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Veil lady ~薄衣姫の革命~  作者: 緑茶わいん
第三章(仮)
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公爵家の長女アヴィナ -7-

「みんな、わたしたちの警護をよろしくね?」

「はい! 命に代えても皆様をお守りいたします!」


 我が家からも私兵が数名同行することになった。

 前からよく護衛してくれているサラをはじめ全員、女の兵。

 騎士団と連携は取るが、名目は俺の護衛。

 神殿の巫女たちのガードや、エレナとメアリィで手が足りない場合はメイドの手伝いも担当してもらう。


「公爵家からの馬車は二台か」

「はい。片方にわたしとテオ、それからファルが乗車しましょう」

「かしこまりました」


 俺はぴっちりした黒のボディスーツ風衣装+透けるデザインの聖衣+もちろん仮面。

 テオドールは来た時と同様、黒いロングコート+フード+仮面。


 ファル、と偽名を用いたフラウは簡易の仮面に白いコート姿だ。

 コートの下はミニスカ+タイツ。

 肘や肩、胸などの主要箇所には軽い革の鎧を装着している。

 腰に差した剣はなんと、テオドールが贈ったものである。


 フラウ自身が用意した剣もあったのだが、






『十二歳の誕生日に父から贈られた剣なのです』

『ふむ。……駄目だな』

『そうなのですか? 美しい剣だと思うのですが』

『見た目だけだ。切れ味も耐久性も量産品と大差ない』


 と、テオドールに一蹴されてしまったのだ。

 おそらく辺境伯としては娘に実戦なんて経験して欲しくない。

 なので、実用品というよりも見栄えを重視したのだろうということ。


『それを使うくらいならばこっちを使え』


 と、投げ渡されたのは黒い鞘に入ったシンプルな長剣。

 抜かれたその刃が上等な出来であることは俺の目にもわかった。


『このような剣を……よろしいのですか?』

『もともと予備のつもりで持ってきた。

 そこの公爵令嬢に使わせようとも思ったが……持たせても焼け石に水だろう』


 なるほど、だから令嬢でも振るえるくらいの刃渡りなのか。

 俺の剣術がヘボいことに関しては事実なのでなにも言わない。


『……では、ありがたく使わせていただきます』

『そうしろ。……ああ、しまった。どうせならアヴィナ・フェニリードに渡して下賜させればよかったか』

『ああ、アヴィナ様に剣を捧げるのも良いかもしれませんね』

『二人とも、からかうのはやめてちょうだい』






 と、いうようなやり取りがあったのだ。


「アヴィナ様。我々兵の一部も同乗させてください」

「ありがとう。でも、あなたたちには道中巫女たちを守って欲しいの。

 女性と一緒のほうが彼女たちも安心でしょう?」

「ですが、得体の知れない冒険者風情と一緒では……」

「エレナとメアリィにも乗ってもらうから心配ないわ」


 サラたちは「そういうことでしたら」となんとか引き下がってくれた。

 この面子じゃないと込み入った話ができないから……というのが一番の理由だが、そこを説明するとテオドールたちの素性を明かすことになる。


「それじゃあ、出発しましょうか」


 義兄や使用人たちに見送られた俺たちはまず、公爵家から城へと向かった。

 そちらで騎士団やランベール、神殿勢と合流、国王との謁見を経て都を出る流れだ。


「来たか、アヴィナ・フェニリード。それに──」


 俺たちを出迎えた第一王子ランベールは華やかながらしっかりとした旅装。

 彼は俺に声をかけたかと思うと仮面フードの怪しい男をみやって、


「貴様のことはなんと呼べばいい?」

「テオだ」

「そうか。ならばテオ、その女を守ってやれ」


 ニヤニヤしながら「これは楽しいな」と口にする王子様。

 叔父上にタメ口きく機会なんてそうないだろうし気持ちはわかるが……若干意地が悪い。


「我が息子ランベールよ、我に代わって騎士を率い、辺境伯領の魔物を討伐せよ」

「はっ。必ずや陛下のご期待に応えてみせましょう」

「大聖女アヴィナよ。ランベール、および騎士たちを支援し、一つでも多くの命を救ってくれ」

「かしこまりました。聖職者一同、全力で役目を果たします」


 再び馬車に乗り込み、表通りをパレードしながら進んでいく。

 正式な遠征なので当然と言えば当然だが──なかなかすごいイベントに巻き込まれたものである。

 貴族から平民まで、都に住む大勢が見送りに来ている。

 中には『瑠璃宮』の姉たちもいるだろうか? それとも昼間だし寝ている時間か。


 俺はとりあえず、都を出るまで『大聖女』としてみんなに手を振った。


「テオドールさまも手伝ってください」

「怪しい冒険者風情がどうして手を振る必要がある」

「便利ですねその設定」


 門をくぐるとようやく一息つけるわけだが──そうすると今度は外の景色が待っている。


「これじゃあ休んでいる暇がないじゃない」

「アヴィナ様、先は長いのですから少しでも身体をお休めください」

「わかっているけれど、本格的に外へ出るのはこれが初めてなのよ?」


 街道や周辺の景色を目に焼き付けておきたい。


「話には聞いていたけれど、都周辺の街道は石畳で舗装されているのね」

「ならしただけの土の道と石畳では速度も安定性も変わってくるからな」


 もちろん、ろくにならしてさえいない道ではさらに効率が落ちる。

 がたがたした道だと荷物が揺れて破損や劣化の危険も大きくなる。

 軍事行動においても商業活動においても道路の整備は重要なのだ。


 正体を知っている人間しかいないのをいいことにテオドールはフードを外して足を組み、


「では、この国の街道整備事業がどの程度まで完了しているか知っているか、アヴィナ・フェニリード」

「東西南北、それぞれ国境に隣接する領地の領都までは繋がっております。

 比率で表せば──おそらく一割にも満たないでしょう」

「そうだ。最低限を執念で完了させたと言うべきか、最低限でとん挫していると言うべきかは悩みどころだな」


 仮面がちらりとフラウのほうを向く。

 この辺境伯令嬢にはテオドールの素顔を見せてはいないが、中身が王弟であることは伝えてある。


「フラウ・ヴァルグリーフ。何故、最接近領への道を優先したと思う?」

「他国との戦争を想定したからです。

 街道が整備されていれば行軍がぐっと楽になりますから」

「辺境伯領の娘には愚問だったか」


 つまり、俺たちはヴァルグリーフ辺境伯領の領都までおおよそ石畳の街道を進めることになる。

 もちろん補給等の都合で主街道を外れることもあるが。


「大きな街道は騎士団による見回りも頻繁だ。

 賊の出没や魔物の徘徊もそうそう起こらないと考えていいだろう」


 移動の大部分はのんびり馬車に揺られているだけでいい、というわけだ。

 代わりに移動時間自体はかなりかかる。


 一つに、馬車自体が「楽ではあるものの、速度はそこまで出ない」乗り物であること。

 引いているのが生き物なので当然疲れるしお腹も空かせる。

 適度に休憩を挟まなくてはいけないので、自動車ほどの距離はとても稼げない。


 またもう一つとして、全員が馬車に乗っているわけではないということ。

 荷物の運搬もあるため馬車は相当数用意されているが、人員の何割かは徒歩である。

 全員分の馬を用意するのが大変であることや、馬に乗るとその分集団が大きくなってしまうからだ。

 小回りもききづらくなるので徒歩の騎士も大事。


「体力の温存は大事だ。……場合によっては、立ち寄った土地で魔物退治を頼まれる可能性もある」


 国内の安全のために来ているのだから当然、大きな遠回りにならなければそれらにも対応することになる。

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