三十三話.仮面の焔、恋に踊る【レイ(セレスタ)視点】
――本当は。
この場で全てを吐き出して、ただ”あなた”に縋りつきたかった。
けれど。陛下の耳元に、 ふわりと揺れた――あのイヤリング。
過去を運命を、そして今をつなぐあの小さな証。
それが私の心をさらに締めつけた。
この人に、すべてを託したい。
けれど、今はまだ――。
(私は、“レイ”だ。まだ”セレスタ”ではない……)
指先が小さく震えた。
けれど陛下は、何も言わず微笑んで――静かに、手を引いてくれた。
「さ、今宵は祝いの場。踊ろう」
流れ出す音楽。
優雅な旋律が、私の耳を通り過ぎていく。
けれど、拍子すら掴めていない気がした。
手を引かれるままに、私は歩き出す。
誰もが見守る中。
私は、この人と――踊り始めた。
陛下の腰に手を当て、もう一方の手でそっと手を取る。くるり、と回れば、桃色のドレスがふわりと揺れた。
耳元で、イヤリングが煌めきを弾く。
(……やっぱりそれは、私と……)
見間違えるはずがない。
子どもの頃に手渡した、小さな片割れ。
まさか、今――彼女の耳に、それがあるとは。
体が、硬直しかける。
けれど、陛下は何も言わない。
あの穏やかな微笑みのまま、ただ、私を見ていた。
――が、私は目を伏せる。
(どうして……)
口に出すことなどできなかった。
心が、胸が、喉の奥が――言葉を塞いでいた。
まだ、私が持っている事も知らない。
しかし、きっと私の中の”何か”は感づいているはず。
仮面のように取り繕ったダンス。
けれど舞いは嘘をつかない。
私は確かに、あの人に焦がれていた。
焼けるくらいに。
手のひらに伝わる体温。
腕を添えるたびに感じる、しなやかな芯のある動き。
踏み込むごとに、私の仮面に入るヒビが広がっていく。
(隠しきれるはずがない……!)
仮面が崩れる音が、胸の奥で鳴り響いた。
だけど私は、まだ“レイ”として立っていなければならない。
ただ、願ってしまう。
(せめて、今だけは……)
この手を離さないでほしい。
この夜だけは、夢のままであってほしい。
ひたすらに心がパンクしそうな中、私はどうにか平静を装っていた。




