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第六章:第19.8節:政務部

(ここからはノエル・ハギア・ソフィア・リリシクルエートの一人称)


ハハハ、わたくしは戻ってきたわよ、カガ領!

今度は、クリスティがわたくしの身代わりになる必要はないけれど、聖女としての姿は『まだ』ここでは使えない。


だから……じゃんじゃん! 今度のわたくしは、牛狐ではなく、フェレット娘のソフィアよ!


政務部の入部面接の時、ユートフィンさんに「こいつ、一体何をしに来たんだ?」と言わんばかりの目で見られて、面白くて、危うく吹き出すところだったわ。詳しく詮索してこないのはありがたいけれど、これからやろうとしていることは、まあ……ユートフィン抜きでは成し遂げられないでしょうしね。


とにかく、あのデュラハンから、「任務は成功し、荷物は運搬中」という連絡があって、わたくしも安心したわ。あの、大切な錬金アイテムがなければ、わたくしも決心がつきませんでしたもの。


そういえば、ジーサイ教のあのジーワンはすごかったわね。下手したら、わたくしよりギラテシャ教の教義に詳しいかもしれない。おかげで、新しいギラテシャ教の教義を作り直すのが、とても楽になったわ。もっと現代の社会に相応しいものができた。『檄文』みたいなものも、彼が骨子を書いてくれて、わたくしがそれを元に書き直したし。


いっそのこと、新ギラテシャ教なんて立てずに、ジーサイ教に改宗してもいいかしら、なんて一瞬思ったけれど……やはり無理ね。わたくし、お肉が好きですもの。ジーサイ教は、自然死した動物のお肉しか食べないそうだから、たくさんお肉を食べるのは難しいでしょうし。


「ソフィア、第五製薬所からの資料、送ったけれど、お返事はまだかしら?」

同僚のマリーさんが、わたくしに声をかけてきました。


「あれは、もう農業試験所の方に転送したわよ。返事が来たら、すぐにそちらへ回すわ」


「はい~~了解~~」


アーバラ草の毒性がまだ強すぎて、薬としては使えないから、栽培方法をやり直す、という件ね。錬金術を使えば何とかなりそうだけど……コストが高すぎて、実用にはならないわね


「ソフィア様、第十五深水稲湖より、害虫……いえ、害魚退治の申請です。詳しくは、こちらの書類に」

突然、わたくしの後ろに翼人族の伝令が舞い降りて、書類を差し出してきました。


聖女という身分ではなく、ソフィアとして『様』付けで呼ばれるのは、なんだかくすぐったいわね……


確か、害魚退治は、今はまだ専門の部署がありませんから、銀翼隊に支援してもらう形になっていますわね……。


「フォージカー、この出動要請を銀翼隊に送ってくださる?」

わたくしは、公文書を政務部の伝令であるフォージカーに渡しました。


「かしこまりました、ソフィア様」

フォージカーはそれを受け取ると、そのまま翼を広げて飛び上がり、政務部の建物から去っていきました。


この建物は、翼人族の方々が直接、室内から離着陸できるように工夫が凝らされているのです。一度、外を経由する必要がないので、非常に効率が高いですわね。


わたくしが政務部で担当しているのは、主に農業関係の仕事。現場の後方支援や、書類作成、記録などですわね……。ユートフィン様がお一人でやっていらした頃は、あまり書類仕事はなかったと聞きますけれど、あれは書類を作成する時間すらなかったからだそうです。


それにしても、あの方はすごかったわ。わたくしが見学していたあの三日間、政務はユートフィン様が受動的に処理するだけで精一杯だったとはいえ、何が起きてもすぐに的確な判断を下し、各エリアの連携と支援を順調に回していましたもの。ユートフィン様は、一種の化け物ではないかしら?


今のわたくしの業務量は、それほど多くはありません。これは、カガ領の政務が少ないのではなく、この政務部の人員が多いからです。だって、伝令の方々を除いても、五十人以上はいるのですから。


まあ、これだけの人数がいれば、もっと主導的にやるべきことを見つけて、このカガ領をより良い都市にすることもできるはず。わたくしが主導できることではありませんけれど……。重要なことは、ユートフィン様や大賢者イクト様、あるいは各専門分野の責任者の方々の了承を得なければなりませんから。


例えば、最近建てられたばかりの、A3エリアにある、あのまだ用途の決まっていない大きな屋敷を、『新ギラテシャ教』の本部にすること、とかね。


「男爵様」

「領主様」


噂をすれば、大賢者イクト様とユートフィン様が、こちらへいらっしゃいました。視察かしら……。クレオちゃんと、マリンという侍女も一緒ですわね。服装は……前と同じみたい。男爵の文官服は彼によく似合っていますけれど……なんだか、もっと素朴で、それでいて気品のある衣装の方が、彼には似合う気がしますわ。


「俺のことは構わず、気楽にしてくれ。仕事優先だ。俺のやり方は、ここの皆はよく知っているだろうから、堅苦しい礼儀は不要だよ」


皆が席に戻ると、クレオちゃんが突然言い出しました。

「クンクン……先生、なんだか、あたしの匂いがする」

「クレオちゃんはここにいるのだから、匂いがするのは当然だろう」と、大賢者イクト様。

「違うの。あたしではない、あたしの匂い」


「あれは、おそらくソフィアの匂いでしょう。わたくしには分かりませんが、この前にエッセンスをお渡ししたでしょう?」

と、ユートフィン様が説明しました。


クレオちゃんの鼻は、本当に良いのね……。ほんの少しだけ、あのフェレットのエッセンスをかけただけですのに……


「ソフィアちゃん、帰ってきたの!?」

クレオちゃんが、尻尾をぶんぶんと振り回しながら言いました。

「そうですわよ、クレオ様」


「ソフィアさんが、政務部に入っているとは聞いていなかったが」

大賢者イクト様は、少し驚いたようです。


(ユートフィンは、わたくしのことを大賢者イクト様に報告していなかったのかしら?)


「ソフィア殿は、ロリの範疇ではございませんので、ご報告の必要はないかと」


(はっ? ユートフィン様は、何を言っているのですか? わたくしの体型と、報告義務に何の関係が?)


「……本当の理由は?」

大賢者イクト様は、呆れたように、ユートフィン様の真意を尋ねました。


「ソフィア殿は、すでにお戻りになったテットゥル様とジーワン様をお訪ねになったようですから、てっきり、お二方からすでにお聞きになっているものとばかり」


「クンクン、あっちだ!」

クレオちゃんは匂いを頼りにわたくしの位置を見つけると、ぴょんぴょんと飛び跳ねながらこちらへやって来ました。


「クレオちゃん。お久しぶり……」

「久しぶりじゃないよ。あれから一週間ちょっとしか経ってないもん」

「アハハハ、そうですわね」

「今日は牛狐じゃないんだね。あたしの匂いがする」

「いただいたエッセンスを使いましたから」

「尻尾相撲、やる?」


なんでいきなり?それにあの尻尾相撲は何ですの? 聞いたことがありませんけれど……


わたくしがクレオちゃんに尻尾相撲について尋ねようとしたところ、大賢者イクト様がこちらへ近づいてきました。


「クレオ、ソフィアさんは仕事中だよ。それに、ソフィアさんの尻尾は本物のように自在には動かせないから、尻尾相撲はできないだろう」

「あっ、そうだった。じゃあ今度、偽物の尻尾じゃなくて、本物の尻尾が生える薬とか、マーディナに作ってもらおう」


何ですのそれ、面白そうですわね


「マーディナに、そんなものは作れないよ」

と、大賢者イクト様はすぐに指摘しました。


そうですわね。カガ男爵邸の実験室は、あのような夢のあるものではなく、もっと実用的なものばかりを開発、改善していますものね


「ソフィア、政務部の仕事はどうだい? 好きかな? 採用されたということは、適性はあると判断されたのだと思うが」大賢者イクト様は私に尋ねました。


入ったばかりですのに、好きかどうかと聞かれましても……

「順調ですけれど、好きかと言われると、少し違う気がしますわ」


「そうか。俺は、ソフィアは実験室のような場所にいた方が、もっと楽しめるんじゃないかと思っていたよ」


できれば、わたくしも実験室で働きたいですわ。聖女などやらずに、ずっと実験室に引きこもっていたい……でも、今はわたくしにしかできないことがある。実験室どころか、この政務部の仕事だって、長くは続けられない……。両立はできるでしょうけれど、身分が……


「これから、男爵邸の実験室を拡大しようと思っているんだ。多くの化学物質が、地球……いや、これまで知られていなかったような性質を持っていることが分かってきてね。とにかく、錬金術の知識がある人材が欲しいんだ」


行きたい。すごく、行きたいですけれど……!


「まあ……またその時が来たら、改めて誘うよ。やるべきことがたくさんあって、今すぐにというわけにはいかないからね」


大丈夫ですわ。わたくし、『その時』が来る前に、やるべきことを全て片付けてみせますから

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