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二十三話.揺らいだ瞳、強さの証【レイ(セレスタ)視点】


 お茶会からしばらく経ったバリストン邸。


 邸の外で座っていた。

 今日は騎士団の仕事は休みだ。

 ただ、叔父様と手合いを約束したので、レイの姿になっている。


 ぴっちりした黒装束はなんだか恥ずかしい。

 しかし、動きやすくて普段の鎧よりも楽だ。



「もう頭痛はよいか?」



 頭を撫でられ、パチンと指をはじく音。

 ハッとして、青い花(ルミナリア)を撫でていた手を止める。

 上を見上げると叔父様がいた。



「大丈夫です」


「で、お茶会はどうだった?」


「正直あまり覚えていなくて……」



 と、ついつい頬を赤らめてしまう。

 本当は覚えている。


 ふわふわだった……。

 頭を抱える。



「ほう……」



 あまり面白くなさそうだ。

 少々浮ついた表情を向けてしまったので慌てて正す。



「バリストン卿、少々任務に関して……」


「ん?」



 叔父様の私兵が立ち寄る。

 ぺこりとお辞儀した。

 彼らは私にはなぜか低姿勢だ。


 影であの方呼びまでされているらしいと侍女から聞いた時はなんだかむず痒かった。

 後継者として見てるなら仕方ないのかな……。

 私なんかがなれるとは思えないけれど。


 そうはいっても、私も低姿勢になることが多い。

 結局お互いペコペコするのだ。

 それで叔父様が笑うのがいつも通りの流れ。


 今回はそれがない。

 立ち入ったことだろうか?


 でも、この表情は悪戯の気配。

 何か企んでるな。


 手合いでなにかするのか。

 それとも私兵の任務がそれほど重要なのか……。


 随分話し込んでるから今日は無理なのか。私から中止を申し出よう。

 そう思い口を開く。



「叔父様……今日は――」


「後で話をしよう。――大丈夫だ。問題ないよ、レイ。始めよう」



 私が提案する前に制止される。

 するりと黒い真剣を抜いた。

 ここでの手合いは騎士団のような生ぬるい木刀じゃない。



「本気でいいからね、レイ」


「は」



 唯一加減が分かってるのはしっかり育ててくれたからだろう。

 私兵は隅で観戦するらしい。

 なんだか目が異様に輝いてるのは見間違いじゃないはずだ。


 それはそうとして、叔父様だ。

 相変わらず隙がない。


 剣先はこちらに向いていない。なのに、どこか――妙に穏やかに見えた。

 攻めるでも、威嚇するでもない。



 ……あれは、守る型だ。


 昔からそうだった。


 私が稽古で転びそうになった時も、初めて剣を持った日も。

 叔父様は、いつもあの構えで私の前に立っていた。


 ――『相手を倒すための剣じゃない。誰かを傷つけないための剣だ』


 そんな言葉を聞いたことはないのに。

 彼の背中が、いつもそう教えてくれていた気がする。


 倣うように私もその構えを。


 しかし、このままだと見合ったまま時間が経つ……。

 いつものことながら、先に先手をうつことにした。


 邸にある三階の自室が見えるくらい宙を舞う。


 眩しそうに叔父様がしているところを上段から剣を振るう。

 それを重そうに、横に弾き飛ばされる。



「逆光を狙ったのか? 流石私のレイ」



 と、今度は転んだ私を狙う。

 一気に地面を刺してきた。

 躊躇もなにもない。


 冷や汗が背中を伝う。



「て、手加減してください」


「君にか? 流石に無理だよ」



 なんだか、楽しそうだ。

 昨晩、お茶会の事を伝えた時は険しかったからよかったと胸をなでおろす。

 恐らく、頭痛がひどかったから心配してくれたんだと思っている。


 一度後退して私は体制を整える。


 剣を握り直して横から薙ぎ払う。

 私の素早い切っ先はぎりぎりで躱された。



「今のは危なかったな」



 軽口を叩く叔父様に再び二回三回……と斬撃を与える。

 すべての剣筋を見抜いていく叔父様。



「ハァッ……! ハア……」


「ふう。これで今日はやめよう。ふふ……これ以上は私が持たないよ」



 どうしても勝てない。

 今日も先に私の方がバテてしまった。


 ただ、オールバックの叔父様の髪が少し乱れていた。

 私の変身も。


 ――ってことは、叔父様も私以上に切羽詰まってたのかな?

 ちょっと嬉しそうに報告する。



「……変身、切れちゃいました」



 困ったようにそっと顔を上げた。


 ふわりと広がる私の髪。

 黒衣のレイの衣装。

 でも私でもぴっちりしてて。

 なんだか、妙に照れくさい。


 その瞬間、叔父様の目が微かに揺れた。

 どんな戦闘でも外交でも決して動じない。

 普段は黒だが、おそらく陽の光の反射で、氷雪のような白い眼が――わずかに。



「……お疲れ様」



 一拍遅れて、低い声を落とす。

 やっぱり、目線は合わせてくれなくて。


 私は青いルミナリアの花畑にペしゃんと座った。

 ……これほど私が成長したってことでいいのかな?


 この自信を持って、また生垣に行ってみようか。

 休息のためだ……。休息の。

 と、陛下の手が触れた頬を撫でた。




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