の影。

 そこにいた見張りの兵が、何かを言いかけた瞬間――

 その声の後半が、存在しなかった。

「……今、何を言ったの?」

 問いかけると、兵は困惑した顔でこちらを見た。

「いえ……何も」

 違う。

 私は確かに聞いた。

 声が、途中で「削られた」。

 まるで、世界の方がその音を「不要」と判断したように。

「アオト」

 私は彼の名前を呼んだ。

 街の中央。

 崩れた噴水の跡。

 アオトは、石畳に触れていた。

 義手ではない。

 生身の手で。

「……来てる」

 彼は目を閉じたまま言った。

「七聖の観測が、さらに深く潜ってきてる」

 その声は静かだった。

 恐怖ではなく、確認。

「どこから?」

「……全部」

 一拍。

「空間の“外側”から」

 意味は分からなかった。

 けれど、直感で理解した。

 これは軍ではない。

 戦争でもない。

 もっと別の何か。

 その瞬間だった。

 空気が――

 歪んだ。

 見えないはずの「何か」が、街の外縁に触れた。

 視覚ではなく、感覚で分かる。

 侵入。

 観測。

 接続。

 そして――

 拒絶。

 地面が、微かに震えた。

「……アオト?」

 彼の身体が強張る。

 目を見開き、石畳を見つめている。

「違う」

 彼が呟いた。

「僕じゃない」

 次の瞬間。

 街の外縁で、何かが「消えた」。

 爆発ではない。

 破壊でもない。

 存在そのものが、そこから「除外」された。

 音はなかった。

 光もなかった。

 ただ――

 そこにあったはずの“何か”が、いなくなっていた。

「……今のは」

 カイが槍を握りしめる。

「敵か?」

「分からない」

 アオトが答える。

 だが、その顔には明確な動揺があった。

「僕は……何もしてない」

 その言葉に、私は息を呑んだ。

 彼がやったのではない。

 街が、自分でやった。

 もう一度。

 空気が震える。

 今度は、もっと近く。

 瓦礫の影。

 そこにあった小石が、突然――

 消えた。

「……っ」

 思わず剣に手をかける。

 だが、敵はいない。

 敵は存在できない。

 街が、それを許さないから。

「観測点……消失」

 アオトが呟く。

「七聖の観測ノードが、排除されてる」

「排除……?」

「うん」

 彼はゆっくりと立ち上がった。

「街が、自分で“境界”を定義し始めた」

 境界。

 内側と外側。

 存在していいものと、存在してはいけないもの。

「止められる?」

 私は問いかけた。

 王女としてではない。

 一人の人間として。

 この力が、どこまで行くのか分からなかった。

 アオトは、しばらく黙っていた。

 そして、首を振った。

「……止められない」

 静かな答え。

「これは僕の命令じゃない」

 石畳を見る。

 まるで、そこに意思があるかのように。

「街が、自分で選んでる」

 恐怖はなかった。

 代わりにあったのは――

 確信。

 この街は、もう廃墟ではない。

 ただの遺構でもない。

 生きている。

 そして――

 選んでいる。

 三度目の震動。

 今度は、私にもはっきり分かった。

 侵入しようとした「何か」が、

 街の外縁で、

 完全に、

 拒絶された。

 存在の痕跡ごと。

 アオトが、小さく呟いた。

「……観測されてるだけじゃない」

 一拍。

「観測し返してる」

 その言葉の意味を、私は完全には理解できなかった。

 けれど、本能が告げていた。

 均衡が変わった。

 追われるだけの存在ではなくなった。

 私は彼の手を握った。

 冷たい。

 けれど、確かに人間の手だった。

「アオト」

「……うん」

「あなたは、あなたよ」

 街が何を選ぼうと。

 どれだけ変わろうと。

 彼だけは、ここにいなければならない。

 人間として。

 そのとき。

 街の奥深くで、

 何かが――

 開いた。

 音はない。

 光もない。

 だが、確かに。

 都市の最深部で、

 新しい「構造」が、形成された。

 アオトが、息を呑む。

「……認識された」

「何が?」

 彼は、ゆっくりと答えた。

「僕が」

 一拍。

「この街に」

 ファランシアは、初めて明確に――

 外敵ではなく、

 世界そのものを、

 拒絶した。

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