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Veil lady ~薄衣姫の革命~  作者: 緑茶わいん
第三章(仮)
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『大聖女』アヴィナ -8-

「なんだか歌い出したい気分だわ」


 神殿にて、俺は例の透け透け聖衣を着てご満悦だった。

 大聖女の装いとして暗黙の許可が下りたこの衣装。

 拠点である神殿で着ておかしいはずがない。


 白を基調とし、神の衣に似せたこれは実際清楚でもある。

 清楚とえっちは両立する。つまりは「清楚えっち」だ。


「女性の身体そのものが美しいのだから、衣装がなんであろうと邪な想いを抱くものはいるのよ。

 だから、はしたない格好か否かは慣習が作り出すものでしかないの」

「そ、そうなのでしょうか……?」


 神殿には神官や巫女などの神殿関係者に加え、けが人や病人、祈りに来た一般人なども訪れる。

 彼らからの視線もばんばん送られてくるが、俺は堂々とそれを受け止める。

 傍らをおっかなびっくり歩くのは巫女のラニスだ。


 現在貴族令嬢が独占する「聖女」以上の位に最も近いとされる一般巫女。

 神の瞳を思わせるサファイア色の瞳を持つ彼女もまた俺と同じ衣を身に着けている。


 俺、セレスティナ、ラニスの分で三着作ったからだ。

 国王から許可が下りたあとで予備も発注したので破れたりしても安心。

 にもかかわらずなぜ反応が鈍いのかと言えば、


「ですが、その、つまり現状は『はしたない』と感じるのが正解なのでは」

「そうね。だから、それをわたしたちが変えていきましょう?」


 巫女でなければとっくに結婚していておかしくない年齢のラニス。

 この世界は魅力ステータスが肉体の老化速度に影響するのか、透ける衣に負けていない見事なプロポーションを披露しているが。

 成長途上にある俺と違って大人の女性なのでまあ、恥ずかしいのもわかる。

 が、


「……それに、本当はラニスだって悪くない気分なのでしょう?」

「っ!?」


 他の者に聞こえないように囁けば、びくっと震えて顔を真っ赤にする。

 最初は神殿内で、巫女にだけ披露するのさえ嫌がっていたのだ。

 それがそれほど長くない間に「神殿内ならまあ……」くらいになっている。


 思うに、羞恥という感情は快感と紙一重なのだ。


 他者から白い目で見られるのはともかく、エロい目や羨望の眼差しを向けられるのは決して悪い気分ばかりではない。

 この衣には神の似姿という大義名分があるのだから、大きな顔をして露出の快感を楽しめばいい。


「そ、それは」


 何かを言い返そうとしたラニスだったが、結局、言うのを止めたようで、


「アヴィナ様。……仮面をつけてもよろしいでしょうか?」

「ええ、もちろん」


 俺の了承を得たラニスは持参していた仮面を装着した。

 俺のと異なり魔法のアイテムではなく、顔の一部を覆うだけのそれ。

 それでも己を殺す効果が発揮されて、巫女の表情が明らかに落ち着く。


「特別な聖衣と仮面を着けて奉仕に従事する新しい位を作ってもいいかもしれないわね」

「人員が増え、神官長が許可なさればそれも可能かと」


 そうなったらラニスにその子たちの長を務めてもらおう。

 と。


「だから、そこをなんとかお願いしてるんじゃない」

「無理なものは無理なのです。神殿にはそのような余力はございません」

「なんの騒ぎかしら」


 神官の一人と、皮鎧をつけた女冒険者が言い争っている。

 ラニスと目くばせをしあってそちらに向かう。


「何か問題ですか?」

「あっ……これはアヴィナ様、ラニス様。いえ、それがこの者が……」

「ああ、ちょうどいいところに。大聖女様からもなんとか言っとくれよ」


 神官をつかまえてなにかを言い募っていたのは顔見知りだった。

 と言っても前に彼女の治療をしたことがあるだけだが。


「実はさ、近いうちにヴァルグリーフ辺境伯領まで遠征するんだけどさ」

「あら、随分遠くまで行かれるのですね」

「ああ。魔物が増え始めてるみたいでさ。で、聖水でも確保できればと思ったんだけど」

「少数であれば提供も可能ですが、十も二十もお渡しすることはできないとお伝えしていたのです」

「金は払うって言ってるんだからそこをなんとかしておくれよ」


 なるほど、そういうことか。

 がめつい、もとい、金にきっちりしている神官長の方針で聖水は価格が決まっている。

 が、それは金を出せばいくらでも買えるというものではない。


「彼の言う通りです。聖水は作るのが大変なので、今の体制では大量には作れないのです」

「じゃあその体制とやらを変えとくれよ」


 できたらとっくにやってるんだよ!


「人員の増加と教育をできる限り進めています。すぐには難しいでしょう──と、言うのが杓子定規な回答ですが」


 俺はぴっと指を立てて、


「ここに暇をしている大聖女がいます。わたしで良ければ力をお貸ししましょう」

「本当かい!?」

「ええ、ですが、頼めばなんとかなるのが当たり前だとは思わないでくださいね? これはあくまでも顔見知りへ特別に便宜を図ったまでのこと」

「ああ、もちろん! だから早いとこ聖水をおくれよ!」


 うん、まあ、金払う気はあるみたいだし、素直な性格ではあるっぽいが。

 ちょっと勢いがすごいというか、お調子者なところがあるな。


「とりあえず明日また来てください。できる限り用意をしておきます」


 女冒険者が帰った後、神官から謝罪とお礼を言われた。


「大したことではありません。それよりも、早急に準備をしなくてはなりませんね」


 言った通り、聖水の作成には聖なる力を籠める時間が必要だ。

 俺ならいくつか一気に作ることはできるが、一晩で十も二十も作るのは無理。

 とりあえず神殿の在庫を調べて、当面大丈夫な量を残し提供することに。


 神官長は「業務に支障をきたさないのであればむしろ歓迎」と許可をくれた。

 一気にまとまった数が売れればそこそこの収入になるからな。

 何本かの聖水を受け取った女冒険者は「ありがとよ」と笑った。


「これだけありゃお守りにはなるだろ」

「それにしても、聖水を用意するなんて念入りですね?」

「この前治療してもらって、神様の奇跡ってのは効くもんだと思い直したからね。

 危険なところに行くんだったら持っておこうかって」


 仲間の分も含めて調達することにしたらしい。

 これは、あれだな。


「神官長。おそらく今後も聖水の需要が高まります」

「ふむ。では大聖女殿に一本でも多く量産してもらいたい」


 地位的に上な俺に命令はできないが、実質的な業務指示。


「かしこまりました。わたしとしても神殿の財政は改善したいですから」


 俺は瓶詰めの水をダース単位で寮に持ち帰り、夜ごと聖水づくりにいそしむことになった。

 さすがに一人じゃしんどいので一部をセレスティナに押し付けると、


「わたくしがあまり得意ではないのを知っているでしょうに!」


 と言いながらも頑張って何本か仕上げてくれた。

 案の上、聖水は飛ぶように売れて。


「これは、かなり大事になるんじゃないかしら?」


 女冒険者からの依頼の時点でこっちでも調べ始めていたが、その結果、確かに辺境伯領で魔物の増加がみられることがわかった。

 それだけであれば近年は珍しいことでもない。

 少し前にも別の地域でアンデッドが多数湧いて騎士団の一隊と交戦している。

 フラウの話からもヴァルグリーフ辺境伯領は魔物討伐が日常茶飯事らしいが──。


「例年よりも増加数、勢い共に多い。かなりの大量発生が予想されるな」


 奇しくも王弟テオドールも俺と同じ意見だった。

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