二十二話.残紅に恋ひて【ヴェラノラ視点】
レイの去った後。
月下の間の入口にルミナリアの蒼が舞う。
ふっと静けさが戻った。
しかし、今はこれでいい。
頬が熱い。
喉が渇く。
手も暑い。
まさか握手しようとした手に甘えて来るとは……。
自分から頬を寄せ、どうにか頭まで持ってくる姿。
――屈強な者から小動物が出て来るとは思わん。
堪らないと思わず口を塞ぐ。
私から撫でてやればよかったのだろうが、あえて動くことはなかった。
動けなかったのも確かだが……。
――しかし。
(あまりにも愛らしい)
愛らしすぎて、掌の奥から炎がこぼれそうになるのを必死に抑えた。
これは己を褒めなければな。
そして本心を隠す彼。
もっとはがしたい。
父母はいない。
バリストン卿の元にいて、養子……。
その跡継ぎとして厳しい素養、剣技を鍛えられているはず。
きっと本心では誰かに甘えたいのだろう。
すっかり冷めてしまった残りの紅茶を飲む。
「あ」
カップを降ろし、唇を指でなぞる。
確かここに口をつけさせて、飲ませた。
些細なことを思い出して、胸がいっぱいになるとは。どうかしている。
これも彼の一面に触れたせいだ。そう思いたい。
それより引っかかるのは――
(仰せのままに、がなかったな)
少々寂しさはあった。
しかし、どこかで安堵もしている。
すべてが新鮮だった。
ほとんど会話は覚えていない。
(今日のレイ、自分の意思なのだろうな。素があれなら愛らしすぎる……)
他の騎士は平時でも自然体でいると分かるが、レイの場合は違う。
壁があるのだ。
いずれ壁を壊したら、本当の彼がわかるのだろうか?
――楽しみだ。
しかし、あの少年かどうか……分かりやすくイヤリングを晒したが……無駄だったな。
そもそもヤツは私を見ようとしない。
恥ずかしがり屋め。
レイから貰った掌の熱はどんどん冷めていった。
ルミナリアが赤に変わっていく。
「はあ……いつもいつも逃げおって。次はもう少し長くいてくれよ」




