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第一章:第八節:ピキキ飼育計画

ピキキに関する様々な情報が頭の中で整理されていくのを感じながら、育人はクレオに視線を戻した。彼女は手際よく二羽のピキキを籠にしまい終え、満足げな表情を浮かべている。

「クレオちゃん、その二羽のピキキは、どうするつもりなんだい? やはり食べるのかい?」

育人は、素朴な疑問を口にした。

「そうだよ。ピキキは肉があんまり多くないけど、二羽もいれば、あたしと育人先生の二人分には十分足りるから」

クレオはこともなげに答えた。彼女にとって、ピキキを食べることは日常なのだろう。

「毎日、こんな風に獲物が獲れるものなのかい? 昨日も一昨日も、確か兎のような動物を獲ってきていたよね」

育人は、ここ数日のクレオの狩りの成果を思い出しながら尋ねた。彼女は毎日のように何かしらの獲物を小屋に持ち帰ってきている。

すると、クレオは少し照れたように白いフェレット耳をぴこりと動かし、首を傾げながら言った。

「うーん……先生が来てから、なんだか運が良くなっただけだよ。普段は、三日に一度くらい獲物があればいい方かな。たまに、今日みたいに一度に二体獲れることもあるけど……そんなにしょっちゅうじゃないよ」

彼女は少し考え込むように森の奥を見つめながら続ける。

「じいちゃんはね、若い頃はもっとすごかったんだって。罠だけじゃなくて、弓や槍を使って、もっと大きな鹿みたいな獲物も狩ることができたって言ってたよ」

その言葉には、今は亡き祖父への尊敬と、ほんの少しの寂しさが滲んでいるようだった。

育人は、スキルで得たピキキの卵に関する情報を思い出し、クレオに尋ねてみた。

「そういえば、クレオちゃんはピキキの卵を食べたことはあるのかい?」

クレオは、きょとんとした顔で首を横に振った。

「ううん、ないよ」

そして、少し思い出すような仕草をしてから続けた。

「じいちゃんが言ってたけど、ピキキの卵は美味しいらしいんだけどね、産んだばかりの、まだ土に埋まってないやつじゃないと食べられないんだって。土の中にあるやつは、もうみんな臭くてダメだって。だから、卵を食べるんだったら、トゲスズメの卵の方がずっといいって言ってた。でも、トゲスズメの巣はすごく高い木の上にあるし、親鳥も卵を守るためにすごく凶暴になるから、採るのはとっても難しいんだって」

クレオは、祖父から聞いた話をそのまま育人に伝えた。

(産んだばかりで腐っていなければ食べられる、か。それなら、試してみる価値は十分にありそうだ。安定して手に入るなら、貴重な栄養源になる)

育人は、クレオの話とスキルで得た情報を照らし合わせ、ピキキの卵の可能性に期待を寄せた。

「どうして土の中にある卵は臭くなってしまうんだろうね? クレオちゃんは、何か考えたことあるかい?」

育人は、クレオの知識や思考力を探る意味も込めて、そう問いかけた。

クレオは少しうーんと唸り、小さなフェレット耳をぴくぴくさせながら考え込む。

「うーん、わかんない……。たぶん……たぶんね、青熊あおくまとかが食べ残した肉を土に埋めておくと、すっごく臭くなるじゃない? あれと同じような感じなのかな……。土の中に、何か物を臭くしちゃうものがあるとか……?」


クレオは、自分の経験と照らし合わせて、一生懸命に答えようとしていた。

育人は、クレオのその言葉に優しく頷いた。

「うん、クレオちゃんの言う通りだよ。土の中にはね、目に見えないくらい小さな生き物や、カビの仲間みたいなものがたくさんいて、それが肉や卵みたいな栄養のあるものを見つけると、集まってきて分解しようとするんだ。その時に、嫌な臭いが出ることが多いんだよ」

育人は、スキルで得た知識――特に菌類や寄生虫による汚染という情報を、クレオにも分かりやすいように言い換えて説明した。

「青熊の食べ残しが臭くなるのも、ピキキの卵が土の中で臭くなってしまうのも、きっと同じような理由だろうね。特に卵は殻が薄いし、地面に直接産んで軽く土を被せるだけだと、そういう小さな生き物たちにとっては、ご馳走を見つけたようなものなのかもしれない」

(普段ならば土に埋めたほうが空気の中に置くより腐りにくく、青熊もそれを知った上で土に埋めるんだと思うけど...しかしここを拘るとややこしくなるので、今回は微生物に関して説明しよう)

育人は、クレオの観察眼と推察力を褒めるように、穏やかな口調で続けた。

「クレオちゃんは、よく周りのことを見ているんだね。すごいじゃないか」

育人の説明に、クレオは少しだけ頬を赤らめ、照れたように俯いた。そして、ふと何かを思いついたように顔を上げた。

「……じゃあさ、あたしがこうやって土を踏んだら、その小さい……小虫?みたいなの、踏み潰せるの?」

クレオは、足元の土を数回、とんとんと踏みつけながら、純粋な好奇心に満ちた赤い瞳で育人を見上げた。

育人は、クレおのその子供らしい発想に、思わず微笑んだ。

「クレオちゃんが今、土を踏んでみて、何か踏んだ感じはするかい?」

彼は優しく問い返した。

クレオは、足元に意識を集中させ、数秒間そのまま立っていたが、やがて不思議そうに首を小さく横に振った。

「ううん、何も……。ただの土の感じしかしないよ」

「そうだろう? あの小さな生き物たちはね、あまりにも小さすぎて、クレオちゃんがこうやって踏んでも、ほとんど潰れたりしないし、当たらないことの方が多いんだよ。それに、土の中には本当にたくさんの種類が、それこそ星の数みたいにいるから、全部を踏み潰すのは無理なんだ」

育人は、できるだけ分かりやすいように、ゆっくりと説明した。

「……はぁ……そうなんだ……」

クレオは、少ししょんぼりとした顔で呟いた。

「全部踏み潰せたら、ピキキの卵も臭くならなくて、いっぱい食べられるかと思ったのにな……」

その赤い瞳には、残念そうな色が浮かんでいた。

「もうそういうことまで考えていたんだね。偉いじゃないか」

育人は、クレオの頭を優しく撫でた。

「踏み潰すことができないなら、何か他の方法を考えてみようか」

「他の方法……?」

クレオは、しょんぼりとした顔を少し上げ、不思議そうに育人を見つめた。

「うん。考えてみてごらん。クレオちゃんのお爺さんは、『産んだばかりの卵なら食べられる』と言っていたんだろう? それは、どうしてだと思う?」

育人は、クレオ自身に考えさせるように、優しく問いかけた。

クレオは、うーんと少し考え込む仕草を見せた後、ハッとしたように顔を上げた。

「……土に埋める前だから……まだ、あの小さい小虫たちが、卵のところに来てないから……?」

「だとしたら?」

育人は、クレオの思考をさらに促すように、期待を込めた眼差しで彼女を見つめた。

クレオは、育人のその視線に何かを感じ取ったのか、真剣な表情で考え込み、やがて、その赤い瞳を輝かせた。

「だとしたら……ピキキをこっそり尾行して……卵を産んだら、すぐにそれをキャッチする、とか……?」

育人は、クレオのその発想ににっこりと頷いた。

「それは、できそうだね。でも……クレオちゃんは、本当にそうしたいのかい? ピキキをずっと尾行するのは、結構大変だと思うけど」

すると、クレオは一瞬にして真顔に戻り、ぷいっと顔をそむけた。

「……面倒くさいから、やだ」

きっぱりとした、しかしどこか子供っぽい拒絶の言葉だった。

「だろうね。私もそう思うよ。それじゃあ、やっぱり他の方法を考えた方が良さそうだ」

育人は苦笑しながら同意した。

しかし、クレオは少し不満そうな顔で育人を見返した。

「でも、尾行しないと、ピキキがどこに卵を産むかなんて分からないし、すぐに卵をゲットできないじゃない。それに、ピキキのいつもの居場所だって、見失っちゃうかもしれないよ」

彼女の言うことももっともだった。新鮮な卵を手に入れるには、産卵の瞬間を狙うのが一番確実だが、それには多大な労力と時間が必要になる。

「そんなに『すぐ』じゃなくてもいいんじゃないかな? あの小さな生き物たちが卵に集まってきて、臭くしちゃう前に拾えればいいんだから」

育人は、少しヒントを出すように言った。

「それでも難しいよ。森は広いし、ピキキがどこに卵を産むかなんて、毎日探し回らないと分からないもん」

クレオは、まだ納得がいかない様子で反論する。

「じゃあさ、森じゃなくて、もっと小さいところにピキキをいてもらったら、どうだろう?」

育人は、にっこりと微笑みながら、決定的なヒントをクレオに投げかけた。

育人の言葉に、クレオはしばらくの間、真剣な表情で考え込んでいた。その小さな頭の中で、様々なアイデアが巡っているのだろう。やがて、彼女の赤い瞳が、まるで暗闇に灯がともったかのように、ぱっと輝きを増した。

「どうだい? 何かいい方法を思いついたかな?」

育人は、期待を込めてクレオに尋ねた。

「……うん!」

クレオは、興奮を隠しきれない様子で大きく頷いた。その白いフェレット耳も、ぴょこぴょこと嬉しそうに揺れている。

「ピキキをね、飼えばいいんだよ! あの、小屋の裏にある、じいちゃんが作ってくれた小さな畑の跡地、あそこを柵で囲って庭みたいにして、そこにピキキたちを入れておくの。逃げられないように、最初は足にロープを緩く縛っておいて……。それから、卵を産みやすいように、ふかふかの土で、ちょうどいいくらいの深さの土穴をいくつか掘っておいてあげて……。あと、あとね……!」

クレオは、次から次へと思いつくアイデアを、目を輝かせながら早口で語り始めた。その表情は、これまでの彼女からは想像もできないほど生き生きとしており、まるで新しいおもちゃを見つけた子供のようだ。


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