六話.赫き尾をひく男【レイ(セレスタ)視点】
王都の道を進むうちに、騎士団本部が見えてきた。
城と庭園を挟んだその白壁の建物は、今日も朝陽とルミナリアの花弁によって眩しく輝いている。
門の前で馬を預け、詰所へと足を運ぶ。
鍛錬場からはすでに金属の音が響いており、訓練中の若い騎士たちの掛け声が空に伸びていた。
だが、いつもと違うのは――その合間にちらちらと送られる視線だった。
扉を開けると、詰所の空気がふっと揺れる。
何気ない朝の喧騒の中に、わずかな緊張と気配が滲んでいる。
(……やっぱり、もう広まってるか)
ちらりと視線をやると、壁に張られた新聞の見出しが目に飛び込んでくる。
――『女王、婚約の意向を表明――相手は誓焔騎士団の特務騎士』
――『"貴様、私の伴侶にならんか?"――衝撃の発言に騎士団揺れる』
(うげっ……見出しにされるとは思わなかった……!)
顔が熱くなる。
けれど動揺は表に出さず、黙って自分の机へ向かう。
「おー、婚約者様ご出勤~」
と、今私の中で一番の地雷である台詞を言って近づいてきたのは、カイル。
赤髪ポニテのめんどくさい奴という印象しかない。
「お? 無視かな?」
ただ一人騎士団の公式の白銀の鎧ではなく赫。
それに竜を象った頭の鎧と羽のようなマント。
三つ編みが竜の尾のようで。
竜騎士と言われたらそうだと思うスタイル。
一度窘めたことがあるが「的がいると戦闘が楽じゃん」と言っていた。
中身が女の私でさえかっこいいとさえ思ってしまう。
そいつが軽口を叩きながら、肩を組む。
「……まあいいや」
いつものことと無視をされたことに関して大して傷付いていない。
流石というか、あほというか……。
「でさあ、昨日の夜から、お前の話でもちきりだぞ」
「……普通に任務をする。私はそれだけだ」
「つれないなぁ~。もっと、こう、惚気とか……」
「騎士にそんな義務はない」
「はいはい。お堅いことで」
からかい混じりの笑い声が後ろに引いていく。
代わりに、冷静な声が響いた。
「レイ。詰め所の割当表を確認しろ。今日も巡回任務だ」
橙の瞳と黒混じりの赤髪――騎士団隊長が、変わらぬ冷静さで命じる。
その言葉に内心安堵しながら、私は静かに一礼した。
「了解しました」
地に足をつける。
ここが私の務める場所。
何があろうと、私は“騎士”として与えられた任を果たすだけだ。
それが、この国を守るということ。
――あの、炎を背負った王の隣に立つために、私がすべきこと。