八十一話.夜明けのルミナリア【ヴェラノラ視点】
紫の閃光がなおも世界を染める中、その下で――彼の姿は、炎に呑まれていった。
……静寂が訪れた。
風が、止まった。
私は、セレスタの隣で目を開けた。
その目の前には、黒から白へ。そして、ゆっくりと青く染まったルミナリアの花が一面に広がりはじめていた。
空は明けきらぬ夜。
だが、その中に、確かな光があった。
セレスタの翼が、ゆるやかに羽ばたく。
彼女はゆっくりと飛翔し、かつてバリストンが立っていた岩場の縁に舞い降りた。
私は彼女をゆっくり歩いて追いかける。
足元には、割れた岩と黒く焦げた花びら。
だがその先に――小さく、白く咲く一輪のルミナリアが。
しかしそれも風と共に深い青へと変わる。
「……終わったのね」
私はその花に視線を落とし、炎の気配を手のひらで感じた。
セレスタは声を発さない。
ただ、私の隣に寄り添い、その長い尾を静かに揺らした。
躊躇しながらも、私の頬に顔を寄せる。
「ふふ……」
ふと、空に一羽の鳥が飛んだ。
それはまるで、この地の浄化を告げるかのように――高く、高く、夜空を越えて飛び去っていった。
竜の咆哮が、遠くへと消えていく。
戦いの終わった火山の頂。
静寂の中、私は白銀の竜の傍に立っていた。
(まだ、終わってない。セレスタを元に戻す方法を考えなくちゃ……)
やることは山積みだ。
そこへ、岩場を駆け上がってくる足音が聞こえてきた。
「陛下――!」
ヴァルディスの声。
彼に続いて、誓焔騎士団の姿が現れる。
皆、岩の隙間を縫い、傷だらけになりながらも必死にたどり着いていた。
おそらく赤翼の残党たちーー私が仕留め損ねた奴らを捕縛してくれているのだろう。
「ご無事ですか!」
影の功労者、ヴァルディスが駆け寄る。
チラッとセレスタを見て、目を丸くした。
「大丈夫だ」と、それも含めて言い伝える。
「ああ、かわいい〜。よしよし」
赫の竜騎士が戦後の空気を和ませる。
セレスタはちょっと困惑しているようだが……。
ヴァルディスと見合って笑う。
私は、肩で息をしながら答える。
腕も、脚も、震えている。それでも、立っていた。
「この場は私が収めた。残党の確認。あとは火口付近の監視を……まだ残っているかはわからんが、魔法陣も調査してほしい。私はこの子のこともある。人民が多く起きる前に王城へ戻る」
そう言って、ヴァルディスを見た。
彼は、僅かに目を細めて頷く。
「了解しました。陛下の帰還が、国にとっての希望となります」
セレスタが、大きな翼を広げる。
私の方へ、そっと身を寄せてくる。
その瞳には、確かに“彼女”がいた。
「行こう、セレスタ」
私は、よろける身体を支えるように彼女の背に手を添えた。
白銀の鱗は、温かかった。
翼が風を掴み、地を離れる。
私は空へ――国へと、帰る。




