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Veil lady ~薄衣姫の革命~  作者: 緑茶わいん
第三章(仮)
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退魔の象徴 アヴィナ -4-

 四つ足の魔物は草木の陰に隠れて存在を見落としやすく。

 空飛ぶ魔物は隊列を無視して弱いところを狙ってくる危険がある。

 奇襲は最も避けなければならない状況だった。


「ランベール、右斜め前方に敵影だ。数は十二」


 俺たちの乗る公爵家の馬車にはランベールお手製の魔物を探知する魔道具が取り付けられていた。

 一般的な魔道具よりも探索範囲が広い優れもの。

 反応を見たテオドールはすぐさま遠話の魔道具を甥に繋げて連絡を取る。


「敵接近! 総員、警戒しつつ前進!」


 すかさずかけられた号令によって不測の事態は回避。


 号令の声に反応して駆けてきた灰色狼を、前衛の兵たちが必死に食い止める。

 飛び込むようにして爪や牙を振るってくるスタイルはかなり厄介だ。

 剣や盾、槍で牽制しつつ、後ろに回りこまれることを避けていく。


 衝突の隙に空から飛来しようとするキラーホークは飛び道具持ちが狙う。

 が、弓矢も「遠くを狙える」というだけで、三次元的な動きをする相手に当てるのは困難。

 同時に騎士や宮廷魔術師も火球を放つも、


「炎ではなく風を使ってください! 飛行を阻害するだけでも価値があります!」


 なかなか当たらないのを見たフラウが馬車の扉を開けつつ叫んだ。

 曲芸のごとく馬車の上に飛び乗った彼女はさらに風の魔法を纏って跳躍。


「はっ……!」


 一級品の剣が閃くと見事、キラーホークの一体の片翼を切り裂いた。


「公爵令嬢。君の奇跡も役に立つのではないか?」

「ええ、そうですね。この機会に試しておきましょう──『聖弾』よ!」


 窓から手だけを出した俺は聖なる光を球の形に圧縮して撃ちだした。


 ──奇跡は願いさえすればおよそどんなことでも実現できる。


 例えば攻撃用の奇跡にホーミング効果を付与するとか。

 というか、今まで使った攻撃奇跡すべてに俺は無意識に付与していた。

 直線に撃つだけで当てられる時は追尾を切ったほうが消耗が少なくて済む……と、テオドールに言われて気づいたのだ。

 逆に言うと、必要な時に付与すれば。

 光の球は避けようとするキラーホークを追いかけ、着弾。

 弾けるようにその身の大半を消滅させると、残りの瘴気も拡散させた。


「ふむ。聖なる力で浄化すると素材が残らないのが難点だな」

「贅沢を言っている場合ではないのでは?」

「集団となると弱い者を守る必要も出てくる。

 採取が目的であればやはり冒険者として動く方が便利か」


 だからそんな場合じゃないって。

 フラウの活躍もあって戦闘は早々に終わったものの、負傷者が数名。

 彼らの治療にも多少の時間を要した。


「遭遇戦が増えるとなると移動速度は落ちるな」

「警戒のために歩を遅らせる必要もありますものね」


 道中、さらに中小規模の遭遇戦が数回。

 討伐のために来た以上、立ち寄った村や街で噂を聞けば退治に向かう。


 移動が遅れると街や村にたどり着けず、野営する必要も出てきた。

 危険が危険を呼ぶ状態。

 俺たちや聖職者は馬車の中で休むことができたものの、


「このような日々が後何日続くのでしょう……?」


 巫女の中からは不安の声も上がり始めた。

 屋根があるだけマシとはいえ、ベッドがあるわけじゃない。ただの雑魚寝だしな……。

 夜襲に怯えながら夜を過ごすのではよく眠れなくても仕方ない。


「人々を生かすのも我々聖職者の使命です。

 この隊が襲われれば襲われるほど、他の方の被害が減ると思いましょう?」

「アヴィナ様……」


 俺はなるべくみんなを宥め、不安を和らげるように努めた。

 こういうのは上の者の仕事。

 守ってもらう立場なのだからせめて精神的に役に立たなくては。


「アヴィナ様もお疲れでしょうに……」

「ご令嬢はもっと我が儘でもいいのですよ。戦うのは殿方にお任せになれば」


 エレナやメアリィがそう言ってくれるも「大丈夫よ」と微笑みを返す。


「わたしはこう見えてしぶといの。ほら、ファルだって音を上げていないのだし」

「私はある意味望むところですし、前々から身体も鍛えておりましたので……」

「あら、わたしだってスラムで屋根もない生活をしていたのよ? 二歳くらいまで」


 と、聞いていたテオドールが「そう言えばそうだったな」と呟いた。


「これを知ったら、麗しの王弟殿下は考えを変えられてしまうかしら」

「さあな。だが、偏屈な男だと聞いている。常人とは異なる基準があるのではないか」


 自分で言うか? いや、暗に否定してくれているんだが。


「ところで、令嬢殿の母親は何者だったのだ? 王族か高位貴族に孕まされた元使用人か?」

「記憶はありませんけれど、ただの平民だったと思います」


 前に別の相手からもそこを疑われたな。

 この美貌はチートだし、奇跡の力もその美貌由来なんだが。

 もし、転生先決定の段階で、チートに相応しい出自を神が選定していたとしたら。

 神の現身と謳われる子を産む必然性が最低限ある母だった可能性も。


「娘ですら覚えていないのならば、如何様にもでっちあげられそうだな。

 公爵家の血筋としても良いし、王族の落胤とする線も──」


 スラム出身っていうのも意外に便利だな……?




    ◇    ◇    ◇




 それにしても、本当に魔物の数が多い。

 領都に到達する前だっていうのに、すでに何度の戦いを経たか。

 倒しても倒しても湧いてきている感がある。


 壁や柵のおかげ、それから騎士や兵士、冒険者の尽力によって人的被害は抑えられている。

 が、家畜や農作物には少なくない被害が出ている。


 一大産地である辺境伯領が打撃を受ければ流通にも影響が出て国全体が困るだろう。


「首魁を叩けば一気に状況が改善するような話があれば良いのですが」


 そんなRPGのボスみたいな都合の良い存在はいないか、と俺が内心自己完結すれば──テオドールが。


「案外、あり得ぬ話でもないかもしれん」

「え? もしかして、なにか情報を掴んだのですか?」


 相変わらず、たまにふらりと消えては情報収集して戻ってくるのだ、このフード仮面は。

 不確定情報もあるからと全ては教えてくれないものの、そこには有用な情報もあるはず。


 彼は「そろそろ良いか」と呟くと、俺とランベールだけにそれを教えてくれた。


「今回の大量発生には『魔物の主』が関わっている可能性がある」

「主だと? あれはめったに出現しないと聞いているが」

「ああ。だが、私が見聞きしただけでも複数の目撃情報がある」


 魔物の主。


「特に強力な魔物で、それ自身が魔物を生み出す力を持つもの──でしたか?」

「そうだ。単なる魔力の集合体ではなく、自身の魔力を持つに至った魔物がそう呼ばれる」


 そいつがいると、淀んだ魔力が文字通りぽんぽん湧いてくるわけだ。

 そりゃあ雑魚を倒しても倒しても魔物が減らないというもの。


「大量の淀んだ魔力。魔物の生まれやすい時期。核となる象徴的な畏怖。……状況は揃っている」

「待ってくれ、叔父上。主と言っても姿形は様々だろう? 何故それを主だと特定できた?」

「一見して大物、一筋縄ではいかぬと断定できる姿をしていたからだ」


 魔物が人のイメージから生まれるとするならば、強大な魔物もまた人のイメージから生まれるはず。

 例えばドラゴンなどがわかりやすい。

 空を飛び、頑丈な鱗を持ち、火を吐いて家を燃やし、家畜を食らい金銀財宝を集める。

 そして、今回の敵は、


「グリフォンだ。辺境伯領の象徴である伝説上の存在が、よりにもよって敵に回ったらしい」

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