二十一話.甘焔に融けていく【レイ(セレスタ)視点】
「……お前のような者にそばにいてほしい。出だしがどうであれ私はそう結論した。二人きりの時は甘えていい。これからよろしくな」
そう言って静かに手を差し出す。
柔らかな掌は、暖かそうで……。
――甘えていい。
既に私の頭は真っ白だし痛む。
思考が追い付かない。
いつも言う仰せのままにも、どうしても出てこない。
甘えていいと言われ、差し伸べる陛下の手が握手を求めている。
そんな簡単なことも頭の隅ではわかっていた。
しかし、差しだしたのは手ではなく――。
――ぽす。
「……ん」
獣が信頼する相手に甘えるように。
私はそっとその掌に頬を寄せた。
あったかい。
自分からすり……と動かすと何とも言えない気持ちになった。
目を閉じる。
――ああ。……もう少し上だと、頭か。
ぽーっとする頭で考える。
すりすりしながら、どうにか上へと持っていくようにする。
あたたかな手がちゃんと乗ったのを感じてから、自分で動かす。
撫でられている。
あたたかな手が私の白い髪に入っていくのが感じられた。
これは頭痛に効く……。
「……――っふぅ」
気持ちい。
目の奥の痛みが、やわらいでいく。
このまま、腿にさえ頭を預けて、寝てしまっても――許されるんじゃないかと錯覚するほど。
私はこれを誰かに……――。
子供のころの記憶と重なる。
誰かの手が、髪を撫でてくれた……。
「―――は!!!?」
我に返りふと見上げると、陛下が固まっていた。
完全に言葉を失っている。
しまった。
(……やば)
咄嗟に飛び退く。
椅子が倒れるのも気にしていられない。
「……っ、その、も、申し訳――!! いっ、今から任務がありますので、し、しつれいしました……。おじかん、……さ、さいていただき、あ、ありがとうございます」
呂律がどんどん回らなくなる。
お構いなしだ。
頭を深く下げ、速足でアーチの元へ。
やたらと心臓と頭が痛い。
アーチの所にぶつかり、ルミナリアを散らす。
恥ずかしくはあったが正直……とてもよかった。
(”もっと”なんて……絶対口が裂けても言えないな)
しかし身も。心までとても軽い。
だからこそ、また会いたいと思ってしまった。




