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Veil lady ~転生美少女は、異世界にえっちな衣装を広めたい~  作者: 緑茶わいん
第三章 婚活令嬢、辺境伯領にて魔物を討伐する
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辺境伯領の英雄 アヴィナ -2-

 宴の翌日、領都にある神殿を訪問した。

 都から来てもらった聖職者たちはこっちに寝床を用意してもらっている。

 戦う者たちの中にいるより落ち着くだろうと思ったからだが……。

 喧嘩せずに上手いこと仲良くしてくれているだろうか。


 公爵家の馬車ではなく、伯爵邸から借りた馬車を降りて。


 入り口にいた聖職者へ来訪を伝えると、神殿の長が迎えに出てくれた。


「ようこそお越しくださいました、大聖女様。……これはちょうどよいところに」

「え?」


 うちの子たちがなにかやらかしましたか?


「どうぞこちらへ。少々問題と申しますか……困った事態になっておりまして」

「わかりました。案内をお願いします」


 各領地の中心──領都にある神殿は中神殿と呼ばれ、地方支部のような扱いになる。

 今まで見た街の神殿よりも規模が大きく、聖職者や一般信者も多いのだが。


 ──なんだか妙に視線を向けられているような。


 気持ちいい。いやそれはさておくとして。

 どこへ行ってもたいていついて回る「なんだそのえっちな衣装!?」みたいな反応がここだと薄い。

 むしろ羨望というか感動というか、そんな方向性が強いのだが。


 ちらりと視線を向けると、メアリィが「ふふん、アヴィナ様の素晴らしさが伝わったようですね」みたいな顔をしていた。

 この子と波長の合う状態となると……。


「魔獣グリフォンを浄化するアヴィナ様のお姿は本当に、神がこの地に降臨なされたかのような神々しさでした。

 凄腕の冒険者や都の騎士たちでさえ致命打を与えられなかったかの魔獣を一撃で葬り去った爽快感といったらもう!」

「それだけではありません! アヴィナ様は魔獣に新たな命を与え、小さな神獣に生まれ変わらせたのです!

 このような現象は聞いたことがありません! やはりあの方は神の現身なのです!」


 一般信者でも利用可能な祈りの間でなにやら口論──もとい、信者たちの熱心な談義が行われていた。


 中心になっているのは討伐に中神殿から参加していた聖職者と、都から連れてきた巫女。

 どちらも熱に浮かされたような表情を浮かべており、周りが見えなくなっている時のメアリィにそっくりである。


「ええと、これは……」


 でも、俺は今回、仮面は外してないぞ!?


「ええ、それが、どうやらアヴィナ様の大儀式に強く心を打たれたようでして……」


 他の信者たちに聞かせるように体験談を触れ回っている、と。


「もしかして、この状態が昨日から続いているのでしょうか?」

「正確に申し上げますと、到着したその日からですので……一昨日の夜からになります」


 それ、もう色んな人に広まっているやつじゃん!


「ふふっ。これは領都中、いえ辺境伯領全域にアヴィナ様の活躍が伝えられる日も遠くありませんね」

「メアリィ、喜んでいる場合ではないのだけれど」


 とか言っているうちにみんなに気づかれて「アヴィナ様だ!」と騒ぎが大きくなった。


「話に聞いた通り、浮世離れした──常人とは異なるお姿だ!」


 それは褒めているのか貶しているのか。

 ともあれ、注目が集まってしまった以上は「ごきげんよう」と挨拶をして。


「アヴィナ様! どうかこの神殿の者たちにもご尊顔をお見せくださいませ!」


 きらきらした目で求められた。


「この目で見たと話しても、アヴィナ様の功績を信じない者もいるのです。

 ですが、あなた様の美しさを見れば必ず納得していただけるはずです!」


 周りからも期待を込めた目で見られた。

 見せること自体は構わないが。

 妙に話が大きくなってきてないか、これ?


 しかし、信者が「神のリアルな姿」を求めるのは当然と言えば当然。


「……わかりました」


 こくりと頷くと、ざっと人波が割れた。

 奥に置かれた神像の前まで静かに導かれた俺は、ゆっくりとみんなを振り返って。

 勿体つけるようにして仮面を、外した。


 ──静寂。


 外した仮面をエレナに渡しても、メアリィがわくわくしながら見渡しても。

 その場にいた全員がこちらを注視したまま沈黙していた。

 ほんの十数秒、まるで時が止まってしまったかのような停滞の後。


「ああ、神よ──!」

「これは夢なのでしょうか? 私は天に召されてしまったのでは……?」

「────」

「ああ、感激のあまり気を失って!? しっかり……!」


 動き出したかと思えば、神に感謝し始める者、滂沱の涙を流す者、放心したまま帰って来ない者、卒倒して別室に運ばれる者。

 様々な反応が表れて……なんというか、大惨事になった。


 一応、その後落ち着いてから経理の視察はできたのだが。


 神殿の長も含め、なにやら神々しいものを見るような目をしていて若干怖かった。

 俺が発言するたびに神妙な面持ちで頷かれるので不用意な発言ができない。

 おかげで、金銭管理の重要性はわかってもらえたものの、逆に厳格になりすぎたりしないか少し心配である。


 そして、これを機に「大聖女アヴィナ・フェニリード伝説」が本格的に国内外へと広まっていくことになり。


「アヴィナ・フェニリード。お前の素顔も広まってきたことだし、そろそろ仮面を外して歩いてもいいんじゃないか?」

「ランベールの言う通りかもしれんな。聖女伝説をより喧伝するためにはその美貌を隠さないほうが良い」

「いえ、あまり急激に広めるのも良くないのではないかと……」

「私も、どちらかと言えば反対です……」


 これに関しては男性陣と女性陣で意見が分かれた。

 フラウが遠い目をして「素顔露出反対」を説いてきたのは、彼女の一番上の兄の長男──すなわち彼女の甥っ子が「ぼくとけっこんしてください!」と俺に花を差し出して来る、という事件があったからだ。

 もちろん断ったが。

 これに関してその子の父親(フラウの兄)は遠回しに「できるものなら自分が求婚したかった」みたいなことを漏らしたらしく、妻と妹から「は?」と、めちゃくちゃ冷ややかな視線を浴びせられることになったとか。


 それを見ていた他の兄たちが慌ててさっと目を逸らしたとか。


「子供の言う事であれば流すが、大の大人が動くようならば叔父上に報告せねばなるまいな?」


 王子様が笑いながら告げることでさすがに求婚騒ぎは収まったが。

 他人のフリをしつつも威圧感を放っていたテオドールが、実際そうなったときにどう行動するのか若干怖くなった。


「ひとまず、仮面を外すのはまだ止めておきます。

 殿下との婚約について正式に承認されてからでも遅くはないでしょう」

「まあな。……と言っても、どうせ承認されるだろうが」


 身も蓋もない言い方だったが、実際、帰ってすぐに承認が下りたのでランベールの予想は間違っていなかった。




    ◇    ◇    ◇




「それにしても、困りましたね……」

「どうしたのですか、フラウさま?」

「いえ、私、帰還後にフラムヴェイル様へ求婚しようかと考えていたのですが……」


 俺は夏休みを利用して来ているので、あまりのんびりもしていられない。

 ランベールも帰って報告しないとだし、騎士を帰還させないと都の戦力が目減りしたままだ。


 色々な人に配るお土産を買ったり。

 辺境伯と今後のことについて詰めたり。

 あれこれの用事を手早く済ませて今度は都への帰路につくことになった。


 ちなみにグリフォンの首は辺境伯に預けてきた。

 胴体は防腐の魔法を頻繁にかけ直しながら都まで輸送する。

 頭を飾らせてあげる代わりに胴体は素材確保なりなんなりに使うね、という取り引きだ。


 グリフォンの討伐によって領内の魔物発生は落ち着きつつあるので後は任せても問題ない。

 帰る途中に出くわしたらその分は討伐して行こうか、くらい。


 討伐の証でもある子グリフォンは相変わらず俺かフラウにじゃれており。

 その相手をしながらフラウがこぼしたのが先の言葉。


 なんかいい感じに兄に結婚相手ができようとしている。

 性格的にも相性は良さそうだし、悪い話じゃないと思うが。


「もし、私がこの子の世話をすることになった場合、フェニリード家に嫁ぐわけにはまいりませんでしょう?」

「……ああ」


 辺境伯としてもなるべく早く領地にグリフォンを確保したいだろうし。

 不死鳥を家紋とするフェニリード家がグリフォンの管理をするのは外聞が悪い。


 お義兄様、勝手に求婚の予定が立ち上がって勝手に立ち消えになりそうです。

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