プロローグ
森には、人の世とは違う時間が流れている。
深い木々に囲まれた小道を抜けた先――
そこにぽつんと建つ一軒の小屋は、村の外れのさらに向こう。
古くは“森の魔女”とささやかれたその住人が、実はただの若い薬師だということは、年配の村人なら皆知っている。
だが、世代が変わるにつれ、「薬師リューリカ」は「魔女リューリカ」に変わっていった。
表情が乏しく、いつも黒ずくめのローブを纏い、ほとんど村には降りてこない。
けれど、毎週金曜だけは広場に姿を現す。
淡々と薬草を売り、子どもにも大人にも分け隔てなく処方を渡す姿は、静かだが決して冷たくはない。
ただ、”愛想”というものを期待すると、たちまち返り討ちにあう。
魔女呼ばわりに対しては軽い皮肉で切り返し、無遠慮な質問はぴしゃりと遮る。
村の若者たちは、「近づきがたい」と口を揃える一方で、金曜の市にだけ現れるその姿に、密かに目を向ける者もいた。
そのリューリカの耳にも、最近ひときわ騒がしい話題が届いていた。
教会に、新しい牧師が来たのだという。
「話が上手で」「優しくて」「あの顔は反則」と――
村の若い娘たちは目を輝かせ、年長の婦人たちは「久々に礼拝に出ようかしら」と囁き合う。
(教会の話なんてどうでもいい。私には関係ない)
そう思っていたはずだった。
――けれど、霧の深いある朝。
その噂の本人が、森の薬草小屋の扉を叩いた。
架空のヨーロッパ風の雰囲気で進むお話しです。
日付で進んで、1日が1話…という感じですので、あまり1ページの字数は多くはありません。
初連載で至らない点もあるかと思いますが、温かく見守っていただけたら幸いです。
なにとぞ、よろしくお願いいたします。