二十六話.秘すれば焔【ヴェラノラ視点】
戦いの熱がようやく引いたのは夜。
ルミナリアの灯りと騎士団の調査兵の魔法の灯り。
これにより、半ば焼け焦げた草木。
そして地面があちこち陥没していた。
私はその焼けこげた花壇を踏み越える。
向こう側には城壁の内側にめり込んだ木。
剣も鎧も持たぬ体で地面を砕き、木を引き抜いている様を見た。
我が炎も天を焦がし、地を焼き尽くす勢いではあったが、――これは人が持てる力を越えすぎではないだろうか?
となると、お茶会にて頑なに触ろうとしなかったのも窺える。
まさに戦闘に特化した、騎士というわけか。
それを己の手で、懐柔するのも悪くない。
ふ……と人知れず微笑む。
「ご無事で何よりです、アッシュ様」
「ああ。ヴァルディスか」
私はその声に振り返った。
ご自慢の赤いカイゼル髭をいじりながら待機していた。
今や誰も呼ばなくなった幼名――アッシュを使う右宰相、カルロス・ヴァルディス。
両親が亡くなったりや兄が出て行ったあの日から。変わらず傍にいて助言をくれた。叱咤も、激励も全部。
良き右腕であり、時に父のような存在だ。
元は騎士団に身を置いていた人物で、幼い頃の私に剣を教えてくれたのも彼だった。
「随分と……暴れましたな」
「いや、これは……レイだ」
「バリストン卿の養子、でしたな。ここまでとは……」
「ああ……」
燃えるように咲き誇るルミナリアが、青く淡く、風に揺れていた。
そっと一輪、手に取る。
掌に宿った蒼き焔は、どこか怯えるように――わずかに、しぼんだ。
まるで彼の心を写しているようで、ふと胸が締めつけられる。
(あの時、確かに……あの炎の中に、彼はいた)
――『陛下の炎が、素晴らしかったんだと思います』
別れ際、脇腹を押さえながらも恥ずかしそうに笑っていた姿が、脳裏に浮かぶ。
お茶会の彼も、この惨劇の一部を彩ったのも彼。
(どれくらいの焔をおまえは一人、抱えているのだ?)
……せめて私の力で助けられないだろうか?
と、付近の青のルミナリアを紫に変え、大輪を築き上げた。
後ろで私の手遊びを見ていたヴァルディスがぽろりと呟く。
「調べましょうか? 彼を」
「……うむ。頼めるか?」




