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Veil lady ~薄衣姫の革命~  作者: 緑茶わいん
第二章 学園生活の始まりと王子の婚約者候補
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第三王子の婚約者候補 アヴィナ -4-

 みゅ! みゅみゅ。


「あら、スノウったら。外に出られたのがそんなに嬉しいの?」


 みゅっ!

 白い毛玉が俺の膝の上や馬車の座席をぴょんぴょんしている。

 対面に座ったエレナがはらはらしているのが申し訳ない。

 まあ、もこもこだし、床に落ちても痛くはないだろう、たぶん。


「アヴィナ様とお出かけできるのが嬉しいんですよ」

「そうね。ずっと屋敷に閉じ込めてしまっていたものね」


 この子は学園には連れて行っていない。

 寮に泊まっている間は義妹の部屋で預かってもらっている。

 そちらにもうさぎいるのでひとりぼっちというわけではないのだが。


「寮に置いておければいいのですけれど」

「心配なのよね。どこかに連れて行かれる可能性もゼロではないし」


 学園の最上級寮は寮の中で最もセキュリティが厳しい。

 正規の通路を用いるには衛兵のチェックがいるし、迂回するには木立ちを抜けつつ見張りをやり過ごさないといけない。

 部屋自体にも魔導具等で対策をしているが──それでも、寮に置いた物が盗まれたり、壊される危険はある。

 対立する家の人間がひしめいているのだから警戒は必要。


「この子が害されるようなことになれば、さすがに平静ではいられないわね」

「……アヴィナ様が本気でお怒りになるところはあまり想像できませんが」


 ぽつりと呟くエレナ。


「わたしはそれほど慈悲深くないわ。

 罪を犯した人間は罰せられるべきだし、個人的な恨みだって抱くもの」

「例えばどのような罰をお考えなのでしょう?」

「そうね……火あぶりとか?」


 エレナは真面目な顔で「後始末が大変ではないでしょうか」と忠告してくれた。


「え、今の、冗談ですよね?」

「さあ、どうかしら」


 ところで、学園に連れていけないのならどこに行くのかと言えば。

 みゅみゅ。


「ええ、お城が近づいてきたわね」


 ウィルフレッド第三王子に面会である。




    ◇    ◇    ◇




「これはまた可愛──失礼いたしました。念のため検めさせていただきます」

「ええ、お願い。スノウ、暴れちゃだめよ?」


 みゅっ。

 城内への生き物の持ち込みはかなり制限されている。

 魔導具まで使って検査したうえで、基本檻に入れておくようにとお達しが出た。

 小さめの檻に入ってもらい、メアリィが抱えて運ぶ。


「我が儘を聞いてもらってありがとう」

「いえ、殿下のご要望でもありますので」


 婚約者候補となった俺は週一くらいで城に通っている。

 来るたびに緊張するので勘弁してほしいのだが、王子と話すこと自体は苦ではない。

 その中でスノウについて口にしたところ、たいへん興味を持たれた。


「殿下、アヴィナ公爵令嬢様がお見えになられました」

「ああ、入ってくれ」

「失礼いたします、ウィルフレッドさま。ご機嫌いかがですか?」

「いつも通り、元気だ。……その子が、アヴィナのスノウか!?」

「ええ、左様でございます」


 みゅみゅ!

 机の上に檻が置かれると、スノウは前足をついて挨拶をする。

 少年王子の口元がみるみるうちに綻んで、


「抱いてみたい」

「できればお止めいただきたいのですが……」

「だめ、か?」


 王子付きの侍女さんたちは彼の懇願に弱いのか頬をひくつかせた。


「仕方ありませんね」

「やった!」


 こんなこともあろうかと、スノウの爪はしっかりと手入れしてある。

 賢い子なので暴れることもなく、差し出された腕に収まってくれた。

 みゅっ。


「ふわふわだ……! 可愛いなあ、これがうさぎなのか!」

「うさぎを見るのは初めてですか?」

「ああ。近くで見たことのある動物は馬くらいだ」


 であればなおのこと、この愛くるしさはたまらないだろう。

 それにしても、


「スノウったら、殿下のことが気に入ったのかしら?」


 みゅーっ。


「ふふっ、良かった。この子たちは家の者以外にはあまり懐かないそうなので」

「そうなのか? こんなに大人しいのに」

「悪意に敏感なのだと思います。動物と言うのは人の想像以上に頭が良いのですよ」


 猫とか犬も、こっちの言葉がわかってるんじゃないか? って時があるし。

 それにしても……美少年と可愛い動物のツーショットはめちゃくちゃ和む。

 侍女たちも心なしかほんわかしている。


「城でもうさぎを飼えないものだろうか」

「どうでしょう……? 寂しがりやな子たちなので、一羽だけというのは難しいかもしれません」

「殿下。公爵家のうさぎは領地外への持ち出しが厳しく制限されております。

 あまり無理を言ってはいけませんよ」

「そうなのか……」


 しゅん、と肩を落とした王子は「じゃあ、また連れてきてくれないだろうか?」と俺を見つめてくる。


「ええ、そのくらいでしたら」


 快諾するとぱっと表情が明るくなる。うん、ほんと可愛いなこの子。

 もう少し歳が若いとお子様というよりクソガキという段階なので苦手だが、ウィルフレッドのように頭が良くて純粋な子は良い。

 王子付きの侍女がふっと微笑んで、


「殿下がアヴィナ様と婚姻なされば、つがいを一羽ずつ飼うこともできるかと」

「本当か!?」


 おいおい、なかなかの援護射撃だな?

 俺にその気はあまりないんだが……王子付きのメイドも保守派だろうし、できれば俺に勝って欲しいのか?

 しかし、


「ウィルフレッドさま。うさぎを飼うために結婚を決めるのは良くありませんよ」

「うう」


 残念そうにスノウと見つめ合ってもだめである。


「結婚は一生に一度のこと。特に王族のそれは国の行く末に関わる大事です。

 わたしが言うのも不思議な話ですが、慎重にお決めになってくださいませ」

「……結婚か。正直、まだ実感が湧かないのだ」


 そりゃそうだろう、まだ小学生だし。

 俺は「わたしの言うことは一つの意見として聞いてくださいませ」と前置きしたうえで、


「王族にとっての夫婦関係は確かに難しいものです。

 政を共に行う相談相手であり、血を後の世に残すための伴侶であり、後ろ盾を得るための手段でもある。

 陛下と王妃殿下もいろいろなことを乗り越えて今共に歩んでいらっしゃるはず」

「アヴィナ。私は、どうやって選べばいいのだろう?」


 不安そうに見つめてくる少年に微笑み返しつつ「偉そうなこと言ってるなあ」と思う。


「ウィルフレッドさまが信頼できる方を選ぶのが一番です。

 もし、国のために良いお相手をと考えてくださるのなら、皆の意見もよく聞いてください」

「皆の意見?」

「はい。頼りすぎてしまうのもよくありませんが、皆、国のことを思って答えてくれるはずです。

 もちろん、人によって答えは違うでしょうけれど」


 王子は「そうだな」と頷いて、


「フラウは私に『戦うのが大事だ』といつも言うのだ」


 おい辺境伯令嬢、気持ちはわかるが追い詰めすぎは逆効果だぞ。


「アヴィナとフラウも違う。どちらの意見が正しいのだろう?」

「わたしはフラウさまのご意見も正しいと思います。だからこそ、自分で悩んで決めることが大事なのです」


 そもそも俺は人に説教とかできる立場じゃないんだが。

 真っ赤になった顔がヴェールで隠れてくれて助かった。

 って、なんか侍女たちがにこにこしながら俺たちを見てるし。


「アヴィナなら私にいろいろなことを教えてくれそうな気がする。

 フラウはきっと私を鍛えてくれる。……難しいな」

「ええ、よくお考えになってくださいませ」


 仮に王子が「両方だ!」って言ったらわりと通る気はするんだが、わざわざそんなことは言わない。

 この子の結婚相手になってしまったら野望が遠ざかりそうだし。

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