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Veil lady ~薄衣姫の革命~  作者: 緑茶わいん
第三章(仮)
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公爵家の長女アヴィナ -2-

 義兄の部屋を訪れたのは、就寝前の自由時間。

 家の中だと「たとえ兄妹とはいえ」とか言われにくくて助かる。

 俺の来訪を待ち構えていたらしい彼はすぐにお茶を準備してくれた。


 ちなみに男貴族にもメイドは付くが、男女二人きりにならないよう配慮はされる。

 義兄の専属も男のほうが多い。

 寝る前なので茶菓子は控えめ。

 と言いつつ小さな砂糖菓子が皿に盛られた。


 今まで付き合ってきてわかったが、彼はけっこう甘いもの好きである。


「エリーとの交流は楽しめたかい?」

「ええ。女同士、仲良くさせていただきました」


 義兄ことフラムヴェイル──フランは「それは良かった」と笑って、


「愛情を求められているのはわかるけど、僕じゃ一緒にお風呂には入れないからね」

「歳が離れているとは男女ですものね」


 フラムヴェイルとアルエットは五歳差。

 少女が自我に目覚める頃には少年は「女性への対応」を教え込まれる時期だ。


「時に、アヴィナは同性も恋愛対象かな?」

「結婚相手は男性が良いですね。……大人の交流の範疇であれば、別ですけれど」


 貴族ってことあるごとに紅茶飲むよな、と思いつつティーカップを傾ける。

 と、義兄は真意を窺うようにこっちを見つめていた。

 使用人たちも似たような反応、わくわくしているのはメアリィ一人である。


「……冗談ですよ?」

「本当に冗談だったのかな?」


 いや、うん、まあ実際いけるけども。


「それはともかく。せっかくだから学園内の話も少ししておこうか」


 それからは学園や寮での噂話、これからの戦略等についてしばらく話した。

 義兄と俺、それぞれに学内派閥との接触を持っている。

 互いの立場を整理しつつ家の繁栄に役立てるのは必須。


「お義兄さまは第一王子殿下の派閥と懇意にされているのですよね?」

「うん。保守派の男性王族がいなかったからね」


 正妃が産んだ男子は残念ながら第三王子一人だった。


「ルクレツィア殿下のお誘いもたまにはあるけど」

「女性中心のも催しでは肩身が狭いでしょう」


 件の第四王女は俺の入学後、ここぞとばかりにターゲットを移してきた。

 向こうとしても女子のほうが接触しやすいのだ。


「殿下とお付き合いなさっているわけではないのですよね?」

「まさか。殿下は僕なんか眼中にないさ」


 俺に王子との婚約話が来るんだからありえない話じゃないと思うが。


「でも、よろしいのですか? 養女のわたしにこんな話をして」

「構わないよ。君がこの家を出るとは思えないからね」


 剣の腕は「一応恥ずかしくない程度」と自称しているフラン。

 そのイメージ通りスマートな美少年といった雰囲気なのだが。


「君が今狙っているお相手を考えても『公爵令嬢』の地位は必要だろう?」

「さすが、お耳が早いですね」


 ある程度の損得勘定ができないようでは公爵令息などやっていられない。

 俺がとある人物に接触した話はとくに隠していないので知っていてもおかしくはないが。


「今日はそちらのお話ですか?」

「いや、ちょっと個人的な相談があってね」


 言うと、義兄は部屋のセキュリティを上げはじめた。

 防音の魔道具を使い、さらに幻影の魔道具で覗きも防止。

 使用人にも一人を残して退室するよう指示を出した。


「アヴィナ、君を裏切らないのはどちらのメイドかな?」

「二人とも信用しておりますが──メアリィ、残ってくれるかしら?」

「もちろん、おまかせくださいませ!」


 退室することになったエレナに「ごめんなさい」の視線を送るも、彼女はどちらかというとメアリィに呆れた様子だった。


「それでは、どうぞごゆっくり」


 その言い方だとエロい話が展開するみたいになるんだが。

 人数が少なくなってぐっと静かになった部屋で、義兄は小さくため息をついて。


「エリーと殿下の婚約について、僕が言ったことは覚えているかい?」


 一人ずつ残された使用人は防音の結界の外。

 このタイミングでその話題ということは、


「お義兄さまは、ご自身が家を継ぐのに積極的ではないのですか?」


 フランは少し驚いたように目を瞬いた。


「どうしてそう思ったのかな?」

「殿下と結ばれれば、アルエットは王族入りします。

 ……それが困るとすれば、あの子に家を継いで欲しいか、あるいは、二人のどちらかに懸想しているかではないかと」

「さすがだね。正解だよ」


 王子との禁断の愛、でももちろんない。


「唯一の直系男子ですし、お兄さまが継ぐものと思っておりました」

「僕はアヴィナが継いでも良いと思うけど」

「ご冗談を」


 さすがに血の繋がりがない子では無理があるだろう。


「それに、わたしは神殿関係で忙殺されそうですので」

「それは確かに」


 こっそり相談するくらいだから当主の意向とは違うはず。


「でも、どうして? 他にやりたいことでもあるのですか?」

「ああ」


 頷いた兄は、いったん結界を止めて執事になにかを持ってこさせた。

 ……テーブルに並べられたのは、キャンバス?

 風景画、静物画、それに、人物画。

 精緻な筆致かつ、色使いも見事だ。


「少し、お養母さまの絵に似ていますね」

「そう言ってくれると嬉しいよ」


 目を細めて表情を緩める姿に嘘はなさそうだ。


「君はどれが一番良い絵だと思う?」

「人物画でしょうか。こちらが一番、生き生きと描かれているように思います」

「うん、僕もそう思う」


 兄は絵が好きらしい。

 それ自体は不思議じゃない。養母は絵で収入を得ている人間。

 俺も両親から週一くらいで絵の家庭教師をつけられた。


「アヴィナ。僕はね、服飾画家になりたいんだ」

「お母さまのような、ですか?」

「そうだよ」


 どこか遠くを見るような目。


「でも、それは難しいだろう?」

「お母さまはとてもお喜びになると思いますが」

「だとしても、男が女の服を作るのは無理だ」


 まあ、自分で着られるわけでもないしな。

 デザイナーの性別なんてどっちでもいい……とは言え、異性の服を作る者に偏見が向けられるのはありそうな話だ。

 ん? 自分で着られるわけでもない。

 俺はある想像に目を輝かせた。


「あの、お義兄さま。もしかすると女性の服を着るほうにもご興味が?」

「どうしてそうなったんだ!?」

「あら、違いましたか? 女装を認知させてしまえば弱点のほとんどは克服できると思うのですが」


 フランはうっ、と言葉を詰まらせた。

 俺から視線を逸らしつつ、真っ赤な顔をして、


「それはまあ。まったく興味がないわけではないけど」

「ほら、やっぱり! 大丈夫です、お義兄さまならきっとお似合いになります!」

「ちょっ、君がどうしてそんなに乗り気なんだ!?」


 そんなの決まっているじゃないか。


「わたしはおそらくこの国で一番、奇抜な服装に理解のある人間だからです」

「納得しかなくて逆に怖い!」


 ひどい言われようだった。

 ……まあ、義兄が女装するかどうかはともかく。

 彼が服飾画家になるのが難しいのは確かだろう。


「フェニリード家の当主には代々お役目があるのですよね?」

「ああ。当主は領地を守らないといけない。それこそ、命に代えても」


 養父は都に出てきているが、それは分家の当主が防衛を代行しているからだ。

 信頼できる腹心がいるからこその遠出。

 かと言って領地にいては社交界の流行から遠ざかってしまう。

 夫に代わって都で社交に携わることもできる夫人のほうが服飾画家には向いている。


 というか、絵のほうは別に家業じゃなくて養母の趣味だ。

 別に継ぐのが絶対でもない。


「でも、アルエットを後継ぎに推したいのはそれだけではないのでしょう?」

「そうだね。エリーの魔力量が僕より多いことも大きな理由だよ」


 髪色を見ても、フェニリードの血はアルエットにより濃く出ているということなのだろう。

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