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Veil lady ~転生美少女は、異世界にえっちな衣装を広めたい~  作者: 緑茶わいん
第四章 義兄の婚約と北の聖女

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公爵家の長女アヴィナ -6-

「みなさまにも困ったものです……」


 紅茶を飲んで息を吐きつつ、俺はそんなふうに呟いた。

 向かいに座っているのは柔らかな金髪に深い紫の瞳を持つ美少女──この国の第四王女ルクレツィアだ。

 寮における彼女の私室。

 俺の私室と同じ建物なので行き来は気楽なのだが、お土産を渡すついでにお茶をしに、ちょっと前に訪れたばかりだったというのにまた来ることになるとは。


「わたしにはルクレツィアさまとの関係を変えるつもりはない、と、ひとまず主張しておきましたけれど」


 話題に上らせたのはもちろん、生徒たちが口にした「将来的にアヴィナ様とルクレツィア様の立場が入れ替わる」発言について。

 あれは要するに「推しを変えようかなー」みたいな匂わせだ。

 時代はルクレツィア様よりアヴィナ様でしょ、という方向性を俺自身にも意識させようとしたのだろう。


「ルクレツィア様に対して失礼にも程があるのではないでしょうか」

「ふふっ、そうね。でも、私が臣下に下ればアヴィナを敬う立場になるのは事実よ」


 当のルクレツィアはというと、いつもと変わらない様子で微笑んでいた。

 美味しそうに紅茶を飲み、茶菓子を口にする。

 悠然とした佇まいは王族の風格だが、


「お怒りになられないのですか?」

「ええ。私はもともと、それほど王族の地位に興味がないもの」

「……そうなのですか?」


 第一王子とも堂々とやり取りをしているし、保守派令嬢の学内派閥をきっちり取りまとめてもいる。

 どうでもいいと考えているようには見えなかった。

 するとルクレツィアは「ああ」と笑って、


「責務の遂行は別よ? 王族としてすべきことはする。それと『王族で居続けたいと願うか』は別の話というだけ」


 この国では、女性王族は基本的に嫁いで相手方の家に入る。

 相手が王族なら地位は残るが、そうでなければ「公爵夫人」「侯爵夫人」などといった立場が新たな肩書きになる。

 だから、王族の立場に固執しないのは自然な考え方ではあるのだが。


「ルクレツィアさまは、なにか他にやりたいことがおありなのですか?」

「そうね。私としてはこの先もずっと趣味を続けていきたいと思っているわ」


 趣味、か。


「ルクレツィアさまのご趣味はたしか……手芸、でしたね」


 彼女の使っているハンカチにはたいてい見事な刺繍が施されている。

 その多くは職人の手によるものではなく、ルクレツィア自身が刺繍したものだ。

 お茶の際や食事の際に目にしたそれを思い出していると王女は頷いて、


「そう。私は、刺繍だけじゃなくて手芸全般が好きなの。……あまり口にしたことはないのだけれど」


 王女が合図をすると、侍女がクローゼットを開いてドレスを取り出して見せてくれた。

 許可を取ったうえで近づいて観察すれば──細かな縫製もしっかりと行われているし、デザインも凝っている。高価な素材も使ったこだわりの一点もの。

 なにより「好きで作りました!」というのが全力で伝わってくる。


「見事な出来栄えですね。製作には時間がかかったのではありませんか?」

「それはもう。作る側を体験して、あらためて職人たちの努力を肌で感じたわ」


 この世界にミシンはない。すべて手縫いだ。

 職人たちは作業高速化のために複数人で一着の縫製を分担することも多い。

 ましてデザインやパターンの製作から一人でやるとなったら……気が遠くなる。


「ルクレツィアさまは本当に、手芸がお好きなのですね」


 刺繍レベルの裁縫は女子の嗜み、推奨される趣味のひとつだ。

 ただしそれはあくまで手慰みでやる程度。


「ええ。私は手芸が、裁縫が大好きなの。だから地位よりも趣味のほうが大事」


 理解できる話だ。俺は深く頷いた。

 すべきこととやりたいことが一致するとは限らない。

 まして、政治とか派閥運営とかに女子が加担するのはあまり推奨されていないわけで。

 適当な相手と結婚して好きなだけ趣味に打ち込みたいと願うのはなにもおかしくない。


 ルクレツィアはほっとしたように息を吐いて。


「アヴィナならわかってくれると思ったわ。あなたもお洒落に人一倍のこだわりがあるから」

「そうですね。わたしのこだわりはだいぶ変わっていますけれど」

「ふふっ。自覚があるのに直す気はないのね?」


 おかしそうにくすくす笑う彼女を見て、俺はなんだか自分まで楽しくなってくるのを感じた。


「まだ婚約者をお決めになっていないのはそうしたご事情からなのですか?」

「そうね。単純に第四王女ともなると政略結婚もあまり期待されていない……というのもあるけれど」


 それならじっくり吟味するのも悪くない。

 それから、ルクレツィアは第三王子と同じく正妃の子。

 俺様系の第一王子をはじめ側妃の子は野心家が多く政略に熱心なようだが……正妃はむしろ、子供の自主性に任せたい派のように思える。


「殿方の中には刺繍程度でさえ取り上げる方がいるでしょう?」

「針とはさみを扱いますからね。怪我を恐れる気持ちは理解できるのですけれど」

「その程度では大きな怪我にならないわ。治してもらうことだってできるのだし……」


 ポーションを常備しておくなり、神殿にかけこめばある程度の怪我は綺麗に治る。


「……いっそのこと、噂の『大聖女』様と同じ方に嫁ぐのはどうかしら?」

「怪我を治してもらうためだけに王弟殿下に嫁ぐのですか……!?」

「ふふっ、冗談よ」


 なるほど、やりたいことが明確でも、やらせてもらえるかはわからない。

 自分と相手、その周囲を取り巻く環境次第で事情は変わってしまうものだ。

 ……って、なんか似たような事情を前にも打ち明けられたような気がするな。


「ルクレツィアさま。たとえ話なのですけれど、たとえば女性の服飾画を好む男性……などはどう思われますか?」

「あら、とても素敵だと思うわ。旦那様と共同で一つの服を作るなんて、夢のようじゃない?」


 これは、思わぬところにうちの義兄と趣味の合いそうな人物がいたものだ。

 俺の義兄──公爵家長男のフラムヴェイルは(周りには秘密にしているが)女性服のデザインをするのが趣味。

 公爵家なら王女を妻に迎えても格としてはなんら問題はないし。

 フラムヴェイルが公爵家を継いだとして、夫婦揃って領地に引っ込んだとしても、二人で服作りを楽しめる。

 ……おや、優良物件では?

 ともあれ勝手に人の趣味をバラすことはできない。ここはさらっと話を流して、


「それで、アヴィナ? その方はどなたなのかしら?」

「いえ、あくまでたとえ話ですので」

「そう? それじゃあ、もしそんな方がいるとしたら、ということで……そうね、やっぱりあなたの身近な男性かしら? 公爵家も服飾に理解のある家柄だから……」


 これもうほとんどバレたようなものじゃないか?

 いや、俺は悪くない。俺はバラしてない。

 あの程度の話題でバレるんじゃどうしようもないし、王族の伝手で「服飾に興味のある男性」を本気で探したらどっちにしろ見つかるだろうし。


 いやー、お義兄さまにもモテ期が来たんじゃね? と、俺は現実から目を背けることにした。

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