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Veil lady ~薄衣姫の革命~  作者: 緑茶わいん
第二章 学園生活の始まりと王子の婚約者候補
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プロローグ 公爵令嬢アヴィナ・フェニリード -1-

 俺は、えっちな衣装が大好きだ。

 女の身体は魅せてこそより引き立つと思う。


 清楚な顔して豊かな起伏を隠しきれていない聖職者もいい。

 身軽さ重視という名目のミニスカ女騎士もいい。

 女冒険者は胸や足を惜しげもなく晒してこそ「らしさ」が増す。


 だから、神に転生を告げられた時はこれだと思った。


 自分の手で異世界にえっちな衣装を広める!

 そのためには俺自身が目立って憧れられなければならない。


 目立つにはなによりも可愛くなければ。


 俺は転生特典のポイントをまず魅力ステータスに全振りした。


「18が限界なのか……。じゃあ、後は」


 老化抑制、病気耐性、毒耐性、自然治癒力増加などにまんべんなく。

 生まれも魔力量も幸運も無視した結果──生まれはスラムの孤児だった。


 人買いに攫われ、娼館で育てられ、男爵家に拾われ、高級娼館に流れ着いて。


 いろんなことを教えてもらった高級娼館『瑠璃宮』を出て。

 公爵家の養女として、新しい実家へ赴くために馬車に乗りこんだ。




    ◇    ◇    ◇




 移動の日は十二月の頭、空気のだいぶ肌寒くなってきた頃のことだった。


 公爵家の紋章入りの馬車に乗り込むと外とは雲泥の心地よさを感じて。

 車内を見回せば、天井の中央からランプのような装飾が吊り下がっていた。


「こちらの馬車には空気を温める魔導具を搭載しております」


 胸に大きめのリボン、ふわりと広がった肩にスカートの飾りスリット。

 お洒落なメイド服を纏う公爵家のメイドがさりげなく教えてくれた。


 走り出した車内でヴェールを外し、窓に顔を映せば。


 ──神に選ばれたと言っても過言じゃないような美少女がそこにいる。


 月光を糸にして紡いだような銀髪、夜明けを控えた空のような青瞳。

 染みも傷もひとつもない白い肌に、しなやかで伸びやかな手足。

 さらなる成長を予感させる控え目な胸。

 花開ききっていない成長期の少女特有の儚さを併せ持つ、生きた芸術。


 それが、スラムの孤児から公爵家の養女となったアヴィナの十二歳の姿だ。


 神の現身とさえ呼ばれ聖職者から崇められる美貌は外を歩くのにヴェールが欠かせないほど。

 公爵家が俺を拾ってくれたのもまた、この容姿があってこそだ。

 売られて家を変わるのには慣れている。

 『瑠璃宮』で教わった処世術のおかげである程度の駆け引きもできるようになった。

 今度は公爵家で、俺の目標に向かって邁進するのみ。


 馬車に同乗してくれたメイドはまだ打ち解けていないからか、それとも教育の賜物か、静かな空気を乱すことなく俺の隣に腰かけていた。




    ◇    ◇    ◇




 俺を竜貨400枚──金貨40000枚で買ったフェニリード公爵家は城からかなり近い位置にある。

 都の構造はざっくり言って奥まった場所ほど偉い人間の領域。

 王族に近い地位を表すように、その屋敷はとても広く豪華だった。


 子供ならあっさり迷いそうな広い庭園。

 季節の花が咲き誇るそこをゆっくりと抜けるとようやく屋敷が近づいてくる。

 ほんのりと暖色を帯びた三階建ての豪邸。

 それがフェニリード公爵家の『都用の別邸』だ。


 相談や契約の時にも来ているので初めてではないんだが……。


 国から領地を与えられているフェニリード家は領内に本宅を構えている。

 別邸でこれってほんとすごいな!?


「お待ちしておりました、アヴィナ様」


 迎えには動員できる限り連れてきたらしく、使用人がずらり。

 さらに当主である公爵をはじめとする家人が揃っていた。


「お迎えいただき誠にありがとうございます。……本日より、どうぞよろしくお願いいたします」


 カーテシーと共に一礼すれば、ほう、と複数名から感嘆の息がこぼれた。


「ようこそ、アヴィナ。これからはここが君の家だ」


 フェニリード公爵は四十手前の優しそうな男だ。

 公爵夫人は絵画が趣味だという柔和な美女で、公爵よりも五歳年下らしい。

 加えて、俺より二歳年上の義兄と、三歳下の義妹。


「やあ、アヴィナ。これからよろしく。私のことは本当の兄だと思ってくれ」

「初めまして、アヴィナお姉様。どうか仲良くしてくださいませ」


 二人とも高位貴族だけあって美少年、美少女だ。

 立っているだけで絵になる一家に笑いかけられた俺はさすがに緊張を覚えながら、


「本来であれば素顔をお見せするべきなのですが、どうぞこのままでお許しください」

「ああ。君の顔は少し刺激が強すぎるからね」


 兵器扱いかと言いたいが、実際卒倒しかけた人間がいるからな。




    ◇    ◇    ◇




 さて。


 俺を歓迎してくれた者は家人や使用人以外にもいた。

 話が終わるのを待っていたかのようにわらわらと近づいてきた、小さな毛玉たちだ。

 みゅっ、みゅみゅ。

 小さな鳴き声と共に身を擦りつけ、すぴすぴ鼻を鳴らす彼ら(彼女ら?)もまたこの家の一員。


「はは。この子たちもアヴィナを歓迎しているらしい」

「アヴィナは初めて来た時からうさぎたちに懐かれていたものね」


 そう、丸っこい身体に白い体毛を生やしたこの小動物たちはうさぎだ。

 フェニリード家の領地である国の北方に生息するユキウサギの一種らしい。

 特徴はふわふわした長い白毛を一年中蓄えること。

 彼らの毛はコートや枕などの素材として上質で、領地の収入源の一つになっている。

 そのためこの別邸でもかなりの数が飼われ、家人からも可愛がられている。


 人懐っこく見える彼らは屋敷の人間以外には意外と懐きにくいらしく──。

 みゅ、みゅみゅ。


「あら、この子、抱っこしてほしいのかしら」


 俺を養女として迎える最終基準になったとか。


「公爵さま、抱き上げてもよろしいでしょうか?」

「父と呼んでくれて構わないよ。……もちろん、好きなだけ抱いてくれ」

「ふふっ。では、遠慮なく」


 特に懐っこい一匹を抱っこしてやると、嬉しそうにすりすりしてくる。


「ひょっとして気に入られてしまったのでしょうか」

「それなら部屋に置いたらどうかな。実は妻や娘の部屋にも一匹いるんだ」

「よろしいのですか? その、粗相の心配ですとか」

「この子たちは賢いので心配ありませんよ」


 当人に「どうかしら?」と尋ねると、みゅみゅ! と快い返事。

 そういうことなら、


「どうしましょう。部屋をいただく前に同居人が増えてしまいました」

「それは大変だ。では、まずは部屋に案内しよう」


 公爵が指示を出すとメイドのうち二人が「どうぞこちらへ」と俺を先導してくれた。




    ◇    ◇    ◇




 公爵家の中は白と黒を基調とした高級感のある雰囲気だ。

 けれど、どちらかと言うと白が多めで柔らかさも感じる。


 ──貴族的な威厳では前に見たアーバーグ家のほうが上だが。


 住むならこのフェニリード家のほうが落ち着けそうだ。

 ちなみに屋敷の中も相応に広く、廊下も入り組んでいて慣れるまでは迷いかねない。


「こちらがアヴィナ様のお部屋でございます」


 メイドたちが立ち止まったのはわりと奥まったところにある一室。

 次いで近くに見える別の扉が指されて、


「あちらはお嬢様──アヴィナ様の妹君のお部屋となっております」

「こんな近くに部屋をいただけるのね?」

「長女となるアヴィナ様を次女用のお部屋を宛がうこと、どうかご容赦くださいませ」

「いいえ。むしろありがたいくらい」


 後から姉ができることは養子でも取らない限りありえない。

 名目上だけでも長女と扱ってもらえれば十分だ。


「旦那様のお部屋は別の棟に、奥様とご子息様のお部屋もそちらにございます」


 簡潔でわかりやすい説明と共に開かれた扉の内側には、想像以上の空間が広がっていた。

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