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辺境伯領の英雄 アヴィナ -3-

 到着予定を先触れしたおかげで、都に戻るとそのままパレードになった。

 馬車団の中央にまだ新鮮なグリフォンの胴体を掲げての行進。

 恐ろしいことに出発時よりも人が多く、しかも俺はテオドールの乗る馬車に同乗させられた。

 エレナたちもいたので二人っきりってわけでもないが。

 わかりやすい功労者ってことで揃って手を振らされたのだ。


『テオドールさまもご一緒にいかがですか?』

『私はランベールと王位継承を争う気はない』


 というわけで彼は仮面の冒険者のまま。

 他人のフリして一人だけ帰宅しなかっただけ有情か。


 ……と、思ったら城に着いたところで「じゃあな」と去ってしまった。


 ちょっと待てよ、とコートの端を掴むと怪訝そうに振り返って。


「護衛の冒険者の手がまだ必要か?」

「……いいえ。十分に助けてもらったわ、どうもありがとう」

「そうか。では、報酬は規定の手段で」


 街に戻るフリしてこっそり塔まで移動するのだろうか。なかなか面倒そうだ。

 と、遠ざかっていく背中にも聞こえるようにランベールが、


「アヴィナ・フェニリード。父上との謁見には叔父上も呼ばれるそうだぞ」

「あら。なにかお話があるのかもしれませんね」


 いったん塔に戻って支度しないといけなくなったテオドールはさらに足早になった。


 俺はというと城の侍女たちに取り囲まれて、豪華な部屋に案内された。


「さあ、まずは身を清めましょう」

「それから、お召し替えの用意もございます」

「ここまでしていただいて良いのでしょうか?」

「もちろんでございます。フェニリード公爵令嬢は戦の功労者であり、それから──あっと、ここから先はまだ秘密でございますね」


 賓客用なんじゃないかという客間でぴかぴかに磨き上げられ、ドレスに着替えさせられた俺。

 謁見の場に立ったランベールもまた入浴を済ませ、清潔できっちりした装いだった。

 フラウはドレスではなく、剣術用の服を豪華にしたような装い。

 しまった、着替えがあるなら、


「屋敷から衣装を運ばせておけば良かったのでは」

「お前はまた奇抜な衣装を纏うつもりか?」

「その通りですが?」

「その通りなのですね……?」


 フラウの表情が若干引きつったのはともかく。


 謁見の間に入ると、そうそうたる面々が居並んでいた。

 国の重鎮がだいたい揃ってるんじゃないかという雰囲気。

 王妃やルクレツィア、ランベールの婚約者であるセレスティナの姿もある。

 というかうちの養父もいるな? 先に領地から帰ってきていたのか。


「第一王子ランベール、並びに遠征討伐隊──ただいま帰還いたしました」

「うむ。話は聞いているが、あらためて聞かせてもらおう。

 首尾はいかがであった?」

「はっ。遭遇した魔物を殲滅しつつ領都へと到達。

 大量発生の原因が『魔物と主』として顕現したグリフォンにあることを突き止め、討伐いたしました。

 証拠として死体を保存し、持ち帰っております」


 おぉ、と、どよめきが上がる。

 明確な形での戦勝。

 国内の治安維持活動とはいえ、武力をもって功績を示したランベールは確実に点数を稼いだ。


「それから、グリフォン討伐の際──『大聖女』アヴィナ・フェニリードの貢献により、神獣の幼体を保護することに成功いたしました」

「ふむ。見せてみよ」


 恭しく一礼したフラウが、大事に抱えていた子グリフォンを見えるように差し出す。

 ぴぎゃあ。

 ぱたぱた羽ばたいて国王に近づこうとしたのでフラウが足を掴まえた。

 大雑把な推測について、ランベールがテオドールの見解を交えて説明。


 これにはさっきよりも大きなどよめき。


「まさか、そのような形で『神獣』が生まれるとは……!」

「魔物を直接浄化せしめたのか。ううむ……」


 めちゃくちゃ注目された。


「見事であった、ランベール。そして『大聖女』アヴィナ・フェニリードよ。

 過去に例を見ぬ奇跡の実現に心より驚嘆している。

 其方の功績は我が国の歴史に刻まれるであろう」

「勿体ないお言葉でございます、陛下」


 褒美の希望を尋ねられたので「神殿への資金援助を」と答えておいた。


「陛下。グリフォンの子供の処遇なのですが、辺境伯家が所有を希望しております」

「うむ。かの神獣はもともとヴァルグリーフの守り手であった。

 幼獣の生みの親であるアヴィナの同意があるのならば、それは構うまい」

「陛下! 辺境伯に譲り渡さずとも、城で育てこの国の守りとしては──」

「守りの要である辺境伯領が盤石になるのであれば、それが守りを固めることに繋がろう」


 問題ないみたいなので辺境伯家に預かってもらうことを了承した。

 それから、直接の保護者にフラウを任命してもらう。


「この子供はご覧の通りフラウさまに懐いております。

 元気に育てるためにも彼女に委ねていただきたく」

「よかろう。では、グリフォンの子供については『大聖女』の温情により辺境伯家の所有とする。

 また、保護者兼監督役としてフラウ・ヴァルグリーフを任命する」

「ありがたき幸せにございます」


 こうして、いろいろなことが一気に決まった。


 『保守派』の俺が大きな功績を挙げたことはもちろん『軍拡派』にとって嬉しくない。

 が、同時に『軍拡派』のランベールも武勲を挙げている。

 頑張ったおかげで辺境伯領の被害も抑えられたわけだし。


 神殿がこれからまた盛り返す一方、辺境伯家が守り神の再来で繁栄を遂げるかもしれない。

 見た目上、両派閥のパワーバランスは保たれている。

 そして、その裏で少しずつ融和の道が進んでいる。


「さて、この場を借りてもう一つ重要な決定事項を伝えておきたい」


 宣言と共に謁見の間に入ってきたのは正装を纏った仮面の貴公子だ。

 皆の注目が集まる中、彼は王の傍らに立つ。


「アヴィナ・フェニリード、こちらへ」


 名指しされた俺はめちゃくちゃ見られる中、テオドールの隣に立たされ。


「我はここに、我が弟テオドールと公爵令嬢アヴィナ・フェニリードの婚約を正式に承認する。

 今後、『大聖女』アヴィナは王族の婚約者としても扱われることを承知せよ」


 やっぱパワーバランス、俺があれこれ握りすぎかもしれない。

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