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Veil lady ~薄衣姫の革命~  作者: 緑茶わいん
第三章(仮)
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婚活令嬢 アヴィナ・フェニリード -5-

 毎回上るのは大変だよなあ、この階段……。

 何度目かになるテオドールの居所への訪問。


 俺が頻繁に塔へと通っていることは噂になっていることだろう。


『アヴィナ・フェニリード公爵令嬢がテオドール王弟殿下に求婚したらしい』

『しかもテオドール殿下も婚約を了承なさったとか』

『そんな!? あの殿下が婚約を……!?』


 事実だしそれは構わないのだが、


「殿下。もう少し通いやすい場所に住んでいただくことはできないでしょうか?」

「来るなり言うことがそれか」


 来客が俺と専属メイドだけだとわかるとさっさと仮面を外すテオドール。

 俺は内心、女性的感性部分できゃあきゃあ言いつつそれをスルー。

 テオドールの専属執事は「そろそろお考えになられては?」と俺に加勢してくれた。


「もともと陛下は城に居室を用意すると言っておられたわけですし」

「必要ない。研究にはここが適している」


 まあ、メイドが出入りしたりすると面倒だっていうのもあるんだろうな。

 俺でさえメアリィがちょっとした悪戯してくるわけで。


「殿下は不便だとお感じにならないのですか?」

「ああ。飛べばいいだけだからな」


 しれっとすごいこと言ったな!?


「殿下が出入りなさるのは主にあちらの窓からとなっております」

「ここはかなりの高さだと思うのですけれど」

「君も訓練すればそのくらいできるだろう?」


 天才には凡人の心がわからないというのはこういうことか。


「残念ですが、わたしには魔力がほとんどございません」

「何?」


 テオドールの眉がつり上がった。

 あれか、そんな無能なら婚約を再考するとか──。


「計測したのはいつ、どこでだ?」

「最後に計測を行ったのは養子縁組の相談にフェニリード邸を訪れた際ですね。

 魔力量は……たしか14でした」

「ふむ。念のためもう一度計測してみるか」


 王弟の私物で再び計測を行ったところ、魔力は『15』だった。

 地味に1ずつ伸びているが、


「『瑠璃宮』時代のわたしの姉は魔力1021でした」

「『雷鳴の魔女』か。なかなかの魔力だが、男にかまけて鍛錬が十分に行えていないな」

「では、殿下の魔力量はおいくつなのですか?」

「私か?」


 ふっと笑った表情が少し自慢げで、


「私は1378だ」

「わたしの百倍近いですね」


 ちなみに貴族の標準は100、うちの義妹ことアルエットは9歳にして500近い魔力を持っている。

 標準であって平均ではないので100以上の貴族もけっして珍しくはないが、娼姫ヴィオレやこのテオドールが規格外なのは間違いない。


「どうやら『まだ』のようだな。……考えてみれば君の活躍は都内に限られていたか」

「? なんのお話でしょう?」


 テオドールは「こっちの話だ」とあっさり流した。


「せっかくだから聞いておこう。君は魔法についてどの程度知っている?」

「奇跡と異なり、己の魔力と理論を用いて結果を引き出す術だと」


 ごくごく簡単な魔法なら俺も使えるし、貴族として生活するうえで魔道具に魔力供給することは多い。


「基礎の基礎は理解しているようだな。そうだ。我々は魔力を用いて奇跡の模倣を行っている」

「神の御業を、聖職者以外でも使えるようにしたのが魔法ということですか?」

「所説あるが、一般的にはそう理解しておけばおおむね問題ない」


 奇跡は理論上なんでもできるが、魔法は攻撃や防御など実用的なものが多い。

 これは、魔法が必要に応じて「開発」されてきたからだ。


「姉などはずいぶん簡単に魔法を使っておりましたが……結局、魔法とはどのようにして用いられているのですか?」

「決まった形はない。君が魔法を行使する際はどうしている?」

「古語の呪文を用いております」

「ああ。それが最も一般的な形だな」


 テオドールは人差し指を立てると「『炎よ』」と唱えた。

 指に小さな炎が生まれて、消える。


「呪文によって結果の方向性を定義し、注いだ魔力量に応じた規模の現象が起こる。

 魔力の消費は必須だが──方向性の定義は呪文でなくとも良い」

「魔道具や、魔法陣、ルーンなどを用いる方法ですね?」

「そうだ。それらもまた、歴史上の魔術師たちによって開発されてきた」


 魔法陣を描くことで、呪文では定義しづらい複雑な結果を導くことができる。

 ルーンを用いれば呪文を唱えることなく簡単な事象を素早く導ける。

 そして、魔法陣やルーンを物品に刻むことでそれが魔道具になる。


「そう聞くと、奇跡と大差はないように聞こえるのですが」

「全く違う。『大聖女』である君は曖昧な願いだけで大きな結果を導けるはずだ」


 そんなことできるか……とは、確かに言えない。

 俺が過去視で犯人を捕まえた件は既に有名になっている。


「そして、魔力は淀む。それが凝縮して形を持ったものが魔物であり、それを根本的に排除するには奇跡の力が必要だ」


 神の力を借りなければ人は魔物を根本から退けることができない。

 にもかかわらず、聖職者が弱体化している現状は──やっぱりかなりまずいらしい。


「君は現状、どの程度の奇跡を行使できる?」

「並の巫女の五倍といったところでしょうか。重傷者を五、六人も助けたら疲れ切ると思います」

「時代を考えれば破格と言っていいだろうな。君以上の使い手はこの国にはいないだろう」


 テオドールは「護衛対象は少ないほうが良い」と笑んだ。

 うん、なんというか若干暗黒微笑めいていて怖い。




    ◇    ◇    ◇




 学園が夏季休暇に入った翌日には騎士団が出発することになった。

 両親と義妹もその少し前には領地へ発ってしまう。


「僕も騎士団に同行できればいいんだが……」

「お気持ちだけ受け取っておきます。お義兄さまはどうかこの家をお守りくださいませ」


 出発が近づく中、俺の元に旅装の完成版が届けられた。

 せっかくなので一緒に見てもらうと、義兄──フラムヴェイルは「へえ」と笑みを浮かべた。


「これはまた珍しいね。乗馬服よりもさらに密着したつくりだ」

「ええ。極力、動きの邪魔にならないようにいたしました」


 イメージしたのは近未来的な密着型スーツだ。

 が、この世界ではラバー的な素材が一般的でないため、薄く丈夫な布で作るしかなかった。

 色は黒。

 可能な限りタイトなつくりにしつつ、数か所で編み上げることで通気性も確保。

 立体縫製によって胸もしっかりとホールドしてくれる。


「だけど、これは少し破廉恥すぎるんじゃないかな?」


 年頃の男子である兄は俺が着たところを想像して顔を真っ赤にする。


「あら、お義兄さま? 女性の身体はその曲線だけでいやらしいものだと?」

「そ、そこまでは言っていないよ」


 目を逸らした辺り完全にノーとは言えないらしい。うん、俺もぶっちゃけエロいと思う。

 が、そんなこと言ったら肩だしのドレスとかも破廉恥になってしまう。

 お洒落というのは結局、破廉恥との線引きをどこにするかという話なのだ。


「問題ありません。今回は荒事前提ですし、上から服を着られるように作らせましたので」

「ああ、なるほど。これだけで着るわけじゃないのか」

「ええ。この上から聖女の衣を纏います」

「……うん。それは、隠れていることになるんだろうか?」


 インナーの代わりになるので露出度はないが、ボディラインが丸わかりなのでだいぶえっちである。

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