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第9話 都市の深層(アオト視点)

 義手の奥で、静かな振動が広がっていた。

 数値ではない。

 音でもない。

 もっと深いところで、何かが“噛み合っていく”感覚。

(……来た)

 僕は目を閉じ、意識を沈める。

 ファランシアの地下。

 都市基盤制御炉。

 旧文明の待機層。

 そこへ、僕の識別コードが届いていく。

《認証階層、再同期》

 淡い光が義手の内部を流れた。

《優先権限確認》

 空気の密度が変わる。

 目の前の廃都が、ただの瓦礫の集合体ではなくなった。

 地下数百メートル。

 見えない導線。

 崩壊したはずの都市ネットワーク。

 それらが、一斉に“起き上がる”。

 音はない。

 振動もない。

 ただ、世界の裏側で歯車が回り始めた。

「……アオト?」

 セリナの声が、少し遠く聞こえる。

「大丈夫」

 短く答える。

「今、街の“深層”に入った」

 彼女は意味が分からないまま頷いた。

 それでいい。

 これは僕にしか触れられない領域だ。

 同時刻。

 上空三千メートル。

 テンレア主艦ブリッジで、警告音が走った。

『地下反応、再分類不能』

『旧文明センサー、位相ズレ発生』

 エミリオが眉を上げる。

「ん?」

 ミハイマールの声が通信に割り込む。

『探知値が崩れてる。構造が……書き換わってる』

「書き換え?」

『違う。上書きじゃない』

 一拍。

『私たちの計測系が“外された”』

 エミリオは軽く笑った。

「なるほど」

 目を細める。

「やっぱり本物か」

 地上。

 魔導兵たちがざわつき始める。

「索敵魔法が効かない……?」 「さっきまであった反応が消えたぞ!」

 カイが低く唸る。

「……街そのものが、隠れてる」

 違う。

 隠れているんじゃない。

 こちら側が、切り離された。

 僕は義手を地面に触れさせる。

 微かな光。

 それだけで十分だった。

《都市基盤レイヤー接続完了》

 センサー。

 遮蔽。

 地脈干渉。

 残存防壁。

 旧文明の“下地”が、静かに僕の支配下へ入る。

 エミリオの持つ探知具が拾っているのは、

 表層の残滓だけ。

 彼らは“瓦礫の街”を見ている。

 僕は、“都市そのもの”を触っている。

 そこが、決定的に違う。

「セリナ」

「なに?」

「七聖側のセンサー、もうここには届かない」

 彼女は目を見開く。

「そんな……」

「完全じゃない。でも」

 僕は息を整える。

「この街は、僕の側についた」

 静かな言葉だった。

 けれど、それは宣言だった。

 雲の上。

 エミリオは腕を組む。

「面白いねぇ」

 魔導ディスプレイに映る、空白化した都市反応。

「ツギハギじゃ、触れない層に入られた」

 ミハイマールが低く言う。

『正規アクセス……』

 エミリオは笑った。

「そりゃそうだ」

 視線を地上へ落とす。

「鍵本人だもん」

 僕は目を開く。

 廃都ファランシアは、相変わらず灰色だった。

 建物も崩れたまま。

 空も暗い。

 何も変わっていないように見える。

 でも――

 世界の基盤だけは、こちらへ傾いた。

 まだ勝っていない。

 戦いも始まっていない。

 それでも。

 七聖は気づいたはずだ。

 これはただの生き残りじゃない。

 旧文明の正規保持者だと。

 静かな深層で。

 都市は再び脈打ち始めていた。

 そしてその鼓動は――

 確実に、次の局面を呼び込んでいた。

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