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Veil lady ~薄衣姫の革命~  作者: 緑茶わいん
第一章 孤児からの成り上がり
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神の現身? アヴィナ -8-

「そう。侯爵家とは実質交渉決裂したのね」

「はい。払うとは仰っていましたが、わたしが承諾するとは考えていないようです」


 実際、俺は侯爵家の養女になろうとは思っていない。


 ──女主人とこうして話すのも何度目か。


 俺の行く末が『瑠璃宮』の儲けをも左右するのだからもはや一蓮托生。

 都度こうして相談しなくては成り立たない。


「あなたとセレスティナの両方を抱えれば侯爵家の権力は今まで以上になるわ。……それは避けたいと考えているのかもしれないわね」

「権力を得られるのに、ですか?」

「宮廷魔術師を複数抱え、神殿に強い影響力を持ち、王家との繋がりもある。国をひっくり返しかねない脅威じゃない」

「あ……っ。周囲から反感を買うのを恐れたのですね?」


 俺が受けたような嫉妬だけじゃない。

 王家を打倒して国家転覆を狙える──少なくとも狙えるかもしれない脅威相手じゃ愛国者だって動く。


「賢いやり方ね。でも、現状で十分に利を得ているからこそ、とも言えるわ」

「わたしが対抗するには今のままでは足りない、ということですね」


 露出して遊ぶだけなら今のままでも十分だ。

 姉たちも女主人もいい人だし、今の生活に大きな不満はない。

 娼姫を続けて、給金でえっちな衣装をたくさん作って、適当なところで適当な相手に身請けされる──それだって幸せで魅力的な人生だ。


「アヴィナ。人は望む全てを手に入れられるとは限らないわ。なにをどう足掻いても相いれない、そんな相手も一定数は現れるものなの」

「はい。それは、わたしなりにわかっているつもりです」


 女主人の教えに、これまでの人生を振り返って答える。

 人にはそれぞれの理屈があるし、理屈より感情で動く人もいる。

 全員が心から納得できる答えなんてそうそうない。


「我が儘を通したいなら、対立する相手を叩き潰す覚悟をしなさい」

「はい」

「対立する相手をも納得させたいなら、死にものぐるいになりなさい」

「はい」


 俺の望みは、えっちな衣装をこの世界に広めること。

 生まれてから抱いた二つ目の望みは、食べ物や住むところに困って死ぬ人間を減らすこと。

 病や傷を癒やす奇跡の力は二つ目の望みを叶える役に立つ。


 ──けれど、今のままでは神官長の思想が立ちはだかる。


 人助けに奇跡を使いたいなら彼の派閥を弱体化させないといけない。

 勝ったうえで神官長の理も拾いたいなら、もっともっと強くなるしかない。


 魅力チートしか持たない俺には荷が重いかもしれない。


 顔も覚えていない母親だって、そこまでして欲しいとはきっと思わない。

 分不相応な願いを抱いてしまうのは、きっと俺のエゴ。

 それでも。


「わたしは、わたしのやりたいことのためにみんなを巻き込みます。……みんなに対して責任を取れるように、必死にがんばります」


 それが、俺のできる最善に違いない。


「それで? 具体的にどうするかは決まっているのかしら」

「今のわたしでは敵わないのですから、アーバーグ侯爵家と張り合える家と連携しようかと」


 幸い、リストにはまだ多くの名前が連なっている。




    ◇    ◇    ◇




 方針を定めた俺は今まで以上に活発に動き出した。


「お忙しい中、お時間を作っていただきありがとうございます『男爵様』」

「……ああ。こちらこそ、かの『瑠璃宮』の姫君にお越しいただけるとは感激の極みだ」


 久方ぶりの養父との再会は少々ぎこちないものとなった。

 以前世話になった仕立て屋経由で連絡を取ると、男爵家からは素早く回答があった。

 すり合わせた日取りに屋敷へ向かうと、現男爵から夫人、男爵家の姉妹までもが勢揃いしていた。


 長女の夫──次期男爵である「おにいさま」だけは不在だが、さては万が一にも篭絡されないように遠ざけたな? 

 まあ、別に誘惑する気もないし構わない。

 『瑠璃宮』に来たのがバレていないか心配なくらいである。


 今回の同行者はロザリーだけ。

 危険がほぼないからだ。『瑠璃宮』の娼姫を害したとなれば男爵家くらい簡単に潰れる。

 にもかかわらず心配してくれた姉に感謝しなくてはいけない。


 ──なお、俺の服装は極薄のコートと、その下に着たチャイナドレス(高級版)である。


 高級な酒を数本、土産として渡すと大人たちはごくりと唾を飲み込み。


 応接間に通された俺があらためて告げれば、男爵は緊張した面持ちで答えた。

 彼は、できるだけ俺と目を合わせないようにしている。

 相変わらず賢明だ。


「あ、あんた、どの面下げてこの家に来たのよ!」


 声を荒げたのは次女──かつて下の姉だった女だ。

 今年度学園を卒業、相手方に嫁いで新生活を始める予定になっている。


「わたしは、男爵様に仕事のお願いをするために参りました。それ以上でもそれ以下でもありません」

「っ。その気取った言い方を止めなさいよ、だいたい──!」

「口を慎め! 『瑠璃宮』の顧客には高位の貴族も含まれていると何度言えばわかるのだ」

「っ」


 元姉は、実の父からの叱責を受けるとさすがに黙った。

 夫人もまたあからさまに不服そうにしつつも何も言おうとはしない。

 男爵としては、そもそも妻が勝手に俺を放逐したことが不満なはずだ。

 そのまま抱えていれば何倍にもなって返ってきたかもしれないのだから。


「して、商談とはどのようなことだろうか?」

「その前に、コートを脱いでもよろしいでしょうか? 商談にも関わることなのですが」

「……話に関わるというのならば」


 男爵の了承を得たうえで脱げば、そこには白のチャイナドレス。

 彼らの所有する仕立て屋に作ってもらったデザインを高級店にブラッシュアップさせた品だ。


「良い出来でしょう?」

「ふ、服を自慢しに来たわけ!? そんなに私たちが気に入らないなら──」

「そうではありません。わたしの原案をまず形にしてもらい、それを一流の職人に改良させる。その工程に価値があると考えているのです」


 俺は、持参してきたデザイン帳を男爵たちに差し出した。

 帳──と言ってもただの紙束。

 スケッチブックのように製本した紙を使うほど俺の絵は上手くないので「だいたいこんなの」と言える程度のものにしかなっていないが。


 ビキニ。ローレグショーツ。パレオ。ラバースーツ。

 網タイツにボンデージ、ボディピアスetc.

 思いつくままに描きなぐったえっちな衣装や装飾品の数々がそこにはある。


 その、あまりの『破廉恥さ』に絶句する彼らに、俺はにこやかに、


「費用はこちらで負担いたします。わたしの考える衣装を端から形にしていただけないでしょうか?」

「じ、十分な報酬を受け取れるというのなら是非もない。しかし、なぜこれを当家に?」

「わたしが連絡を取りやすかったから、既に実績をお持ちだからです。もちろん、不都合であれば他に依頼いたします」


 これは基本的に「Win-Win」の提案だ。

 『瑠璃宮』に所属する俺の依頼なら金払いの心配はいらないし、前回と違って大量発注。

 断るとすれば職人への負担が大きすぎると考えた場合か、私怨、そうでなければ「侯爵家と神官長の側に付きたい場合」。

 俺に、かつての姉たちにちくちくやりたい以上の害意はない。

 ないが、男爵家に「いったいどっちに付くのか」と突き付けている面はある。


「……わかった、引き受けよう」


 男爵がそう返答するまでには、さすがにしばらくの時間が必要だった。


「あなた」

「皆まで言うな。我が男爵家に他の道はあるまい。ならばその上で最善を尽くすのみ」

「良いお返事をいただけたこと、心より感謝いたします」


 これで、俺の考えた衣装をハイクオリティで受け取る体制が整った。

 神殿が露出を禁じていても俺は着たい服を着たいし、人助けを神官長派が禁止するのならそれとは対立する。


 これは開戦の狼煙。


「さあ、お互いの主張を賭けて争おうではありませんか、神官長さま」


 俺なりの力で、やれるところまでやってやる。

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