七十六話.沈黙の後の、暗闇【ヴェラノラ視点】
風が静かに肌を撫でた。
私はしばらくセレスタの背に乗り、身を預け、空を舞っていた。
彼女の硝子から出る熱波。
小さな水色の花。
それらを眺めながら。
――私は、静かに息を整えていた。
翼の鼓動に合わせて、私の鼓動も徐々に落ち着いていく。
不思議だ。
まるで、この身体ごと抱かれているみたいに。
彼女の翼は大きく、力強く。
――どこまでも優しかった。
さっきまでの戦いが嘘のように、空は朝を迎え始めている。
そっと彼女の背に手を添える。
その瞬間、彼女はわずかに身を傾け、風の流れを緩めた。
――応えてくれてる。
言葉はないけれど、確かに私たちは”分かり合えてる”そんな気がした。
そうしてゆっくりと下降していく。
眼下には、燃える花――ルミナリアが広がっていた。
さきほどまで、レイと戦った場所。
蒼く染まりきった花畑。
美しく、清らか。
しかし、どこか寂しくて。
――終わった。
地に降り立ち、私はふうと息を吐いた。
安堵したことで、感じる体の痛み。
それでも。
隣に彼女がいてくれるだけで、私は前を向けた。
……確か、王城は竜の背に合わせてあるくらい大きいししばらくはそこで……――
と、彼女をどうするか思案していた時。
ふと。視界の隅に、何かが滲んだ。
「……?」
無意識に、足元の花に目をやる。
さっきまで青く煌めいていたルミナリアの一角が――一度白にリセットされたと思ったら、墨を流したように、黒く染まり始めていた。
風が吹くたび、花弁が震え、漆黒の炎の花びらを漂わせる。
その中心。
まさに異変の源となる場所から、何か重たい空気が漂ってきた。
「まさか……!」
息を呑む。
風が、突然重たくなった。空気が軋むように、胸を圧迫してくる。
――来る。
大地が震えた。
火口の奥、マグマの裂け目が爆ぜ、熱と光が飛び散る。




