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Veil lady ~転生美少女は、異世界にえっちな衣装を広めたい~  作者: 緑茶わいん
第四章(仮)

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【閑話】婚約記念パーティにて

 王弟テオドールと公爵令嬢アヴィナの婚約記念パーティは城の大ホールにて盛大に行われた。

 これには、女性人気の異様に高い『魔性の王弟』が「売約済み」だと広く知らせる意味もある。


 同時に、婚約者であるアヴィナを「王家が高く買っている」と示すため。

 類稀なる奇跡の才を持ち、成人さえしていないというのに『神』の域に足を踏み入れた天才──突如として現れた美貌の娘は、まるで神が人に与えたようでさえある。

 王家が取り込むのは当然のこと。


 だからこそ、パーティには王族がこぞって参加を表明した。


 主役の登場を控え、参加者が次々と集まってくる大ホールはすでに盛況の模様。

 高級な料理や酒がこれでもかと振舞われ、宮廷楽師による音楽が高らかに響き渡る。

 着飾った貴族たちは笑顔で会話を交わし、このめでたき日を盛り上げている。


「ごきげんよう、ランベール第一王子殿下。ごきげんよう、アーバーグ侯爵令嬢」

「ああ。今日は叔父上のために参加してくれた事、感謝する」

「ごきげんよう。たくさん人が集まって、わたくしとしても嬉しい限りですわ」


 セレスティナ・アーバーグは、婚約者である第一王子ランベールと共にパーティに参加していた。

 まだ婚約者の身であるとはいえ、ホスト役である王族の一員と言っていい立場。

 ランベールと共に会場を練り歩き、積極的に挨拶、会話を交わして場を盛り上げていく。

 晴れの舞台に顔を出すことは同時に広く顔を知らしめ、王位継承争いを優位に進めることにも繋がる。


(テオドール殿下は継承の意思なしと公言していますから、アヴィナ様とは利害も食い違いませんし)


 第二王子の一派も同じように策を巡らせているはずだ。

 第三王子であるウィルフレッドに関しては──まだまだ若い、というか幼い身ゆえ、まだそれどころではないか。

 今日は、同じく幼い婚約者のアルエット嬢をエスコートしようと精一杯、教えられた紳士の振る舞いを実行している。

 その半歩後ろを歩くアルエットもまた、緊張しつつも華やかな場を楽しんでいる様子で──見ているとついにこにこと笑顔が浮かんでしまう。

 と、それを見たランベールが「ふむ」と声を上げて。


「前々から思っていたが、お前は意外と子供好きだな」

「なんですの、それは。可愛らしいものを愛でるのは当然ではなくて?」

「それはそうだが。一見すると小さなものを虐めそうだろう」

「殿下、それはこのパーティの場で口にする必要がありますの?」


 ただの雑談、誰も聞いていないように見えて誰もが周囲の会話に耳を澄ませている。


「はっ。この程度の軽口で俺達の仲にヒビが入る、などと本気で思う者はいまい」

「……まったくもう。そういうところですわよ、殿下」


 苦笑したセレスティナは口元に扇子をあて──さりげなく会場を見渡す。


「それにしても──」

「ああ。思った以上に悲喜こもごも、といった雰囲気だな」


 もちろん表立って嘆いている者など(一部の度を超えた愚か者を除いて)存在しないが、会話の内容をよく聞いてみると、実はあまり婚約に肯定的ではない者もかなりの数、出席しているようだ。

 原因は、


「叔父上は女にもてるからな」

「そうですわね。それはもう、殿下以上に」

「お前以上に人騒がせなあの娘とはお似合いだな」


 幼女から人妻まで無数の女を狂わせる魔性の王弟を奪っていった女狐。

 高位貴族、そして王族らしい服飾のあり方を理解せず、はしたない服を着続ける売女。

 成り上がるためにはどんな相手にも媚びを売る元娼婦の平民。

 あの女のせいで潰れかけた貴族家まである。


 突然現れてあっという間に有名になり、数々の実績を打ち立てたアヴィナは一部の貴族から蛇蝎のごとく嫌われている。

 自業自得の面も多々ある──特に服装に関してはセレスティナも多いに文句があるものの、聡い貴族であればもうとっくに「懐に入る」方針に切り替えている。


 にもかかわらず、今なお反感を露わにしている者は、まあ、かなりの馬鹿か、かなりの馬鹿正直だろう。

 後者に関しては自分の信念を貫き通しているだけなのである種の敬意さえ抱くが、


「陛下のおなりである」


 そんな時、今日のメインイベント開始の合図が大きくホールに響き渡った。

 頷き合った二人は揃って、ホールを見渡せる高台へと移動していく。

 他の王族たちと共に、歩いて来た国王を待ち受け、傍に控える。


「皆の者。今日は我が弟テオドールのために集まってくれた事を嬉しく思う」


 さすがに国の主の演説を前にして声を上げる者はその場におらず。


「我はここに、王弟テオドールと公爵令嬢アヴィナの婚約を正式に発表する」


 宣言を合図にとうとう、今日の主役二人が会場へと入ってきた。

 背筋を伸ばし、規則正しく靴音を響かせて。

 連れ添うように歩いてきたテオドールとアヴィナは、デザインのよく似た仮面を着けている。

 聞けば、どちらもテオドール作の魔道具らしい。


「仮面の恋人、か」


 普通ならば、互いに愛のない者同士──ということになるが。


「──どうせ、容姿に自信がないから仮面を着けているのでしょう?」

「──あの絵姿もどこまで正しいのやら」

「──絵師が養母では贔屓目が入るに決まっていますもの」


 やっかみがふんだんに込められた呟きを、セレスティナは一笑した。


「その程度の者を、公爵家が、そして王家が重用したと本気で思っているのかしら?」


 高台の中央に、二人が。

 参加者の注目を集める中──王弟テオドールは仮面に手をかける。

 ざわ、と、女性を中心にどよめきが走り。

 黒で構成された髪と瞳、どこか中性的でありながらも確かに男性的な、あまりにも整いすぎている『魔性』の美貌が衆目のもとに晒される。

 光を吸い寄せるような漆黒の髪に、深淵を称えた同色の瞳。

 同性でさえも思わずごくりと息を呑み、


「……これだから、叔父上は」


 ランベールが面白くなさそうに呟くのがかすかに聞こえた。

 きゃあきゃあと、女性たちが歓声を上げる中、テオドールは空いている手でアヴィナの仮面に手をかける。

 静寂。


「ああ、これは死人が出てもおかしくありませんわね」


 半ば本気でそう思う。

 参加者が心の準備に費やすことができた時間はほんの僅か──その猶予の後、ゆっくりと、仮面の令嬢が素顔を表して。

 この世に降臨した女神の姿に、誰もが一瞬にして目を奪われた。

 絵姿に贔屓目が入っている、などとんでもない。

 平面の作品では彼女の美しさは表現しきれない。

 それどころか、あの絵が描かれた時よりも確実に、より美しくなっている。


 王弟を『魔性』とするならば、アヴィナのそれは『神聖』な美。

 彼女の纏う赤いドレスは、あちこちに散りばめられた『神の石』がきらきらと照明を反射して幻想的な美を演出。

 あの石を大きさを揃えて無数に用意するなど、お金がいくらかかるかわからない──以上に、着る本人が自分で作るのでもない限り、労力がかかりすぎる。

 買えばいくらになるかわからないあの装飾を、かの令嬢はいともあっさりと作り出した。


 神の現身。大聖女の名は伊達などでは決してない。


 それぞれの素顔を晒したまま、二人は相手の仮面を手にとって。

 その唇にあたる部分にそっと、触れるか触れないかのキスをした。


「ああ、これはだめですわね」


 既に心に決めた相手のいるセレスティナですらくらくら来る。

 きゃあきゃあという声はさらに大きくなり──なんというか、この場面を吟遊詩人が歌い、劇が上演されるのはおそらく確定だ。

 もしかするとこれ以降、婚約パーティで相手の仮面にキスをする伝統さえ生まれるかもしれない。


「……本当に、アヴィナ様ときたら」


 どこかライバルのように思っていたのがもう遠い昔のよう。

 彼女が、本当に手の届かないところまで行ってしまう前に──そう、強く心の中で思って。


「……くそ。まずいな、本当に欲しくなってきたぞ。あれを侍らせたら絶対に気分が良い」

「殿下? テオドール殿下を敵に回すおつもりなら婚約を考え直させていただきますが?」


 めちゃくちゃ失礼なことを言っている婚約者をとりあえず、思いっきり睨みつけた。

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