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六十八話.焔を解いて【ヴェラノラ視点】


 赤と青の焔がぶつかり合い、空気が引き裂かれる。



 爆ぜた衝撃が花畑を揺らし、ルミナリアの青い花弁が吹き上げられる中――

 私は足に力を込め、跳躍した。

 風を裂く。

 そのまま、マントにしていた炎を翼へと変える。

 焔の翼が展開され、私は宙を舞う。



 高く――さらに高く。



 火山の噴火口を越えるほどの高度まで、一気に駆け上がった。

 視界が開け、地上のルミナリアの海原が遠ざかってゆく。


 だが、彼もすぐに追ってきた。


 黒衣の影が、岩壁を蹴って跳ね上がる。

 左右に飛び石のように跳びながら、重力すら無視するような跳躍。

 落下の勢いを推進力に変え、空中を斬り裂いて迫ってくる。



「セレスタ……っ、お願い……!」



 私は叫んだ。



「私よ、あなたの――」



 けれど、言葉は炎にかき消された。



 青い焔が、空を薙いだ。



 その一撃は軌道が読めず、私は咄嗟に判断する。

 回避は間に合わない。すぐに炎の盾を展開した。



 赤と青の火が空中で交錯し、再び紫焰が爆ぜる。


 咄嗟の防御で直撃は避けたが、翼の片方が裂け、制御が乱れる。

 高度を失いながら、私はどうにか体勢を立て直した。



「セレスタ、聞こえてるんでしょう……! どうして……!」



 再び叫ぶ。



 だが、声は虚空に消えるだけ。

 返事はない。




 彼の目は、まだ冷たいまま。



 ――けれど、完全な“無”ではなかった。



 一瞬、青い炎が揺らいだ。

 その奥に、言葉にはできない“微かな歪み”が見えた気がした。

 私は確信を持てないまま、再び地上へ滑空する。



 彼もまた、降下してきた。

 地面に着地したと同時に、彼の拳が岩を砕き、破片が爆ぜた。




 人外じみた身体能力。

 今の彼は、手加減などしていない。



 本気で――私を、殺しに来ている。



「……いいわ。なら、私も本気で守る」



 私は拳を握った。




 この身に宿る炎で――あなたを包み、取り戻す。



 炎が交差し、視界が歪む。

 青と赤の焔がぶつかり、紫の閃光がまた空間を裂いた。



 私はわずかに距離を取る。

 再び火を掌に乗せようとした。



 ――が、

 このまま戦えば、互いに傷つくだけ。それは分かっていた。


 そして、分かってしまった。

 このままでは、彼女の心に届かない。


 だから――




「……セレスタ」




 私はそっと、手を下ろした。




 炎が、指先から消えていく。

 身体からも、消える。



「私は、あなたを傷つけたくない」



 防御を解き、焔の翼を収める。

 まるで、心臓をさらけ出すような覚悟。



 髪は乱れ、肩は裂け、血が頬を伝う。

 燃えた外套の裾はちぎれ、息は荒い。



 けれど、それでも――


 彼女を想う気持ちだけは、まだ燃えている。


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