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Veil lady ~薄衣姫の革命~  作者: 緑茶わいん
第二章 学園生活の始まりと王子の婚約者候補
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【閑話】学園での生活

 貴族学園の授業は前世で言う大学に近い形態を取っている。

 授業は平日五日間、午前午後四コマ分行われる。

 教師ごとに「この時間にこの講義を行う」というのを発表しているので、その中から興味のあるものを選んで受講する。

 すべての時間を授業で埋めなくとも構わない。

 自習のほうが捗る場合もあるかもしれないし、空いた時間に社交をするほうが将来の役に立つかもしれない。

 損得関係なく遊び惚けるのも個人の自由、システム的にも成績不良による退学は存在しないので、中にはそういう生徒もいる。


 ──ちなみにもちろん、俺ことアヴィナ・フェニリードは好成績の維持が義務だ。


 俺は、平日のうち四日間はなるべく寮に泊まることにしている。

 家から馬車で移動してくるか寮で朝の支度を終えたら、メイドと護衛を伴って部屋を出る。


 基本的についてくるメイドはメアリィだ。


 表情が明るく社交的な気配りに長けているので周りの雰囲気を和ませてくれる。

 エレナは主に寮室に残って掃除や洗濯(※魔導具を使用)、寮に届く手紙や贈り物の分別等を行う。

 どちらかが非番の日はエレナも俺に同行するし、メアリィが授業中に寮へ戻って用事を済ませることもある。

 一時的にメイドが離れる場合でもフェニリード家の私兵が護衛につくので完全に一人にはならない。


 護衛や使用人を従えるのは他の貴族たちも同じだ。

 特に王族ともなると使用人複数+護衛に騎士がつくことも当たり前。

 そのため寮を含めて学園施設の廊下はかなり広く作られている。


「ごきげんよう、フェニリード公爵令嬢」

「ごきげんよう」


 一時間目の授業はゆったりとした時間から始まるものの、歩きながら色んな人に挨拶されるので早めに部屋を出るのが鉄則。

 中にはうっかり、あるいは意図的にお喋りを続けて足を引っ張ってくる生徒もいるので時間管理も大事だ。


 さて。


 俺は教養系を中心に幅広く授業を取っている。

 魔法の実技授業は魔力量の関係で取っても仕方ないので取っていない。

 本当は剣術とかも習いたかったが「怪我をなさったらどうするのですか! それにアヴィナ様の美しいお身体が崩れてしまいます!」とメアリィがうるさいので断念。


 歴史、地理、博物学、魔法理論、古語にダンス、楽器、歌唱など。


 絵画はあまり才能がなさそうなので断念した。

 ここは前世で美少女イラストを見すぎたので逆に絵画的タッチへの親しみを失っているのかも……いや、うん、単にセンスがないだけか。


 座学の授業に使われる部屋は座席が段差になっていることが多い。

 これなら背が低い生徒でも黒板が見やすいからだ。

 あと、授業態度の悪い生徒もわかりやすいのでばんばん注意される。

 成績は悪くても構わないが素行には厳しいのだ。


「おはようございます、アヴィナ様」

「おはようございます」


 初日から上級生に絡まれまくった俺だが、同級生の友人も何人かできた。

 主に公爵家と縁のある家の令嬢や、神殿の教えに関心を持っている生徒だ。


 特に後者は俺が『大聖女』なのもあって積極的に交流を持ってくれている。

 ……まあ、神様に似ているくせに服の趣味が悪すぎる! と嫌われるケースもあるが。


 教室でも顔見知りと挨拶をして、仲の良い相手と近くに座ったら授業開始までお喋り。

 お嬢様と言っても普通の中学生だな、と言いたくなるが。

 実態としては家のための情報収集や根回しが含まれていたりするのが侮れない。

 なお、


「アヴィナ・フェニリード公爵令嬢。あなたには以前父がたいへんお世話になったそうで」


 俺に声をかけてくる男子生徒はたいてい下世話な興味を抱いている。

 これはまあ『瑠璃宮』出身だから仕方ないんだろう。

 元娼婦なんて男好きに決まっているから誘えば乗ってくる、とか思われているのだ。


「今度我が家にいらっしゃいませんか? とっておきの余興も用意しております」

「申し訳ありません。わたし、殿方との交流は控えるように両親から言いつけられているのです。

 どうぞ、お父様にもよろしくお伝えくださいませ」


 わりと、彼らの父親や兄とは『瑠璃宮』で会っていたりする。

 俺自身もその女の好みや好んでいるプレイ内容などを把握しているし、俺は今でも姉たちと手紙でやりとりをしている。

 あまりしつこくしたり強引な真似をしてきたら「姉たちの心証が悪くなる」かもしれない。

 さりげなく「よろしくお伝え」を強調してやるとだいたい青い顔をして離れていってくれる。


「アヴィナ様はさすが、元娼婦だけに殿方の扱いに手慣れていらっしゃるのですね」


 と、そんなやり取りを見て嫌味を言ってくる令嬢もいるが──そういう奴には「ありがとうございます」と答えてから、


「かの『瑠璃宮』で教育を受けましたのでそれなりの自信はございます。

 と言っても、姉たちのような手管を実践したことはありませんし、まだまだ未熟者なのです」


 これに「つまり処女ということですか?」とか聞いてくる男子には。


「ええ、わたしは紛れもなく処女です。

 かの『瑠璃宮』の女主人が商品価値を貶めるような真似をするとでも?」


 と言ってやればだいたい黙る。

 処女かどうか、性行為の経験はどうかとかぶっちゃけめちゃくちゃ重要なので管理してないわけがない。

 もちろん身請けされた後は家の者が常についているのでそんな暇はない。


 これはこれで「まあ、はしたない!」とか言われるが、キリがないので無視である。

 服の趣味に関してはしたないのは本当だし。

 その他の素行がはしたないかどうかは見て判断してもらうしかない。


 ちなみに俺に敵対的な発言をした相手は俺もできるだけ覚えて後でメモしているし、従者たち──特にメアリィがしっかりチェックしている。


「静粛に、授業を始めます!」


 学園内では身分に関わらず、教師は生徒よりも上位者として扱われる。

 失礼な態度を取ったり授業中のやる気のない態度は処分の対象になりかねないので、たとえ王族でも迂闊には逆らえない。

 まあ、その教師も同じ派閥の生徒には優しかったりするが。


『逸脱した教師や職員がいれば報告して欲しい。出資者の一人として「苦情」を入れられるからね』


 目に余る場合はそれ相応の対処ができる。

 おかげで授業中は大過なく勉強に集中できるのだ。


 ちなみに俺の使っている教本はすべて購入したものだ。

 生徒は経済状況に合わせて「家族や親戚のおさがりをもらう」「安い値段で卒業まで借りる」「使用人に写本させる」などから選ぶことができる。

 借りると楽だし安上がりだが、本に書き込み等はできないので少し大変になる。

 自分たちで写本すると手間はかかるが安上がり。

 ただし、写本は専門の者が手掛けるほうが綺麗にできるので、高位貴族の子は出来合いの本から質の良いものを選び、さらに別途お洒落な装丁をつけて利用する。


 教科書をはじめ、ペンなどの学用品一つ取っても家柄の差が出るのだ。

 ちなみに俺の使うペンやインク壺にはすべてフェニリード家の紋章が入っているため、盗んだりしたらすぐわかる。

 基本的に従者が持ち運ぶので「鍵のかからない場所に置きっぱなし」にすることはほぼない。

 よくある盗難事件はそうそう起こらないわけだ。


 ──ほんと、この辺りは公爵令嬢で良かった。


 領地の事業的に動物の皮が手に入りやすいのでノート代わりに獣皮紙もほいほい使える。

 まあ、なんの皮かって言ったら主に「うさぎの皮」なのだが。

 うちのうさぎは主に毛を取る用で絞めたりはしないので、気軽にスノウたちを可愛がれなくなるようなことはない。あしからず。

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