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Veil lady ~薄衣姫の革命~  作者: 緑茶わいん
第三章(仮)
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退魔の象徴 アヴィナ -1-

「わたしたちだけ宿、というのも心苦しいのですけれど」

「俺は王族、お前は公爵令嬢。野営なんかされたらむしろ兵の気が散るだろう」

「それはそうかもしれませんね」


 宿泊地である街に着くと、遠征部隊は宿組と野営組に分かれた。

 部隊全員を泊められるほどのキャパが無いからだ。

 ガチの戦時なら強引に貸し切りにするんだろうが……今はまだ、そこまでの非常事態じゃない。

 例年よりは厳しい状況とはいえ魔物討伐は恒例行事なのである。


 で、宿に行くことになったのは第一王子ランベールとその側近、それから俺+護衛に雇われた冒険者という名目の二人+エレナとメアリィ。

 以上のメンバーが高級な宿に宿泊し、別の普通の宿に神殿組とうちの私兵が泊まる。

 ちなみに神殿組の分の宿泊費は俺持ち、私兵の分はフェニリード家が負担している。


「守る側としても一か所にいてくれた方が守りやすいだろう。

 大人しく休んでおけよ。俺は街の長のところへ行かなくてはならん」


 伊達に軍備増強を謳っていないというか、ランベールはこういうイベントが得意そうだ。

 てきぱきと動く様はわりと格好いい。


「ご挨拶ですよね? わたしも『大聖女』として同行したいのですけれど」

「構わないが、そこの怪しげな護衛は置いて行けよ」


 仮面を着けている程度で怪しいとは──うん、怪しいな。

 俺は素直に「かしこまりました」と答えてエレナに同行を命じた。

 護衛はランベールの専属騎士がやってくれるので問題ない。


「テオ、それからファル。大人しくしていてね?」

「気をつけろよ。……俺はその間に情報を集めておく」


 いや王弟殿下、大人しくしていろと言ったばかりなんだが。

 フラウに「なんとかしてくれ」と視線を送るも「無理です」とばかりに肩を竦められた。


「ようこそお越しくださいました、ランベール殿下。

 それから──そちらが新たに就任されたという『大聖女』様ですかな?」

「はい。アヴィナ・フェニリードと申します。以後お見知りおきを」


 この世界にテレビやネット、写真の類はない。

 魔道具で姿を記憶することはできるが高価なので広くは使われない。

 直接挨拶に行って姿を見せ、覚えてもらうのは重要である。

 まあ、言っても俺は仮面を着けているわけだが。


「アヴィナ・フェニリード。せっかくだ、素顔を見せてやれ」

「よろしいのですか?」

「別に構わないだろう、減るものでもなし」


 いざって時の威力は減るが、まあ、ここは見せ時か。


「では」


 俺は仮面を外し、隠すもののなにもない素顔を晒した。


 12歳、成長期の俺はすくすくと成長を続けている。

 美味しいものをたっぷり食べられていることもあって身長・バストサイズ共に順調。

 胸はそろそろCはあるだろうし、背が伸びたおかげでぐっと年頃らしくなっている。

 成人前とはいえ、この身体に『女』を見る者も多くなってくる頃合いだ。


 神の似姿そのものとさえ言われる美貌を明かすのは、そういう意味でも必要。

 清楚な白い衣を纏っているとはいえ、顔を隠していると娼婦の類に間違われかねない。


 神秘的な銀色の髪と深い青色の瞳、人形でさえもそうそう到達できない造形美を持つ顔立ちは、見る者に畏怖さえも抱かせる。


「……おお、これが噂に名高い『大聖女』様の……!」


 こんな美しい顔は見たことがないと、街の長は涙を流さんばかりに感激した。


「お顔を隠されている理由がよくわかりました。

 ええ、アヴィナ様ならば次期国王陛下の妻となられても皆が納得いたしましょう……!」

「残念だが、こいつは叔父上に求婚中だ」

「なんと……! では、ランベール殿下にも明確な功績が必要ですな」


 やっぱり、傍から見るとテオドール+俺という組み合わせは強敵に見えるのか。


「殿下に点数を稼いでいただくため、というわけではないのですが……実を言いますと、魔物討伐を一件、引き受けていただけないかと思っておりまして」

「衛兵からも多少は聞いている。相手はゴブリンだそうだが?」

「その通りです。街道周辺に時折、数匹単位で出没しており……騎士や兵に討伐に向かってもらっているのですが、勝てそうにないとわかるとすぐに逃げ出してしまうのです」

「数匹のゴブリンか。……厄介だな」


 顎に手を当てて呟くランベール。

 これは別にゴブリンが単体で手強い相手というわけではない。


「ゴブリンを一匹見たら三十匹いると思え、と申しますので……」


 ゴブリンは魔物の中でもかなりメジャーな存在だ。

 人間の子供程度の背丈をした人型の化け物で、ある程度の知能も持っている。

 簡単な武器や罠を操り、弱い者を複数で囲んで嬲る。

 発生に必要な『淀んだ魔力』も少ないのか、たいてい出てくる時は複数だという。


「私の知る限り犠牲者は出ておりませんが、商人の荷や旅人の荷物がやられたとの報告を受けております」

「数匹がたびたび出没しているのならば確かに、総数はそれなりのものだろう。

 徘徊している奴らを追い立てるにはこちらも人員が必要か」


 少し考えた末、ランベールは「いいだろう」とこれを了承した。


「ありがとうございます! ランベール第一王子殿下に大聖女アヴィナ様、お二人が率いる騎士団であればゴブリン程度、大した敵ではないでしょう!」


 なんて言われた挙句、夕食をご馳走になって長の屋敷を後にした俺たちは、


「お前は宿で休んでいて構わないぞ、アヴィナ・フェニリード。

 捜索して各個撃破となると本陣を設けづらい。

 逆に狙われる可能性を考えると邪魔だ」

「いえ。できればわたしも参加させていただけないでしょうか?」

「ほう、なにか腹案でもあるのか?」

「それほどのものではございませんが……わたしやファルにはまだまだ経験が必要ですので」




    ◇    ◇    ◇




「大聖女の力がどう役立つか実験をしておきたい。

 狙われるというのなら囮に使えば良かろう」


 テオドール殿下? 態度がでかすぎる上に護衛の立てる作戦じゃないです。

 いやまあ俺はいいんだが。

 フラウも「そういう意味では私もお役に立てるかと」と微笑む。


「ゴブリンは若い乙女を好む性質がありますもの」


 この世界の魔物は魔力によって生み出される特殊な生命体だ。

 だから繁殖とかはしなくてもいいはずだが──どういうわけか女のにおいを嗅ぎ分けて狙ってくる。

 若い処女はたいてい「弱者」という条件を満たしているせいもあるんだろう。


「わたしとファル、エレナにメアリィ、それに巫女たちが固まっていれば引き付けられる可能性はありますね」

「なるほどな。目撃の多い地点を囲うように兵を展開し、お前たちのいるところへ追い立てるか」


 もちろん俺たちのガードにも戦力を十分割く。

 割いたうえで、俺やフラウが安全に、実戦経験を積めれば最良だ。


「いいだろう、肩慣らしにもちょうどいい。

 そういうことなら俺もお前たちと肩を並べるとしよう」


 いや、別に王子様はいなくてもいいが。

 そんなこんなで翌日、俺たちは街周辺を荒らすゴブリンの掃討に乗り出した。

 さすが、遠征に選ばれた者たちは優秀なのか、大した被害もないまま発見・討伐報告がいくつも上がり。

 情報通り逃げていくゴブリンも多かったものの、そこは深追いせず包囲網を形成していった。


 逃げ道を失ったことを悟ったゴブリンたちは唯一包囲の緩い方向を目指し。

 結果、少数ずつ俺たちのところへ向かってくる形になった。


 初めて見る生の魔物。

 訓練ではない実戦のにおいは──思った以上に強烈で。

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