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Veil lady ~薄衣姫の革命~  作者: 緑茶わいん
第二章 学園生活の始まりと王子の婚約者候補
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『大聖女』アヴィナ -7-

 神の衣を模して作ったのでお披露目します、と言ったら巫女たちはノリノリで協力してくれた。

 神官長はだいぶ渋ったものの「業務に支障が出ないなら」と最終的に許可。

 怪我人や病人は俺も協力していったんゼロにしたうえで、最低限の人員を残して集まることに。

 現場待機になった巫女はめちゃくちゃ残念がっていたが。


 部屋を二つ女性だけで貸し切りにして片方で着替え、もう片方でお披露目。

 扉で繋がっている部屋を選んだが、出入り口には見張りも立てた。

 絶対に見せてやらないとばかりの態度で男たちには少々申し訳ないが。


「わぁ……素敵です、ラニス様! まるで神様です!」


 着付けを手伝ってくれた年若い巫女が歓声を上げる。


「そうかしら? 私なんてアヴィナ様に比べたら……もうはしゃげる歳でもないし」

「そんなことないわ。ラニスはとても綺麗よ、ねえセレスティナさま?」

「え、ええ、そうですわね……?」


 自分のメイドに着つけられているセレスティナはそれどころではないか。

 実際、ラニスもセレスティナも見事な出来栄えだ。


 外での業務もあるので適度に日に焼けているラニスの肌は健康的な白さ。

 歩くことで運動になっているからか、腰回りなどはかなりすらっとしている。

 それでいて出るところはけっこう出ているので……巫女でなければとっくに誰かに見初められているだろう。


 セレスティナは色白な上にプロポーションが抜群に良い。

 紐で布を張りつかせることで起伏に富んだ肢体が強調されてぶっちゃけエロい。

 かつ、衣自体は清楚な印象なのが倒錯的な美を生んでいる。


「我ながら良い見立てでした。……これならば皆にも満足してもらえることでしょう」

「アヴィナ様も素敵です! 美しすぎて卒倒する者が出るかもしれません……!」

「メアリィ、あなたは卒倒しないように」

「なにを言っているのエレナ、倒れたりしたらこの美しさを十分に堪能できないじゃない!」


 年齢的に、エロさで言えば俺が一番薄いか。

 しかしそのことが余計に神々しさを生み、約一名を除いてみな直視することを避けるほどだ。


「思ったよりはいやらしくありませんけれど……これは分類上、夜着の類ですわよね?」

「清らかな衣を纏うのは巫女としての誉れ。であれば、こちらは最上位と言っていいのでは?」

「アヴィナ様、巫女は娼婦ではありませんわよ?」


 俺の世界では同一視される場合も割とあるんだよな、それ。


「二の足を踏まれると思いまして、仮面も用意してあります」

「あら。アヴィナ様のものよりは随分小ぶりですのね?」

「わたしの仮面は特注品ですし、目も口も覆ってしまいますので」


 目の周りだけを隠すタイプの一般的な仮面である。


「この程度でも印象はだいぶ変わります。仮面舞踏会もそういうものでしょう?」

「そうですわね。仮面を着けている間では誰でもない──決まりごとによる暗示のような面はありますわ」

「誰でもない……」

「そうよ、ラニス。

 仮面を着けて、衣を纏っている間は『ラニスという巫女』ではなく『名もない神の使徒』になるの」


 エレナが差し出した仮面をラニスは恐る恐る手に取り、顔につけた。

 はぁ、と。

 桜色の唇から吐息が漏れ、靴がゆっくりと鏡の前へと向かう。

 目元が隠れることで印象が変わり、サファイアのような瞳だけが浮かび上がる。


「ああ」


 吐き出された声に恍惚の色が混じっているのを俺は確かに聞いた。


「アヴィナ様? これは、染まってくださったのでは?」

「ええ。作戦成功ね」


 こういう時、メアリィは悪だくみに乗ってくれるので助かる。

 俺はそっとラニスに歩み寄ると腰を抱くようにして。


「どう、ラニス? ……生まれ変わったみたいでしょう?」

「あ、ああ。いけません。いけません、アヴィナ様」

「どうして? なにもいけないことはないわ。ただ、神に近づく努力をしているだけ」

「……やっぱりいやらしい衣装なのではありませんの?」


 着た者が興奮する=エロ衣装なら高校の制服だってエロ衣装だが?


「本番はこれからです。奇跡の検証も行わなくてはなりませんので、皆のところへ参りましょう」

「まあ、女性だけでしたらこの際構いませんけれど」


 ぶちぶち言いつつもセレスティナもついてきてくれて。


「わぁ……!」


 完成品を三ついっぺんに見せられた巫女たちはいっせいに黄色い声を上げた。

 続く言葉は「素敵」と「煽情的」で真っ二つだが。

 感動している者の中には祈りの姿勢を取ったり泣きだしている者までいる。


「アヴィナ様だけでなく、ラニス様も、こんなにお美しいなんて……!」

「アヴィナ様のお考えが少し理解できたように思います」


 一気に注目を集めたラニスは軽く膝を震わせていて。

 両腕が身体を隠そうと動くので、エレナに命じてしっかりと立たせた。

 わりといっぱいいっぱいという感じだが……。

 俺はこう見えて大人の女の機微はたくさん見てきている。

 なので、それが羞恥だけでなく、露出で気持ちよくなっているのは一目でわかった。


 ──清楚な巫女を露出沼へ堕とすのは若干気が咎めるが。


 正直、めちゃくちゃ気持ちいい。

 同好の士をようやく増やせたと、仮面の下でにんまりしてしまう。


「ところでラニス。なにか、自分の限界まで奇跡を行使したことはないかしら?」

「え。ええと、そう、ですね。神の石の作成に挑戦したことがございます。

 その際はこのくらいの大きさだったかと」


 ビー玉くらいのサイズを指で示してくれる。


「それなら、その大きさを超えられれば明確な証明になるわね」

 セレスティナさまも挑戦されたことがございますか?」

「ええ、まあ。……欠片のような石が落ちただけでしたけれど」

「では、もう一度試してみましょう。

 わたしは初めてですので比較できませんけれど」


 三人並んで跪き、聖印に触れながら祈る。

 作るべき『神の石』の見本は俺とセレスティナの手元にあるので迷うこともない。

 これと同じものを、と願えばいいだけだ。


 光が生まれ、部屋をいっぱいに満たしてなお輝く。

 誰もが眩しさに瞼を閉じただろう。


 そんな、神の存在を感じずにはいられない光景の果てに。

 それぞれの前に、それぞれの生み出した『神の石』が置かれていた。


「……これが、神の石」


 床自体がそうなのだが、でかすぎて実感のない巫女もいるらしい。


「どうやら、成功のようですね」


 体力の限界までマラソンした後のような疲労感。

 メアリィに抱き留めてもらわなければふらついてしまいそうな状態で、なんとか微笑む。

 俺の生んだ神の石は握りこぶしほどの大きさがあった。


 が、別に俺のはどうでもいい。

 重要なのは経験者の石の大きさ。


 ラニスの石は、体積で言えばビー玉大の倍近く。

 セレスティナの石もピーナッツほどの大きさがあった。


 二人はその結果に目を見開いて。


「こうして見ると成果が一目瞭然ですね……」

「……これではあまりアヴィナ様を責められないではありませんか」


 もちろん、この程度の石ではあまり利用価値がない。

 俺の石でも聖印にするにはまだ足りないし、加工にも奇跡がいる。

 聖女クラスが何度も倒れそうになりながら石を育て、ようやく完成するのが『神の石の聖印』だとすればそれは高価だ。

 人手不足のこの状況ではなおさら、こんなものを量産している暇はないわけで。


「誰か、神官長さまを呼んできてくれるかしら?」

「ちょっ、殿方にこの姿を見せる気ですの!?」

「お父様ほどの歳の方、しかも聖職者に見られたところで問題はないでしょう?」


 呼ばれた神官長も「なんでこんなところに呼び出した」という顔をしたものの。

 生み出された神の石を見ればすぐに顔色を変えた。


「いかがでしょう、神官長さま?」

「……これほどの成果が出るのならば、すぐにでも対処せねばなるまいな」

「し、神官長!?」

「ラニス、其方も理解しているはずだ。残念ながら、アヴィナ様が正しい」


 聖印の質で奇跡の効果が変わるのは過去の検証で証明されている。

 石の生産が現実的になれば皆の能力を底上げできる。

 そのための余裕を捻出するためには、神に近しい格好をすることが有用だ。


「セレスティナ様、ならびにラニスはその衣を少しずつ神殿内に広めて欲しい」


 神に似せた衣+仮面のセットが段階的運用を開始。

 初めは自室だけで着るところからだが、二人をこれに慣らしつつ、効果が持続するか確認するところから本格的な実証試験がスタートした。


「わたくしは着飾るのが好きですのに!」

「落ち着いてくださいませ、セレスティナさま。わたしが今度はお洒落に付き合いますので」

「……言質を取りましたわよ、アヴィナ様」


 ここぞとばかりに布多めの服を着せられた俺は、休日の学園を練り歩かされた。

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