四十五話.恋文の晩餐【ヴェラノラ視点】
陽が傾き、山へと落ちる。
晩餐会へ向かうため、私は王城の外へと馬車を走らせていた。
隣にはヴァルディスが控えている。
「今日は一段とオシャレされてますな、アッシュ様」
「ふふ。そう思うか? であれば、いい選びだったということだ」
平時の。
いや、パーティの時でさえ着なかった。
白いドレス。
そしてベルトと首飾り。そしてイヤリング。
金色に合わせた。
シンプルなもの。
しかし、存在感を示すような、威厳は失われず。
イグニス王国の女王である私――ヴェラノラ・アウレリア・イグニス。
その象徴である赤をずっと着てきた。
これまで、赤を纏うことにほこりを持っていた。
兄曰く、竜から吐き出された赤。
……それが、今宵だけは白。
まるで、少女に戻ったような――そんな無防備な色を私は選んでしまった。
我ながら自嘲する。
――が、胸の内はなんだか昔に戻ったみたいで。
あの手紙には、確かにあった。
――『急ですが、今夜我が邸にて晩餐会が開かれます。よろしければご出席を』
(レイが……私に誘いを……)
あの子から招待状……。
思い出す度に、自然と口許が緩んでしまう。
まるで恋する乙女だ。
「……何度も確認しますが、本当に彼からの招待状だったのですな?」
ヴァルディスの問いに、何度目かになる頷きを返す。
確かに鳥での通達。
筆跡は彼のものだった。
しかし急いで書いたような……。
「封蝋もあった。騎士団のものだったし、彼にしか書けぬ文字だよ。間違いない」
私も正直一抹の不安は拭えない。
しかし、それでも彼が初めて私に願った。
行かないわけにはいかない。
どちらにしろ、楽しみだ。
馬車が屋敷に止まる。
外に降り立った瞬間、青いルミナリアに目を奪われる。
けれど、どこか――。
ほんのわずかに、胸の奥をざわつかせる違和感も、確かにあった。
大扉は開かれ、中から溢れ出すのもまた青い花。
そして灯火と音楽。
華やかな香り。
少々参加者は少ないがあえて、だろう。
ゆっくりと静かに楽しみたい者たち。
天井は王城と同じで、伝説の竜が通れるくらい広い。
水晶のシャンデリアが下からの光に照らされて、青白く光る。
「これは、思った以上に綺麗ですな」
「ああ。しかし、いいではないか。あの子が私を招いたのだ。嬉しいことこの上ない」
「心の声駄々洩れですな」
「うるさいぞ、ヴァルディス」
そうして少々高めのテンションで扉の前まで進む。
しかし、「申し訳ありません」と声がかかる。
低く、しかし丁寧な。
バリストン配下と思われる黒衣の私兵が一人、道を塞ぐ。
「本日の晩餐会には、招待状を受け取った方のみのご案内となっております。ヴァルディス卿、招待状はお持ちでしょうか?」
「いえ、生憎私には……」
ヴァルディスは、軽く肩を竦める。
「ならば大変申し訳ありませんが――」
彼の言葉に私はわずかに眉をひそめる。
「私は招待状がある。レイが私を呼んだのだ。……であれば、ヴァルディスがその隣にいて、何の問題がある」
少々圧をかけた形になってしまった。
若干たじろいでいた。
「あ、あの方が……? しかし――」と、しどろもどろ。
「陛下。私は大丈夫です。中でゆっくりと過ごしてきてください」
ヴァルディスが静かに下がる。
しかしその目には獅子が宿っていた。
ヴァルディスはまだ怪しがっている。恐らく外で何か探るつもりだろう。
その姿を一瞥し、私はしばし迷った。
だが、気を取り直し進む。
――胸が高鳴る。
ヴァルディスはああいうが……やはりどうしようもないな。
苦笑する。
騎士の彼が、何を見せてくれるのか。
どんな言葉を贈ってくれるのか。
彼が何を背負っているかは問わない。
ほんの少しでも、あの子の心に触れられるなら――。
蒼いルミナリアの花畑の中。
紛れる漆黒には気づかずに。
会場へと足を踏み入れた。




