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第六章:第17.9節:言葉の通じない交流

(ここからは井伊剣の一人称)


あぁ、つまらない……。あのレイシヘイラとかいう、リーダーらしき人がわたくしをここに連れてきてから、すぐに姿を消してしまって、もう二度と戻ってこないではありませんか。ヤマタートルくんと話すのも、そろそろ飽きてきましたわ。


人の野営地をうろうろと見て回るのもどうかと思いますし、どうしたものでしょう……。


それに、ここから見ると、この野営地には崩落による被害が見えます……。明らかに、ヤマタートルくんがやってしまった砲撃の結果ですわ……。まさか、弁償しろ、などと要求しに来るのではないでしょうね……。わたくし、お金など持っておりませんし……。体で支払う、というのは、少し……。


わたくし、姉貴や、姉貴のお姉さんほど、あの加賀さんという方に惚れているわけではありませんけれど……。初めては、やはりああいうタイプの方がよろしいですわ。それに、わたくし、生まれてまだ一日くらいなのですから、未成年ですのよ。姉貴ですら未成年なのですから、無理な話ではありませんか。


いっそ、逃げようかしら。しかし、ヤマタートルくんが小さくなったとはいえ、まだ大きいですから、すぐにバレてしまいますわね。ここは『潜行』判定にクリティカルでも出せば……いえいえ、クトゥルフの世界ではありませんし、サイコロも持っておりませんわ。


あっ、誰かが来ましたわ。先ほどわたくしを盗み聞きしていた方でも、あのレイシヘイラなんやらのリーダーでもなさそうですわね。……二人いますわ。

副官のような方が色々と荷物を持っていて、手ぶらで前にいらっしゃるのは……ザ・巨乳女騎士、ですわね。

あの姉貴がこっそりやっていた十八禁のゲームによく出てくる、ゴブリンやオーク、敵国の兵士に捕まって、あれやこれやとされてしまう、ザ・女騎士ですわ。


金髪、鎧、巨乳に凛々しいお顔……。ううん、完全に一致していますわね。いっそ、あの黒泥の場所へ戻って、ゴブリンやオークでも連れてきましょうかしら。


冗談を考えている間に、ザ・女騎士はわたくしの前に来ました。ペラペラと長い言葉を喋っていますが、やはり通じませんわね。『レイシヘイラ』という言葉がまた出てきた、ということくらいしか分かりませんでした。


(レイシヘイラというのは、先のリーダーを指しているのかしら? それとも、そもそもあれは名前ではなかったのですか?)


あんなに長い言葉、自己紹介ではないと思いますけれど……わたくしは、もう一度自己紹介した方がよろしいのかしら……。


「井伊 剣。い・い・つ・る・ぎ」

わたくしは、指で自分を指して、できたばかりの名前をはっきりと告げました。


「いつ……るーきー?」

ザ・女騎士は、そう繰り返しました。


(『何時ルーキー』ですって……? いえ、わたくし、生まれてまだ一日ですけれど、ルーキーと呼ばれるのは心外ですわ)


「い・い・つ・る・ぎ」

わたくしは、彼女の発音を訂正しました。


「いい・つるぎ」


おお、今度は合っていますわね……。アクセントが少し変で、「ナイスソード」みたいに聞こえますけれど、まあ、いいでしょう。


「シャーロット・カステーラ」

今度は彼女が、わたくしの真似をして、自分を指差しながらそう言いました。


これは、地球でもありそうな名前ですわね。簡単です。


「シャーロット・カステラ」

なんだか、美味しそうに聞こえますわね……。お腹も空いてきたような気がします。


「シャーロット・カステーラ」

「シャーロット・カステーラ」

今度は合っているようですわね。では、次はヤマタートルくんを紹介しましょう。


「ヤマタートル」

「やまだ……とる?」


……なんだか、違うような……。山田さんが、何かを取るのですか? あっ、でも、山田くんなら、ヤマタートルくんより短くて呼びやすいですわね。これからそう呼びましょうか。いいえ、元は確か、大和やまと+タートルでしたっけ? 大和くんの方が、格好良いじゃありませんか。


わたくしたちが話し合っている間に、また数名の兵士が大きな机を運んできて、副官のような方が手持ちの物をその上に置きました。


シャーロットは、紙の巻物のようなものを広げました。あれは、地図のようですわね。

地球にあるような精密な地図でも、子供が描いたような略図でもない。航海ゲームによく出てくる、古代地図みたいなものです。

海岸線、国境線、山脈と川くらいは分かります。点やバツ印、丸印などは、都市や心霊スポット……もとい、重要拠点なのでしょうか。

大まかに見ると、世界は東、西、北の三つの大陸に分かれているようです。北の大陸は少し小さめで、東と西はだいたい同じくらいの大きさですわね。


シャーロットは、東の大陸の中央部、少し西南に偏った大きな国を指で指すと、「レイシヘイラ・エマパラー」と、三回も繰り返しました。


ああ、『レイシヘイラ』というのは、国の名前だったのですか。では、『エマパラー』というのは、王国とか、帝国とか、共和国とか、そういう意味ですわね……。なるほど。


そして、シャーロットは両手を広げて、地図を指し示すようなジェスチャーをしました。


どういう意味かしら? わたくしがどこから来たのか、聞きたいのですか? しかし、わたくしは夢の出身ですし……姉貴の出身地である日本は、この地図にはありませんわ……。どうしましょう。


わたくしが悩んでいる間にも、彼女は何度もジェスチャーを変えて、同じ意味を示そうとしています。


いいえ……分かりますわよ、そのジェスチャー。変えなくてもいいのです……。わたくしが、答えられないだけなのですから……。


しばらくすると、彼女は諦めたように、空白の紙を地図の上に載せて、何かを書き始めました。


(わたくしが、この世界の文字を読める、とでも思っているのかしら? 喋れないのに?)


見てみると、どうやら文字ではなく、絵のようです。しかし……。


これは何ですの? ミミズ? わたくしにミミズを見せて、どうするつもりなのかしら。それとも、やはりこれは絵ではなく、文字なのですか? こんなにぐねぐねしているのに?


「カステーラタブラ、マーナガマール」

と、隣にいる副官の方が、何かを言いました。


すると、シャーロットは顔を真っ赤にして、持っていたペンをその副官に渡しました。


あ……これは、絵が壊滅的に下手なやつですわね。姉貴と、姉貴のお姉さんの恋のライバルである、越前絵里という方も、そうだったらしいですわ。

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