第23話 評価と切り捨て(七聖サイド)
◆ ファランシア/同時刻
灰色の街の地下で、都市基盤が微かに脈打っている。
それは、溺れかけている者が必死に求める息継ぎのような、苦しい振動だった。
地上では、焚き火の残り火がパチリと音を立てて爆ぜる。
アオトは義手を強く押さえ、膝をついたまま激しい吐き気を堪えていた。
脳の内側を、熱した針で直接掻き回されるような痛みが引かない。
「……アオト? 大丈夫?」
セリナが肩に手を置く。
その感触さえも、今の彼には「情報量」として重すぎた。
「……ああ。大丈夫……だと、思う」
笑おうとしたが、頬の筋肉がうまく動かない。
視界の隅では、義手のログが絶え間なく警告を発していた。
同期。
負荷。
――侵食。
アオトは、自分の意識が少しずつ「自分自身の記憶」ではなく、
「街の配管図」や「古い地層のデータ」に溶け出していくのを感じていた。
自分が、街を操作しているのか。
それとも――街が、自分を書き換えているのか。
もう、境界が曖昧だった。
空は重く、静かだ。
けれど、その静寂が、無数の蜘蛛の糸となって街を包み込み、
ゆっくりと絞め殺そうとしているのが分かった。
「……三日、か」
誰にともなく呟く。
その声は、もはや自分のものか、街の軋み音なのか、自分でも判別がつかなかった。
そして――
ファランシアの深層。
人の目が決して届かない基盤レイヤーで、
封鎖されていた認証領域が、静かに開き始める。
《管理者認証プロセス……再評価中》
それは警告でもなく、命令でもなく。
ただ、文明が――
主を選ぼうとする、静かな確認だった。




